≪年越し≫
そろそろ、年が変わる頃か――そう思って時計に目をやると、ちょうど針が真上を過ぎる瞬間が見えた。
年が変わるその一瞬を時計で確認できた事が、なにやら妙に愉快な気分だ。
窓の外が、少し賑やかになる。
どうやら近くで新年という時間を祝っている誰かがいるらしい。
新年となったから、その瞬間に何かが変わるというわけではないはずなのだが。
『どうしたの、レイジ?』
会話が途切れた事をいぶかしく思ったのか、電話の向こうのメイがそう言ってきた。
ああ、今はメイとの電話の最中だった。
だが特に用事があるというわけではなく、ただ互いに相手の声が聴きたいというだけの、沈黙の時間すら時折含まれるような他愛もない『無駄な』電話であるわけだが……。
ちなみに国際電話なので、後で料金の請求を見るのは怖い。
「あけましておめでとう、メイ」
とりあえず料金の事は忘れて、電話の向こうのメイにそんな事を言ってみる。
今までの会話とは、まったく繋がっていない発言だ。
さて、自分の言葉に、メイはどのような反応を返してくるだろうか……。
『そう、そっちはもうそんな時間なのね』
「というと?」
『こっちはまだお昼前よ。次の年まで、あと半日以上の時間があるわ。あけましておめでとう――というのは、こっちにとっては早すぎる挨拶ね』
「なるほど、そうだな」
時差の存在が頭を過ぎる。
海を隔てた場所にいる私とメイとでは、過ごしている時間に半日以上のズレがある、というわけだ。
声だけを、そして電話の向こうから伝わる息づかいを聴くと、すぐ近くにいるようにも思えるが……実際、自分達は、距離だけではなく時間も離れた場所に居るという事だ。
時間の差は半日以上。メイはまだ『去年』にいるというわけだ。
「それは羨ましいことだな」
『……は?』
そんな事を言う私に対して、メイが眉をひそめる様子が伝わってくる。
その表情はとても可愛らしい事だろう。実際に見る事ができないのが残念だ。
「つまり、メイには、まだ半日以上の時間が残されている、という事だ」
『単なる時差よ? 時間が増えたり残ったりしているわけではないわ』
メイはそう言う。確かに、それが正しいのだろう。
日付や時差は概念上の問題であり、実際は時間を隔てているわけではない。
「いや……今この瞬間、異なる年に存在する者が時間を超えて会話していると思うと、それはそれでおもしろいと思うのだが」
『レイジ。今日のアナタは妙な事を言い出すわね』
私の言葉に、メイは呆れたようにこたえる。
今日の、とメイは言うが、私にとっての『今日』は、メイにとっては『明日』――いや、来年であるわけだ。
「ああ、きっと新年という事で浮かれているのかもしれないな、私も」
何よそれ――と、メイの声が返ってきた。
そんな他愛のない会話で、私の新年は始まる。
2003.12.31.
昨年はお世話になりました。
今年もよろしくお願いします。
……とりあえずそんな感じです。