≪ひとりで≫
海を越えたこの国に来た場合、ひとりでいることは、今までほとんどなかった。
隣にはレイジがいた。レイジがいなかったら、パパがいた。
今はどちらもいない。パパは監獄に、レイジはどこかもわからない遠い場所に。
ひとりでこの国にいる事になって、隣が寂しいと感じてしまうようになった。
そんな感情、持ってはいけないものなのに。
振り返ればそこにレイジが立っているように思えてしまうのは、自分の心が甘えているからなのだと思う。
レイジがどこかで見ていてくれるように感じるのは、そんなはずはないのに願ってしまうのは。
私は、ひとりでいなければならないのだから。誰かに頼るような弱い心を持ってはいけないのだから。
何度も何度も自分に対してそう言いきかせても、どうしても寂しさは消えてはくれない。
望んではいけないはずなのだから。
レイジがどこにもいないのは、パパを、私を、憎んでいるからなのだから。
だから、私は、レイジを探してはいけない、求めてはいけない。
レイジは私を憎む権利があり、私を拒む権利があり、私を捨てる権利があり、でも私はレイジに対して行使できる権利は何もないのだから。
ひとりでいることに、平気にならなければならない。
でも、寂しいと思う心の隙間が気になって仕方がないから、私はそこを別のもので埋める事にした。
成歩堂龍一に対する、敵意を、自分の中から見つけ出す。
レイジの事を考える代わりに、成歩堂龍一の事を考える。どうすればあの弁護士を打ち負かす事ができるかを考える。
たくさん、たくさん、成歩堂龍一の事を考える。
そうして、レイジや、パパの事を、考えないようにする。
そうすれば、寂しいなんて思う暇はどこにもないから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
僕は、狩魔検事に憎まれているのだと思う。
心当たりはある。何といっても、狩魔検事の父親である狩魔豪の過去の罪を暴いたのは僕なのだから。
そのせいで検事としての狩魔豪は破滅した。
それで僕を恨む事は、理解できなくもない。
でも、彼女が口にする『狩魔の名誉』とやらは、僕にとっては何の意味もないし、その価値とやらは一生わかりたくもないモノだ。
正直、憎むなり嫌うなり、勝手にしてくれと思う。
狩魔検事が向けてくる感情に、僕が付き合う義理も義務もないはずだ。
好きな感情を向けてくれてかまわない。ただ僕にそれを強要しないでほしいと思う、心底。
でも。
時々、事件が絡まない場所で会う狩魔検事の表情は、法廷で向けてくるあのキツイ眼差しのものとはまた違うようにも見える。
狩魔検事は僕を憎んでいるはずだ。それは、敵意のこもるあの視線から考えても確実だ。
でも、たまに、僕を見る狩魔検事の視線の中に、あるはずの感情が見当たらなくて、わからなくなる時がある。
そして、だいたいそんな時に思い出す。
狩魔検事は、真宵ちゃんと同じ年の女の子なんだよな、と。
だから僕は、狩魔検事を嫌う事ができないのだと思う。
苦手意識はある。だってあのムチは痛い。
でも、一方的な敵意を向けられて、しかも暴力みたいなものをふるわれて、それでも嫌悪感だけで心が埋まらないのは、多分――
どこか――千尋さんを前に弱々しく泣いていたあの時の真宵ちゃんの姿が被るからなのかもしれない。
2003.11.25.
2003.12.01.書き足し。
更に短い話。
私が書くナルメイは、ナル←メイの矢印無自覚限定です。
そしてナルメイ物の中の冥は、だいたいにおいて心が無理をしています。
無理をどうにか誤魔化そうとする冥は、成歩堂に『敵意』を向けます。
それが矢印の始まりです。
(2003.11.25.)
ちょっとだけ書き足し。
でも成歩堂からは矢印は向きません、多分。
(2003.12.01.)