意識が朦朧としているというのはまさに今の自分の状態だろうと思う。
風邪なんて滅多に引かないのに、今俺は自分の部屋のベッドの上にいる。
不覚。
せっかくの休みだというのに遊びにも行けない。
「ば・ん・ちゃん!」
がちゃりと戸を開けて飛び込んできたのはお隣の次男坊。
俺が風邪を引いたと知ってから妙に嬉しそうになっている。
「何?」
布団を被ったまま目だけ出して問い掛ける。
すると奴はにやーっと笑みを浮かべた。
「お薬の時間〜」
「苦いから嫌」
ぷいっと横を向いて見せると持っていたものを脇へ置いてベッドの上へと上がってきた。
仰向けで寝ている俺の上に馬乗りになっている。
騎○位…………?
ぼんやりと浮かんできた単語に我ながら呆れてしまう。純粋な平とは違って色々と知っている自分が何だか汚れているように感じてしまう。
「熱は?」
「ないよ」
「嘘」
被ってた布団をはがされる。真剣な瞳がそこにあって、俺はちょっと驚いて見せた。
こつん。
「まだ熱い……」
額を寄せて熱を計られる。熱で頭がぼーっとしているときに至近距離で見る平の顔はいつもよりぼんやりと、一層子供っぽく見える。
健康的な赤いふっくらとした唇がすぐ近くにある。
触れたいな、と考えているとすっと遠ざけられた。
「薬っ!」
水の入ったコップと某薬品メーカーの粉薬を差し出される。
平の身体の下から這い出るように上半身を起こし、しぶしぶそれらを受け取った。
「ホントは何か食べてからの方がいいらしいんだけど万里、何か食べれる?」
「へー」
「?」
「平が食べたい……」
不思議そうな顔が見る見る赤く染まり、バカっ、と殴られた。
「下らないこと言ってないでさっさと飲め」
ぷぅっと頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。鷹丘が見たら鼻血出して卒倒しそうだ。
「本気だったんだけどな……」
小さく呟いてから薬を口に含み、水で流し込む。
「えっ?」
「何でもない」
聞こえてなくても構わない。今じゃなくても平はずっと俺のそばにいてくれるから。
「万里っ」
「ん?」
「苦いお薬飲んだご褒美っっ!」
ちゅっと唇が触れて甘いものが入ってきた。
平の手にはイチゴミルクキャンディの包み紙が握られている。
それもほんの数秒の出来事で、ばっと身を離しドアの方へ駆けていってしまう。
「ちゃんと寝とかないとダメだからなっ!」
ばたんと音を立ててドアが閉まり平が去っていく音を聞きながら口の中にある甘いアメを転がした。
熱でぼうっとした頭は甘い甘いキャンディによって見事にとどめを刺されてしまった。
たまには風邪を引くのも悪くないかもしれない。
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