| 「山口、あいつ知り合いか?」 自己紹介が終わった後、引き続き委員決めになって、教室にざわめきが戻ってきた頃に矢尾が振り返った。 「まさか! 芸能人に知り合いはいねぇよ」 溜息とともに小声で返す。 「大丈夫か? あいつ、寮一緒なんだろ?」 矢尾の声がオレにとどめを刺した。 寮が……一緒? そういえば、そんなこと言ってやがったよな……。 確か同室のやつは石だか岩だかではじまってて柊二ならいいのにって思った覚えが………………。 「岩永、そうか、岩永だ」 オレは消えそうな声でそう洩らして、頭を抱えて突っ伏した。 「そりゃ去年も1年だったんなら寮の部屋も変わらないだろうし、荷物の整理もしなくていいよなぁ」 あんな奴と一緒だなんてオレの人生どうなるんだよ! 「大丈夫か? 部屋、変わってやれるならそうしてやりたいところだけど、規則だしな」 「だ、大丈夫だろ……。きっと」 力なく笑ったオレに、逃げたけりゃ俺達の部屋に来いよ、と言ってくれた。 やっぱ持つべきものは友達だよなぁ、とつくづくと痛感する。 「クラス委員長、誰か立候補いないか?」 面倒くさそうな三木の声が聞こえる。 「先生、山口と上田を推薦しまーす!」 山口? ってオレか! 自分の名前が出てきて驚いて声の方を見た。 去年一緒だった緑川じゃねぇか。 去年、一昨年と同じクラスだったオレと和人は球技大会、体育祭、文化祭その他のイベントも全部優勝する勢いでクラスを引っ張って「黄金コンビ」と言われていた。 一昨年はオレが委員長で、和人が副。去年は和人が長で、オレが副だった。 別に今年はやろうとも思ってなかったけど、あの楽しさはもう一度味わいたいかもしれない。 「なおきー。今年もやるか?」 窓側から和人の声が聞こえる。 「オレはやってもいいよ」 和人の方を向くとその前の席の岩永も視界に入る。げっ、目が合った。 「他、立候補か推薦いないか? いないなら上田と山口で決まるが。」 「先生、僕立候補していいですか?」 目が合ったときにちょっと嫌な予感したんだ。 「岩永、お前休んでばかりいるやつに委員長は出来ないんだぞ?」 「今年はちゃんと来ますって」 整った顔がにっこりと笑う。 「せ、先生! オレ、和人と一緒じゃなきゃ嫌です!」 誰があんなやつと組むかっ!! 「岩永くん、尚輝は和人の嫁さんだからあきらめたほうがいいよ〜?」 何処からか冷やかしの声が上がる。 「誰が嫁だっ!!」 オレは思わず立ち上がって声の主を見た。 何だ、難波か。こいつは中1、2と一緒だったけど、授業中に先生をからかうし、休み時間は騒いでるし、でも、球技大会も体育祭も結構頼りになるやつで、典型的なお祭人間だった。 「本当なの? 上田君」 岩永が和人を振り返った。和人はちらっとこっちを向いてからこう言った。 「嫁じゃなくて娘。俺の目が黒いうちは大切な娘をちゃらちゃらした男にはやれねぇな」 「何で女なんだよっ!」 「こらこら、口論してても進まないだろ。話をまとめると、上田、山口のコンビか、岩永と誰かのコンビが委員長、副委員長になってくれるんだな?じゃあ岩永と組むやつは……」 「僕は山口君がいいです」 「ぜってぇ嫌だっ!」 即答したオレに、岩永はちょっと悲しそうな目をした。 その後、岩永の辞退で委員長はオレ、和人が副委員長におさまった。 「なーおーき!」 HRの後、机に突っ伏してたオレの周りに和人と柊二がやって来た。 「今日、これからどうする?」 「寮には……帰りたくないよなぁ」 そうなんだよなぁ、あの変態と同じ部屋だって考えるだけで頭が重くなるぜ。 「俺達の部屋に来るか?」 矢尾が振り返った。 「行きてぇなぁ」 そういうと、ぽんと頭を撫でられた。 矢尾って触られるのはあんまり好きじゃないみたいだけど、自分からは結構叩いたり撫でたりして来るんだよなぁ。 「泊まるんだとしたら和人くんの部屋の方が広いとは思うけど…………」 「だめだめ、俺の部屋可愛い女の子しか入れないの」 「もし寮に女の子が呼べるとしても、荷物の片付けしてないようなお前の部屋じゃ相手の方から断ってくるな」 矢尾の言葉に「ばれてるか」と和人が笑った。 「ちょっといいかな?」 刹那、緊迫した空気が流れた。 「何ですか?」 机に手を付いて立っていた柊二が相手からオレを隠すように向き直った。 「山口君と話がしたいんだけど」 ついこの間ブラウン管に映っていた笑顔がそこにある。 「何だよ?」 自分でも警戒心剥き出しの顔をしていると思う。でも。相手はいきなり妙なマネしてきやがるやつだ、用心するに越したことはない。 「さっきはごめんね。とっても懐しかったからつい、ね。」 「つい、であんなことするのか?」 矢尾が冷たい瞳を送る。 岩永はもちろん、矢尾もつい見とれてしまうほど綺麗な顔をしているため、睨みあう姿は迫力があった。 睨み合うって言っても岩永はにこっと芸能人スマイルを浮かべているため睨んでいるのは矢尾だけだけど。 ひそひそと回りの連中がこちらを伺っているのが解る。 そらそうだ、芸能人がいきなりクラスメートになって、男とキスしてるんだから、これ以上に予測できないことはない。 「山口、上田」 三木の声にそちらに顔を向ける。 「はい」 「2時から担任会予備資料室で委員長会議だ、遅れるなよ」 時計の針は1時48分。まだ少し時間がある。 しかし三木の言葉で緊迫した空気はいくらかましになった気がする。 「尚輝、早めに行っとくか?」 「ああ」 ガタンと席を立つ。 「あ、尚輝!」 岩永がオレの方へ手を伸ばす。しかしそれはオレに届く前に横から伸びた手によって遮られた。 「岩永くんは僕らと話そうか。尚輝くんについてもね」 矢尾が岩永の手を払い、柊二がにこっと微笑んだ。 オレは心の中で2人に礼を言い、和人と共にクラスを離れた。 「うん、だからそんなにおかしな人じゃなかったよ」 委員長会議から帰ってきたオレはそんな言葉を受け取った。 「おかしな人って、本人を目の前にして酷いなぁ」 和やかに談笑している柊二と矢尾と岩永の姿。 「お前ら、相手がげーのーじんだからってうまく丸め込まれたんじゃないだろうな?」 冗談とも苦笑ともつかぬ調子で和人が矢尾の横のイスに腰を下ろした。 「別に丸め込まれてないよ。芸能界なんて興味ないし。一番危ないのは綺麗な女優さんで釣られそうな和人くんじゃないの?」 「そりゃそうだ」 オレの席に柊二、隣の席に岩永、前の席に矢尾がいて、その隣、岩永の前に和人が座り、オレは一瞬躊躇して、柊二の……つまりオレの席の後ろの机に座った。 「尚輝、覚えてない? 僕のこと?」 朝と同じ質問を投げ掛けられる。 「知らねーって」 オレが答えると岩永は一瞬寂しそうな顔をした。 「そっか。ま、そのうち思いだしてもらうよ」 爽やかに笑うその顔は、やはりテレビでしか見覚えがなかった。 |
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