それは本当に偶然だった。
特に弟子をとろうとも考えていなかったのだが、元始天尊様に頼まれて朝歌に仙人骨を持つものがいるらしいという噂を確かめに行くことになった。
久々に向かう人間界。
走り出したくなる気持ちを抑えきれず、俺は朝歌の町を走り回った。
美しい町並みに活気のある人々。
豊かな緑に美しい建物。
だらだらと時を過ごす仙人と違って勢いと生命力が溢れている。
ぐるぐるぐるぐると回っているうちにおかしなところへ迷い込んでしまったらしく、何処か広い場所へと出て来てしまった。
木の並びや建物の感じから言って貴族の家の中庭のようだ。
「親父っ!」
子供の声が響く。俺は慌てて木の陰に隠れた。
「待て天化」
幼い子供が修業用の棍棒を持って建物の中から飛びだして来る。
おや……?
何かを思い出しかけて、後に続いて出てきたその子の父親の登場で全てが吹っ飛んだ。
「そうだ、俺は仙人骨を持つ人間を探しに来たんだ」
男は立派な仙人骨を持つ天然道士だった。
走ることに夢中になって肝心の目的を忘れていた。
俺らしいミスだ。
そう苦笑して、改めて男を眺めた。
流石は仙人骨を持つ人間。いい身体をしている。
鍛え方もいいらしく、こっちに来ていないのが残念なぐらいだ。
スカウトしようにも彼は既に成人している。その上子供までいるのではゆっくり修業などしていられないだろう。
「惜しいなぁ」
そう嘆いてる間に、父子の修業が始まった。
「ん?」
彼らの戦いぶりを見て、俺は少なからず衝撃を受けた。
天然道士である父親に向かっていく少年。
男が強いのは言うまでもないことだが、俺は男より少年から目が離せなくなった。
動きがいい。
体のバランスがいい。
野性的な「カン」がいい。
何よりも俺の目を引いたのはその鋭い眼差しだった。
まだまだ未熟な点が多いが、必ずやいい戦士になる。
「まだまだだ、天化!」
男の声。
少年の名前は天化というらしい。
俺は体を動かすことも忘れてただ、少年の動きを見つめていた。
これから成長していくであろう少年。
まだまだ身体も骨も成長途中ではあるが、その骨は確かに仙人骨であるようだ。
俺の元で修業させたい。
俺が、成長させたい。
どれだけの時間そうしていたのかわからないが、気がつくと日が落ちていて空が橙色に染められていた。
カラスの黒い影が遠くの空へ消えていく。
顔を上げて父子を見ると…………いた。
既に修業は終わっているようで父親が天化に何かを言って、建物のほうへ歩いていった。
仰向け倒れている天化。
夕日が彼の全身を包むように眩しく輝かせている。
はっと、息を飲んだ。
艶やかな黒髪は汗と泥で汚れていたが光を受けて透き通るような金色に変わっていて、長い睫毛の下のくりっとした大きな瞳はじっと夕日の方を、眩しそうに悔しそうに睨み付けていた。
可能性の塊だ、そう感じた。
彼は何にでもなれる。いや、なろうと努力を重ねる。
これから成長していく卵。
輝く可能性を秘めている原石。
弟子をとるなら、こんな子がいい。
俺の中に天化が住み着いた瞬間だった。
それは本当に偶然だったんだ。
元始天尊様が俺に言わなければ、俺が黄家に迷い込まなければ、天化があの日修業していなければ、こんな思いはしなかったかもしれない。
宝石の原石は磨きたくなる。
どんなふうに輝いてくれるのか、楽しみのようであり少し淋しい気もする。
宝石になってしまった原石はもう磨く人を必要としないから。
いつか、そんな日が来るのだろう。
しかし俺を止められるものは誰もいなかった。
天化を初めて見たその晩、朝まで待てなくなった俺は天化を仙人界へと誘った。
《 私の名は道徳真君だっ!!!
キミ・どうだい!?
私のとこでスポーツマンシップを学ぶつもりはないかっ!!? 》
目をぱちくりとさせる。
天化の目には俺が映っていた。
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