「あ、あの。これ、梧桐さんからですっ!!」
 いつものように工業科の校舎裏の資材の上で眠っていたオレを起こしたのはかなり怯えた声だった。
「あぁ?」
 ちょっと睨むとびくびくと縮む。
 無理もない。
 こいつは一度オレに酷く傷つけられたのだ。
「こ、これ………………。」
 怯えながらも両手を真っ直ぐにオレに伸ばし捧げるようにソレを差し出した。
 またか…………。
「あ?」
 受け取らずにいる、という考えが頭をかすめたがオレはそうしなかった。
 いや、出来なかった。
 吸い付けられるようにしてオレの手はそれを受け取っていた。
「梧桐…………。」
 表に書かれた見慣れた文字。
 オレを呼び出すための餌。
「確かに渡しましたからっ。」
 怯えた様子で走り去る男。オレと、この手紙の主が相当怖いらしい。
 その背中をちらりと見送って自分の手の中にある手紙に目を落とした。
 内容はいつもと変わらない。
 
 ー決闘したし。普通科の中央校舎屋上にて待つ。ー
 
 それだけだ。
 行っても決闘することはない。
 これは罠だ。
 わかっている。
 
 だが、行ってしまう。
 
 オレは手紙をポケットにしまう。
「梧桐……。」
 何故あいつに呼ばれると行ってしまうのだ?
 行って何になるのだ?
 サルだ何だとバカにされて不愉快になるだけだ。
 行きたくない………………。
 
 しかし、行ってしまう。
 何故だ?
 
 手紙の呪いのせいなのか、オレの脳裏に梧桐の姿がちらつく。
 消えない。
 もう一度手紙を広げてみる。
 あいつが書いた字を指でなぞる。
「あいつらしい字だな。」
 癖のある字。
 あいつの字。
 あいつが自分に宛てて書いたもの。
 なぞっていた指が差出人の名前のところで止まる。
 
 ー梧桐勢十郎ー
 
 偉そうに笑うあいつの姿が目に浮かぶ。
 何故か笑いが零れた。
 
 そしてオレはその名前に、手紙に、軽く唇をつけた。
 
 オレがあいつに呼ばれて行く理由。
 決闘がなくても、罠であっても、サルだとバカにされても、行ってしまう理由。
 認めたくなかった、その理由。
 
「暇だしな、行ってやるか。」
 オレはそうつぶやいて手紙を握りしめた。

地下泉に戻る 地下水のトップに戻る