ひゅーっと音を立てて、夏の終わりの紺色の空に弾ける色とりどりの花。
その花を眺める影が、暗闇に、二つ。
「新学期、始まっちゃったね」
「ああ」
川の向こう岸で作られている光の花を、土手に並んで立って眺めている、二人。深緑の浴衣と、紺色の浴衣。
「花火、綺麗だね」
「……ああ」
見上げる空は少し青みがかっていて、真っ暗な空よりも穏やかな優しさを感じさせる。
「来年の夏も、こうして一緒に……」
「そうだな……」
紺色の浴衣の青年が、隣にいる深緑の浴衣の青年の肩に頭を預ける。
深緑の浴衣から伸びる日に焼けた手が、そっと紺色の浴衣を引き寄せる。
バチバチと音を立てて、まばゆいばかりの光と煙を出して地面を照らす火。
近くには水を張ったバケツ。
「なんでオレがお前と花火しなきゃなんねーんだよ……」
不服そうな青年。青年というにはまだ幼い部分が多いが、少年という訳でもない。
淡い水色の浴衣の胸は暑さの為か少し広げられ、白い肌を覗かせている。
「ったく……」
不満そうな声を漏らしつつも、楽しくないわけではない。
花火で照らされる向こうで、にやっと楽しそうに笑っている濃い紫の浴衣の青年を見ると、ついそんな言葉が口をつくのだ。
「火をつけるから離れておけ」
にやっと笑って筒を地面に立て、マッチの火をつける。
しゅーっと音を立てて筒から火が噴き出す。
「……アちっ」
「どうした?」
水色の浴衣から伸びる白い腕が少し赤くなっている。
離れるのが遅れて火が飛んだらしい。
「ちょっと待て、いいな!」
紫の浴衣が揺れ、闇に消える。
再び姿を表したのは、ほんの数分後で、しかし、手にはペットボトルに汲まれた水と、タオル。
水色の浴衣から伸びる腕を引き、ペットボトルを傾け、赤くなった部分に水をかける。
そして濡らしたタオルをあてる。
「あ……」
ありがとうの言葉は、彼の口からは出ず、闇に消えた。
「後はこれで冷やせ」
そう言って紫の浴衣のどこから取り出したのか、カチカチに凍っている「チューペット」という氷菓子をタオルの上に乗せた。
「おい……」
「なんだ?」
言いたい言葉は、やはり闇に溶けて、文句も、感謝も、飲み込んで。
深緑の浴衣が紺色の浴衣を引き寄せて、広大な夜空に響く炎達の音を背に。
水色の浴衣が、ぷいと顔をそらせたまま、右手に持ったタオルと氷菓子で左腕を冷やしながら、左手で、紫の浴衣を引き寄せて。
影が重なっても、暗闇に溶けて……誰も、気がつかない。
終