熱帯夜と呼ぶに相応しい、じめじめとした湿気の多い夜。
 半屋工は目の前の男を睨み付けていた。
 身体を求めてくる男。しかし男の口から愛の囁きが零れたことは一度もない。
「何見てんだよ」
 風呂上がりでシャツを羽織っただけの姿。
 うっすらとピンク色に染まっているその腕も足も、剥き出しのまま投げ出されている。
 白いシャツに隠されているのは平らな胸と男である証拠があるところ。
 後は全て、その首筋も鎖骨も肩も太股すらも外気に晒している。
「何だよ……やりてぇのか?」
 人をバカにしたような目付きでそう誘う。
 色素の薄い瞳で。
 透き通るような白い肌で。
 薄紅の唇で。
 
 
 ぼんやりとした意識の中でそれは夢だと確認する。
 半屋がそんなことをするはずがない。
 梧桐は額に手を当てて、小さく溜息をついた。
 そして横で眠る愛しい人を起こさないように布団から出た。
 愛してるなどと言ったことはない。
 言葉よりも先に身体が、唇が、彼を求めてしまう。
 台所へ行きコップ一杯の冷たい水を一気に飲み干す。
 熱帯夜。
 纏わりつくように絡みつくように熱い愛は、言葉を忘れさせてしまう。
 半屋が自分のことをどう思っているのか。
 自分は半屋に何を言ってやらねばならないのか。
 冷たい瞳で自分を誘う半屋は、いつ現れるかわからない。
 
 熱帯夜の夢は、終わりそうもなかった。


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