一ヶ月と少しという長くも短くも感じられる夏休みが終わり、朝の電車は賑やかさを取り戻している。
それは9月にしては少し涼しい日。
熱い都市、大阪に秋の空気が通り過ぎた日だった。
服部平次。西の名探偵などと言われ、東の高校生探偵工藤新一と知り合って2年が経とうとしている。
2学期が始まり、受験が近づいてきた平次は高校生最後の夏だと理由をつけて、つい数日前まで工藤家に転がり込んでいた。
「さっさと大阪に帰れよ」
なんて憎まれ口を叩いていた可愛い恋人とも、しばらく会えない。
2学期が始まってすぐの実力テストを終え、少し早い時間に帰れる日。
空いている電車に揺られながら、平次はMDウォークマンの音に聞き入っていた。
流行の曲でも、勉強のための英語の教材でもない。
東京から帰るとき、新一がくれた、MD。
「なぁ、工藤ってどんな曲聞いてるん?俺がこっちにいるときは俺の好きな曲ばっかりかけてもろてるやん。」
「ばーか。んな訳ないだろ。大体なんでお前に教えないといけないんだよ」
コンポの横にあるCDラックは、何故か平次の好きなアーティストのアルバムばかりで、……それは平次が大阪から持ってきたものも含まれているのだが、新一の好みで買われたものは見当たらなかった。
大阪に帰る日。
「ほら、忘れもん」
「これ、俺のちゃうで?」
「いいから、さっさと持って帰れ」
困惑する平次の唇を、ちょっと不機嫌そうな表情で塞ぎ、追い出すように玄関の戸を閉めた。
「……工藤?」
新一からのキスなど滅多にされるものじゃない。
困惑している上に、呆気にとられてしまった平次は、玄関に鍵と、チェーンをかけられた音をどこかで聞いた気がした。
大阪に帰る新幹線で、新一から渡された紙袋を開け、中に何枚かのMDをみつけた。
それ以来、平次のウォークマンにはいつもその中のどれかが入っている。
静かに電車に揺られながら、心地よく響く、音。
自分のために、可愛い恋人が編集してくれたMD。
それは9月にしては少し涼しい日。
熱い都市、大阪に秋の空気が通り過ぎた日だった。
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