蝋燭の火がぼうっと闇に浮かんでいる。
「奇麗やな」
いつもよりずっとボリュームを下げた低めの声を囁かれる。
「ああ」
言葉にすると消えてしまいそうな澄んだ空気。
「クリスマス、大阪に来いひん?」
コナンからようやく元の姿に戻れた後、初めてのクリスマス。
服部と付き合いだして初めてのクリスマスでもあった。
「お前が来いよ」
ぼそっと、小さな小さな声で呟く。
わざわざ大阪に行ってやるなんて、何だか気恥ずかしかったから……。
「行きたいとこあんねん。」
「一人で行けよ」
「どうしても工藤と行きたいねん。な?」
そこまで誘われると悪い気はしない。
服部が行きたがっている場所も気になるし……。
どうせ、下らないとこだろ。
そう思ってはみても、やっぱりクリスマスは好きな人と……とか世間に流されてしまうわけで……。
「仕方ねぇなぁ。」
と承諾してしまった。
「何処に行くんだよ」
大阪に来い、と呼びだしたわりに電車で揺られること1時間ちょい。
何故か京都に来ていた。
「めっちゃ奇麗やねんて」
「だから何が」
「着いたらわかるわ」
何かむかつく。
そうこうしているうちに着いた場所はある高校で、関西どころか関東でも聞いたことのある学校だった。
ざわざわと老若男女色々な種類の人がいる。
「キリストの生誕を記念する礼拝があんねんて」
「お前、いつからキリスト教徒になったんだよ」
「ええからええから」
「よくねーよ」
とはいうものの、周りにいるたくさんの人達はどう見ても全てクリスチャンとは思えないような人で、男二人という組み合わせも別に目立つことはなかった。
5時過ぎに講堂が開けられて、ざわざわと席に着いた。
礼拝堂なんて入ることは滅多にないし、興味深くてきょろきょろと見回しているたのだが、あることに気がついた。
「マリア像とか十字架とかないんだな。ここってプロテスタントか?」
「そうちゃう?って、なあ工藤。そんなきょろきょろすんのやめえや。」
「お前に言われたかねぇよ」
ざわざわしている人が少し静かになり、礼拝をはじめますという挨拶があった。
隣にいる服部の顔さえ見えないような闇の中、パイプオルガンの演奏が響く。
そして曲が変わり、回りの人々が静かに、歌いはじめた。
「!?」
讃美歌なんて聞いたこともないし、歌も得意なほうではない。
服部はと言うと別に歌うでもなく騒ぐでもなくじっとしているようだった。
そんな中、後ろの扉が静かに開き、ぼうっと蝋燭の明かりが列になって入ってきた。
「奇麗やったやろ?」
礼拝が終わり余韻でぼーっとしているところにそう言われ、黙って頷くことしか出来なかった。
礼拝の内容はパイプオルガンの演奏と聖歌隊や参加者全員の讃美歌合唱、キリスト生誕の無言劇にハンドベルの演奏であった。
クリスマス、クリスマスと騒いでいる中で、何だか静かな気分になった。
「工藤?」
「あ、何?」
「何やぼーっとしとるなぁ。おもろなかったか?」
「いや、何だかクリスマスで馬鹿騒ぎしていたことが空しく思えて…………」
「それも一つのクリスマスやろ。」
「まあな」
クリスチャンになる気はないし、宗教に興味はないけど、少し心が成長したような気がするこの礼拝は嫌いではないと思う。
「くーどう!」
ぎゅっと横から抱き締められて、驚いて暴れようとしたがかなわなかった。
「何しやがる!」
「そこまで静かにならんかったってええやん。」
「お前、本当に元気だなぁ。少しは神聖な気分とかにならない?」
「確かにさっきの礼拝は奇麗やったけど、俺にとっては工藤の横顔の方が奇麗やったし……」
「ば、バカ」
「いつものしっかりしすぎとる探偵の工藤もええけど、今の工藤もええなぁ」
何言ってんだよ、という言葉を出すことは出来なかった。
「こんなにガード緩いし」
目の前でにこにこと笑っている奴に唇を奪われたおかげで。
笑う服部の腹に拳を埋めてから、はたと辺りを見回してみた。
幸い、誰も気付かなかったようだ。
「誰かに見られたらどうすんだよ。」
「二人っきりの時やったらええってこと?」
「…………」
こいつのおかげで安らかな気分になれたというのにこいつのせいでいつも通りに戻った。
コナンになっていたときには味わえなかった安らぎと楽しさは、やはりこいつのおかげなんだろう。
服部の家に帰る帰りの電車。
夜遅く、そして年の暮れということもあってか随分すいている。
「工藤、眠たかったら俺によっかかって寝とってええで?」
「バーカ」
そんなラブラブな恋人同士みたいなことできるかよ。
でも、今日はクリスマス。キリストの生まれた日。人間がばか騒ぎする日。恋人たちの日。
「ありがとな」
たまには素直になってみるのも良いかもしれない。
| 地下泉に戻る | 地下水トップに戻る |