珍しく朝から学校へ来ていた。
単位数がやばいから、理由はそれだけ、単純なこと。
適当に授業を受けて昼休み、いつもの校舎裏へ行こうと外に出たとき、オレの足は止まった。
梧桐と、いつも梧桐の横にいる生徒会の女。
ここからじゃ声は聞こえねぇが何だか争っているような雰囲気だった。
「オレには関係ねぇ」
そうつぶやいて立ち去ろうとしたとき、信じられない光景を見た。
女が梧桐の顔を自分へ引き寄せて…………影が、重なった。
少し赤い梧桐の頬。
困ったような女の顔。
女が何かを言って、その言葉を受けながら梧桐は立ち去っていった。
オレは、ズキンと胸の辺りを締めつけられるような、喉の奥が焼けるような痛みを感じた。
遠くで聞こえる無機質なチャイムの音が授業終了を知らせている。
午後からの授業は出る気がしなくて、ずっと校舎裏で眠っていた。
いや、眠れなかった。
あいつの顔が、やけに頭に張り付いて、オレには見せない表情が、胸を握りつぶすように締めつけて。
「ふざけんなよ……。」
誰に言うともなしにつぶやく。ここにはオレしかいないから。
煙草に火をつけようとポケットを探って、今日はライターを忘れたことに気がついた。
「ちっ、帰るか」
むしゃくしゃした気分の時はロクなことが起こらない。そう、例えば……。
今、無言でオレの隣に腰を下ろした招かざる客の来訪のように。
「コラ、誰に断ってオレの横に座ってんだよ」
睨みつけるが反応がない。いつもなら何かしら減らず口を叩くというのに。
「梧桐?」
奴の身体が傾き、オレに寄り掛かってきた。
「なっ」
殴り飛ばそうと思ったが、どうも様子がおかしい。
「お前、熱あんのか?」
「うるさい、サル。黙っておけ」
いつもより低い擦れた声、ドキっと胸が高鳴り、慌てて右手で心臓を押さえつけた。
「風邪引いてんならとっとと帰れよ」
梧桐の方を向かないようにして言う。
「明稜帝たるものが風邪ごときで早退するわけにはいかんからな……」
オレは融通が利かないやつだなと笑ってやった。その時、
「ここにいたのね、セージ」
女が現れた。
昼休み梧桐といた女。あ…………。
「熱があるんだから早く帰ってって行っているのに……」
昼間と同じ淋しそうな笑い。もしかしてあの時は…………。
「そのうち帰る、今は…………」
半屋といたい、と聞こえたのは気のせいだろうか。
オレは耳が熱を持っていくのを感じた。
女は軽くオレに向けて会釈をすると普通科の方へと歩いて行った。
ずっとオレにもたれたままの梧桐。
それについて何も言わなかった女。
オレは何だか恥ずかしくなって梧桐から逃れようとした。
「動くな……ここにいろ」
熱い梧桐の身体から伝わってくる熱でオレまで熱くなってしまう。
「半屋」
「あぁ?」
何か言おうとした梧桐の口が軽くオレの唇を掠めた。
「しばらくここにいろ……」
「うるせぇ」
オレは真っ赤になった顔で空を見上げ、一つ息を吐いた。
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