信仰、希望、愛、この三つはいつまでも残る。
 その中で最も大いなるものは、愛である。(新約聖書・コリントの信徒への手紙1:13章13説)
 

 信仰しているのか?
 希望を持っているのか?
 愛しているのか?
 問い掛けられてもわからない。
 上杉景虎という男は一体自分の何なのか。
 縛られる。……縛りたい。
 支配欲、独占欲、色欲、情欲、性欲、愛欲、強欲。
 あの人が欲しい、全て、何も残さずに………………。
 
 
 小さな背中がそこにある。
 堂々としていて、しかし儚い。
「何か、わかりましたか?」
「いや…………」
 声をかけても振り向いてくれない。
 背中が抱き締められることを拒絶している。
 動けない、近づけない。
 景虎様が急に海に行きたいと言いだしたのは、ほんの数時間前のことだった。
 12月も半ばを過ぎた年の瀬の25日。
 人々はクリスマスだなんだと騒がしかった。
「高耶さん」
 そう呼びかけると少し、雰囲気が和らいだ気がした。
 その背中に触れて、この腕で抱き締める許可が下りたような、気がした。
「風邪を引きますよ」
 自分のコートを脱いで肩にかけてやり、コートごと抱き締めた。
「400年」
「?」
「何故、俺は生きているんだ?」
「生きることに理由が必要ですか?」
「お前は何故生きている?」
「もちろん、あなたの傍にいるために…………」
「じゃあ、俺が死んだら?」
「ずっと傍にいますよ」
 答えのない問答。
 真実は、私がこの方の傍にずっといるということだけ。
「高耶さん」
「…………帰るか」
 振り払うでもなく、押しのけるでもなく、するりと腕の中から脱し、海に背を向け歩き出す。
「直江」
 振り返って一言。
 その声で名前を呼んでくれるだけで、その瞳に自分を映してくれるだけで、こんなにも惹かれてしまうことを彼は知らない。
 
 
 信仰よりずっと深く、希望という言葉よりずっと曖昧で、愛しているの一言じゃ語れない。
「高耶さん」
「何だ?」
 ずっとあなたの傍にいさせて…………下さい。
 

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