欲しいものはただ一つ。
それ以外は何もいらない。
野生の獣のように靱な身体。
気高く屈することのない王者の心。
俺の心を射貫いた、その鋭い瞳。
泉 拓人、その人だけ。
真夜中。
ちらちらと瞼に映る光にうっすらと目を開ける。
寝起きがいいとは言えない俺だから、その光の元がなんであるのかに気が付くのにしばらくの時間を要した。
音のない映像。
巨大スクリーンに映る泉が、サッカーボールを蹴っていた。
「いず、み……」
フローリングの床に座り込んで過去の自分の姿を見ている泉。
脊椎損傷による下半身不随。
渋谷のおかげで動かないのは膝から下だけだが、何よりもサッカーを愛していた泉にとっては両腕をもがれるよりも辛いことだった。
俺の声など届いていないのか、身動き一つせずにスクリーンに見入っている。
「泉」
振り向かない泉。じっと、スクリーンを凝視している。
気が付けば俺は泉の顎をつかみ、唇を重ねていた。
右からの殺気。
顔を狙って繰り出された拳を掌で受け止める。
左腕がない俺を気遣ってか、初めの攻撃はいつも右だった。
しかし、2発目は容赦して貰えない。
唇を離し、手負いの獣のような鋭い視線を浴びる。
「足が、欲しい」
唇が言葉を紡ぎだす。
「義足でも移植でもない、誰の足でもない、俺の足が欲しい」
泉を抱き締める1本しかない腕に両腕分の力を込める。
「もう一度サッカーをして見せると言ったのは、貴方だ」
何よりもサッカーを愛した男なのに、誰よりもサッカーに魅了された男なのに、足が、動かない。
「俺を捨ててでも、サッカーをしてみせると言ったのに」
ぷちん、と音がしてスクリーンから明かりが消えた。
「お前はいくら俺が捨てても追いかけてくる。だから、俺はサッカーを追いかける」
膝で立ち上がる泉を支え、ベッドへ連れていく。
リハビリを重ねても動く気配のない足。
不屈の精神、諦めることを知らない泉が不安になっている。
「弱気になっている貴方も、儚げで美しい」
寝巻き代わりのTシャツの裾から手を入れる。
殴られるかと思ったが、泉からの行動はなかった。
「この足が動きだせば、貴方は俺を置いていってしまう。だから、今」
股間に伸ばした手に泉の手が重なり、爪を立てる。
熱い吐息が泉の口から零れる。
「さっさと動かして、望み通りに置いてってやる」
全てを切り裂く刃物のような視線。
あの夏、俺の心を掴んで離さなかった、野生の瞳。
抱き締めた小麦色の身体は、太陽のように熱かった。
END
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