≪歩く≫
「そうね……レイジは、私の弟……のようなものかしら」
私は表情を強張らせた成歩堂龍一に対してそう言った。
御剣怜侍を育てたのは狩魔豪、そして、狩魔豪は私のパパであり師でもある人。
だから、レイジは弟のようなものだと、成歩堂龍一に私は言った。
嘘。
最初から、レイジには私が『弟』だなんて思える部分は何もなかった。
弟だなんて思っていない、幼かった頃ならばともかく、今では弟だなんて思えやしない。
いつもレイジは、私の前を歩いていく。
私はその後を追いかけようとするだけ。でも、追いついたと思ったら、レイジはもっと先に行っている。
遠くにパパがいる。レイジはパパを目指して進む。私もパパを目指して――でもレイジの背中しか見えないでいる。
今はパパが消えてしまった。そしてレイジもいなくなった。
見えていたはずの何かを失って、私は、どこへ歩いていけばいいのだろう。
目の前にあったレイジの背中を、いつか追い越したいと思っていた。
遠くに見えるパパの横に、いつかたどりつきたいと思っていた。
でも今は、そのどちらも見えない。
レイジの事を『弟』だと私は成歩堂龍一に対して口にした。
でもそんなふうに思った事なんてない。
弟の後をついていく事しかできていなくて、その背中しか見えない姉なんて、哀しい事この上ないもの。
……ああ、もしかしたら。
私はレイジを追い抜いたのかしら?
だから目の前にレイジはいないのかしら?
振り向けば、そこには立ち止まってしまったレイジがいるのかもしれない。
でも、そんなレイジはいらない。私の背中を追うレイジなんてありえない。
レイジを『弟』扱いするという事は、私の前にレイジがいない事を、私自身が認めてしまっていることになる。
それを成歩堂龍一という他人に告げる事により、私自身が間違いなく狩魔であるべき存在であると……確認する。
こんな力不足を自覚している人間が背負わなければならないのだから、今という状況はどこか狂っているのだろうと思う。
私はどこを歩いているのだろうかと、何も見えない事に小さな不安を感じてしまう。
でも、成歩堂龍一の前でそんな感情を見せるわけにはいかない。
私は、狩魔を背負っているのだから。
成歩堂龍一に敗北し、今どこにいるかもわからない御剣怜侍は――『弟』
私は御剣怜侍以上の存在でなければならないのだから、狩魔の為に。
狩魔に迷いなんて必要ない。追っていく背中なんて必要ない。
私なんかに格下の『弟』扱いされて怒る? レイジ?
でもここにはいないアナタに反駁する権利なんてないんだから。
ここにいるのは私だけ。だから私が先に歩くしかないんだから。
2004.11.28.
久々に更新。そしてその割にはぽえみー&短ッ!!
ぐるぐるする冥タン書くのは大好きです。
御剣からめてもっと長いの書きたいなあ……。