偶然見かけたのは中2の半ば、夏休みの直後ぐらいのことだった。
何をするでもなくふらふらとゲームセンターの辺りにいた。
別にゲームをするつもりもなく、しないつもりもなかった。ただふらふらと、あてもなく。
喧嘩をふっかけられればそれを受け、ムカつけば自分から喧嘩を売り、そんな日々を過ごしていた。
いつもの風景にいつもの雑音の中、「声」が聞こえて、耳を疑った。
間違えようもないあの声。
オレは外に出て、声の主を探していた。
「貴様らは何度同じことを繰り返せば気が済むのだ?」
見覚えのない制服。しかしオレはそいつを知っていた。
何かで固めている真っ黒い髪。豪快に笑うか皮肉っぽく歪むだけの口。
他人を見下すような威圧的な瞳。
忘れもしない、元6年1組の学級委員長。
オレの天敵。
梧桐勢十郎。
同じ制服を着た連中が脅えた顔で梧桐を見ている。
人数は5、6人。いかにも不良、といった柄の悪いものから不良とまでは行ってなくても性格の悪そうな、頭の弱そうな奴まで似たり寄ったりだった。
その内の1人は身体が小さく、ひょろひょろとしていて、女のような顔立ちだった。
顔や身体に殴られたような傷があり、目には涙を溜めている。
いじめ……か。
そう思う暇もなく、梧桐がその小さいガキ以外の男達を殴り倒していた。
ぼそぼそと聞こえる声。
思わず近づいてその内容を聞こうとしていて、オレはそんな自分に驚いた。
「何立ち聞きしてんだよ」
自分の行動に苦笑して、立ち去ろうとした足が止まった。
ガキが悔しそうに表情を歪めてオレの横を走り去り、後に残った梧桐が…………穏やかな表情で微笑んでいた。
見たこともない梧桐の顔。
その表情をさせたのはさっきのガキで、オレには向けられていない。
オレはゲーセンの入り口のところまで戻り、入口にあったパンチ力測定のゲーム機を金を入れずに殴り倒し、破壊した。
いらいらする。
こんな玩具を壊したぐらいじゃ治まらない。
振り返るとオレに気づかず去っていく梧桐の背中があった。
オレはそれをぼんやりと眺めた。
中学が別れてから会う機会もなかったあいつ。
オレの知らない中学で、オレの知らない奴等と話し、オレの知らないやつを庇い、オレの知らないやつらと喧嘩している。
2年前までは梧桐と話していたのはオレの知っているやつだったのに。
オレの知っているやつを庇っていたのに。
オレと…………喧嘩していたのに…………。
小さくなって見えなくなる背中。
それは今のオレとあいつを表しているようだった。
胃がムカムカする。
肺の当たりがきりきりと痛む。
なんで、あいつは…………。
なんで、オレは………………。
「困るなぁ、機械を壊されちゃ」
オレの背中に声がかけられる。奥から店員がでてきたらしい。オレの倍ぐらいありそうなでかい身体に筋肉の塊のような太い腕。
不良を懲らしめるために店長が強いやつを雇ったと誰かが言ってたような気がする。
オレはぐっとそいつを睨み付ける。
しかし店員は怯まない。子供だとなめているのか、にやにやと気持ちの悪い笑いを浮かべて近づいてくる。
気持ち悪いやつ。
「殴っただけだ」
そう吐き捨てると店員の腕が伸びた。
オレはそれを左へかわし、後ろへまわって蹴りを入れた。
「が、ガキだと思って手加減してやったら……」
前へつんのめった形になった店員が口の端を少しあげて呻いた。
「手加減なんてしなくていいぜ」
そしてオレと店員の戦闘が始まった。
十数分後。
オレは数ヶ所に打身、左手に深い切り傷を負ってゲーセンを後にしていた。
中にはくたばった店員と破壊されまくったゲーム機。
そしてガラスの破片と、オレの血が落ちているはずだ。
誰かがオレに向かって投げやがった空き瓶は呆気なく左手で握りつぶされた。
「……っかつく……」
あれだけ暴れたというのに、いらいらは治まらない。
肺がずきずきと痛い。息が苦しい。
頭が痛い。
ガラスが刺さったままの左手よりも、殴られた打身よりも。
浮かんでくるのはさっきのバカ店員の顔なんかじゃなくて、あいつの顔と、ガキの顔。
胸がムカムカする。
頭が、痛い。
心臓が痛い。
血が流れ続けている、左手よりも。
なんで、こんなにいらいらしなきゃなんねーんだよ。
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