誰が決めたか知らねぇが、「肝試しは夏!」とかって決まってて、まあ冬にやったら寒ぃだけとか思うんだけど、あの馬鹿がいきなりやるとか言い出しやがった。
「怖いのか?」
って言われんのがシャクでしぶしぶ参加してやろうとしたが、「風邪」だの「マラソンしたいから」だの、結局残ったのはうるさい女、ミユキとか言うやつと、オレと、梧桐だった。
「本当にやるんですかー?」
 驚かす役だという生徒会の青木がそんなことを言って、梧桐の攻撃にあっていた。
 気まぐれでそいつを庇ったのが気に入らなかったのか梧桐は、
「よし、皆帰ってよし。半屋以外はな」
 とほざいた。
「あぁ?オレも帰る」
 と言ったのだが、
「目的地の墓場で決着を付けてやろうじゃないか」
 何て言われたら、行くしかないだろう。
 
 はぁーっと吐いた息が白くなる。
 今夜は相当冷え込んでいる。
 ちらりと横の梧桐を見ると平気そうな顔してるけど、やっぱりちょっと寒そうで、こいつも人間だなと考えた。
 こう暗いとキツネ野郎に闇討ちされた嫌な記憶が頭を過る。
 怖いわけじゃねぇけどムカツいて、あの時の痛みが少し蘇る。
「寒いのか?」
 急にかけられた声の意図することがわからずに、間抜けな顔で梧桐を見たら、奴のコートを頭から被せられた。
 梧桐はコートの下は制服で、寒くないわけがなかった。
 オレはというと普通の私服に姉貴が着ろと買いやがったコートを着てきていて、寒いといえば寒かったが制服だけの梧桐よりはマシだった。
「おい、いくらお前が馬鹿でも風邪引くぞ」
 ぐっと返したコートを一瞥し、ふふんと鼻で笑われた。
「どこかのサルとは鍛え方が違うんでな、黙って着ておけ」
 うるせぇとか思ったけど、こいつのせいでこんな寒い中、外にいるんだし、何よりもそのコートに残る梧桐の体温が心地よくて、自分のコートを脱いでそれを着てやった。
「はら、やる」
 そして自分のコートを梧桐に投げつけた。
 
 そんなわけで、意味ねえじゃねえかとも思えるけれど梧桐の服はちょっと嬉しくて、梧桐が自分の服を着ているのもちょっと嬉しくて、こいつの馬鹿げた企画に付き合ってやるのも悪くないと思った。
 「もう目的地か」
 梧桐の言葉に顔を上げるとそこは墓場だった。
 あたりめぇだけど人影はなく、しんとした静寂がより一層の寒さを感じさせた。
「決着つけるか?」
 問う梧桐に、
「何のためにここまで来てやったと思ってんだよ」
 と返す。
 にやっと笑う梧桐の口元が、いくぞ、と動いて勝負は始まった。
 
 
 互いの体力が無くなるまで続いた。
 暑いし、動きにくいため、オレも梧桐もコートはその辺りの墓石にかけていた。
「もう、終わりか?」
「そういう、お前、も、バテバテじゃねぇ……か」
 肩で大きく息を吸うと、冷えた空気が肺に染みる。
「じゃあ…………」
 梧桐がすっと近づいて、オレの耳に囁いた。
「ふ、ふざけんなっ!!時と場所を考えろ!!!」
 
 オ前 ニ 今 せっくす スル 体力 ハ アル カ?
 
 耳まで赤くなっているオレをお構いなしで梧桐は汗で湿ったオレの首筋に唇を落とした。
「やっ…………」
「夜、誰もいないところで……。絶好の機会じゃないか?」
 梧桐の口がオレのボタンを一つ一つ外していく。
「やめ、ろってんだろ……」
 今までの戦闘で体力が消費されている上に、梧桐の手が布越しにオレの身体を探っていくため力が思うように入らない。
 身体を持ち上げられて、坂になっている墓場のオレ達がいるところよりいちだん低いところにある墓石の上に座らされた。
 梧桐の指がオレのベルトにかかったとき、オレは妙な影をみた。
「梧桐……、う、しろ…………」
「何だ?」
 青白くぼうっと光る影。
「ほほう、幽霊か。見せつけてやろうじゃないか」
「ふ、ざけんなバカ梧桐!オレは嫌だ!!」
 一気にそれだけ言うとはぁはぁと息を整える。
「怖いのか?」
「そういう問題じゃねぇだろ!」
 お化けや幽霊の類いは信じねぇし、怖いとも思わないが、例え死人であろうとも…………情事を見られるのは嫌だった。
 ぼそっと、そう呟くと。
「そういう問題でもないのではないか?」
 と返された。
「とにかくオレは嫌だ」
 すーっと動く光。三つ編みの……女……?
ー …………フフフッッ ー
 風の音かとも思えるが人の笑い声にも聞こえる。
「仕方ない、ここでやるのは止めておいてやろう」
 女のような影はぱっと消え、また別のところへぱっと現れる。
「ただし、」
「あぁ?」
 服を整えて自分のコートを着ようとしたオレに梧桐が言う。
「……………………?」
 しゃくに触ったが、そうも言われて引き下がるのも嫌で、オレは梧桐の前に立った。
 身長差はほとんどないので背伸びする必要はないのだが………………唇を、重ねた。
 一瞬、にする予定だったのだが金縛りのように身体の自由がなくなって、結果的にかなり長い時間になった。
「珍しく情熱的だな」
「身体が動かなかったんだ!ふざけたこというな!!」
 叫んで、ふっと振り返ると、光の女の笑った顔が見えた気がしたが、一瞬で消えた。
「ほら、帰るぞ、サル」
 梧桐に腕を引かれて、いつの間にか手を繋いでいて、帰る道は少し暖かかった。
 
 
「伊織、あれはお前か?」
 梧桐の問い掛けにいいえ、と首を振る。
「本当に幽霊だったんだな」
 そう言って、梧桐は楽しそうに笑った。
 
 
 墓場に吹く風。
 半屋が座らされた墓石の下に眠っているのは若くして死んだ、おさげの女の子だったらしい。
 

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