小さく溜息をついて立ち止まった。
俺に言われたトレーニングを黙々とこなす少年の姿が目に入った。
少年というよりはしっかりしているが、青年よりも儚い存在。数年前から俺の弟子である。
毎日の修業で宝貝の使い方もかなり上達している。
まだまだ先が楽しみな弟子。…………しかし、遂に人間界に行かせなければならない時が来た。
いつかは必ずこんな日が来るだろうと考えていたが、その理由が封神計画に携わり太公望を助けるためとは考えてもみなかった。
父親の旅立ち、母親の死を聞いたとき、あの子は悔しそうに唇をかみしめた。
それでも涙一つ見せずに俺の話を聞くあの子から離れたくなかった、……離したくなかった。
危険だと解りきっている場所にあの子を送りたくなかった。
いや、ただ、俺から離したくなかったんだ。
天化が少しでも俺から離れると不安になった。
しかしそれは彼の力を信用していないわけではない。逆に天化が、自分の力で遠くへ行ってしまうのが不安だった。
離したくない、離さない、そう考えても俺の力ではどうすることも出来ない。
「コーチ、行ってくるさ」
にこっと微笑んで軽く頬に唇を寄せる。
俺の汚れた独占欲がより一層強くなりそうで、俺はただ手袋で隠した拳を固く握って、それを
「行ってこい」
と横に振ることしか出来なかった。
目が覚めたとき、そこにはあの子がいなかった。
聞仲に挑み、散った自分。
封神台の中に俺はいた。
世界が滅びるかと思うほどの大きな戦いだった。
十二仙が力を合わせても敵わなかった。
恐いとは感じたが、これからの歴史のために戦いたいと思った。
「天化に渡してくれ」
楊ゼンにそう頼んだら、胸がずきんと痛んだ。
こんな俺でもいなくなれば天化は悲しんでくれるのだろうか?
共に修行に励んだ日々も、唇を重ねたことも、囁いた愛の言葉も、永遠になればいい。
そう思っていた。
封神台の中の居心地は思ったより悪くなかった。
ただ、天化がいないことだけが苦痛だった。
早く来て欲しいとは思うが、それは天化が封神されるということを意味する。
「コーチ失格だな」
苦笑して、閉ざされた空を見上げる。
さっき、天化の父親が封神されてきたらしい。
だが誰が来ようと関係ない。
天化以外、天化の他、誰も会いたいとは思わない。
もう、君以外愛せない……。
END