白衣の天使たち



 『白衣の天使』この言葉で君は一体、何を思い浮かべるだろう?
 恐らく大半の人が、若々しく、活気溢れる、眩しいばかりの笑顔の看護婦さんを挙げるのだろう。
 だがしかし、この物語は看護婦さんの話ではないのだ。
 そう、白衣を着たある奴らの物語だ。
 まあ、若々しいことは若々しいのだが……。

 
 
  
 満開の桜に迎えられ、オレはこの私立維新高等学校に入学した。
 新設のこの学校には、まだ、2年生とオレら新1年生しかおらへん。
 ああ、この制服、1年間(たった1年やけど、オレにとったら人生の15の1や)憧れ、夢にまで…見てへんけど、まあええやん。そんだけ来たかってん。
「帝! 学校の門の前で何を、ぼーっと突っ立ってんねん! 邪魔やで」
 不意に後ろから掛けられた声に振り返る。
 って別に振り返らんかったって誰かわかってんねんけど。
「弥生、おはよう。今日からオレら高校生なんやなぁって思ってたら、何や嬉しくてな…」
 高校生になったから、バイトやって出来るし、ボロい男子校やった中学とは違って新設でキレイやし、共学やから彼女もできるかも知れへんしな。
 ー キーンコーンカーンコーン ー
「げっ、チャイムや。急がなっ!」
 っと言い、横を向いたオレの視界に弥生は映らへんかった。
 そして、慌てて辺りを見渡すとはるか先の校舎の入口に奴はおった。
「薄情も〜ん!!」
 このオレを置いていくとはどういうことやねん! それでもお前はオレの親友か!
 オレは溢れ出る涙を抑えて(?)思いっきし走り出した。

 
「このHRの時間は、自己紹介と委員をきめますね。では、出席番号1番の人からお願いします」
 堅苦しい入学式も終わり、オレらは自分のクラスへと入っていた。
 推古 美倭(すいこ みわ)と黒板にでかでかと書いたある。若くて結構、美人な女の先生や。
「先生美人やな」
 オレは上半身をひねらせ、後ろの弥生に小声で話しかけた。
 そう、幸いにも弥生と同じクラスになれたんや。
 オレらの中学からこの高校に受験したんは10人ぐらいおってんけど、そのうち受かったんはオレと弥生ともう1人の3人だけやった。
 10クラスもある中で同じクラスになれたんはやっぱり運命っちゅうか、なんかそんなもんを感じてまうわ。
「ああ、せやなぁ」
 なんや、やる気のない声が返ってくる。
 男子校時代は先生まで皆、男やったから女の先生とかめっちゃ新鮮やねんけど弥生はそうでもないみたいや。
「クラスの半分は女子やし、やっぱり共学ってええよなぁ」
「まあな。それよりおまえ、クラブどこにするか決めた?」
 涙を流して力説するオレをあっさり交わす弥生。
 何やノリ悪いなぁ。
 女の子の話乗って来ぉへんいうことはお前はホモか!
 なんて突っ込みたくなるわ。
 まあ、弥生がホモなんて訳ないけど。
「クラブなぁ。中学ん時は帰宅部やったし。どっか入ろっかなぁ」
 男子校の体育会系は怖かったでぇ、マジで。
 軍隊かなんかみたいやったもん。
 文化系は文化系でオタクみたいなんばっかりやったしさぁ。
 唯一まともやったんが軽音とか管弦楽とか音楽系の部やったけど、どうも音楽は苦手やったし、なんも入るとこあらへんかってん。
 そう考えたらなんかめっちゃ入りたくなってきた。
「高校は部に入って青春したるでーっ!!」
「うるさいわっ!」
「そこぉー!! 相模くんと宗くん! 静かにして! それに次はあなたよ、相模くん」
 思わず立ち上がって叫んでしもたオレは、どこから取り出したのか弥生のハリセンによる鋭い突っ込みと、クラス中のくすくす笑い、そしてオマケに先生のお叱りまで受けてしもた。
 皆がこっち見てる……。
 あぁ、自己紹介やっけ。
「えーっと、オレは今、先生からご紹介に預かりました、相模 帝(さがみ みかど)です」
「同じく、俺は宗 弥生(そう やよい)です。前にいる帝とは幼馴染み、ゆーやつで」
「そうそう、オレが小学5年生の時に大阪からこっちに来たら、こいつまでついて来おって」
「友情のために、オレは家族を捨てて…ってんな訳あるかっ! 単にオレの親父とこいつの親父が一緒のプロジェクトチームで、こっちで仕事をするって言うたんでついて来たんや!」
 ばしっとハリセンで肩を弾かれる。
 このハリセンは弥生が常に携帯しているもので、学校におっても家におっても、電車の中や修学旅行のときですらオレの頭に振ってきたもんや。
「やっぱり、ついて来たんやないか」
 とぼけた顔を作って、しれっと言うてみる。
「親父にや、おまえについて来たんとちゃう」
「んな、照れんでもええやん。オレとおまえの仲やろ〜」
 弥生の机の上に座り、弥生にしなだれかかるようにして見上げてみた。
 そう、こいつオレより背高いねん。
 はっきり言うとくけど決してオレがちっさい訳やないで?
 174センチやったら上等やん?
 弥生は185センチもあんねん、信じられへんわ。
「どんな仲やねん!」
 弥生が気持ち悪そうにオレを突き飛ばし、ハリセンが振り下ろされる。
「ストップ! あなた達が仲がいいのはよくわかったわ。でも次の人達の時間がなくなってしまうので、その漫才の続きはまた今度お願いするわね」
 くすくすと笑いが聞こえる中、冷静な先生の声によってオレらの漫才的自己紹介(……自己紹介的漫才か?)は中断した。
 
 
 そんで、何事も起こらず委員会も決まり、今日はこれで終わりやっていう時、オレと弥生は大勢の女の子に囲まれた。
「ねえ、相模くん。入るクラブ決めた?」
 栗色の髪にまん丸の目の可愛らしい女の子がにこっと首をかしげる。
「宗って変わった名字ね。なんか名前みたいでおもしろーい」
 柔らかなパーマのかかった、一見年上に見えるおねえちゃんが弥生に近づく。
「私のお兄ちゃん、漫才研究会にいるんだけど入らない?」
 短い黒髪のさっぱりした感じの女の子が弥生のハリセンを興味深そうに眺めてはる。
「なによ! 相模くんたちをそんな変な部に入れるつもり? 相模くんほどかっこよかったら、絶対、演劇部よ!」
「絶対、宗くんはバスケ部よ! 背、何センチあるの? 肩幅あるし、かっこい〜」
 周りできゃいきゃい言う女の子たちにオレらは、ただただ圧倒されるだけやった。
 そう、何を隠そうオレらは男子校出身。
 女の子と話す機会なんて、ほとんどあらへんかったんや。ビビってもしゃあないやろ?
「あ、ゴメンな。オレらこれからクラブ見学しに行くねん」
 そう言うて、オレは立ち上がった。
「ゴメンな。じゃあまた明日」
 弥生も立ち上り、二人して逃げるように教室を後にした。
「はあ、情けないなあ。あんだけ、ようさんの女の子がおったのに全然しゃべられへんかった」
「まあしゃあないわ。卒業までにはなんとかなるやろ。で、どこから行く?」
 弥生がそう言うた時、オレは妙な気配を感じた。
「誰や! あんた!」
 叫ぶオレを無視して、そいつはオレの肩や腰をべたべたさわっとる。
 そして叫びおった。
「素晴らしいっ!! この指、この肩、この腰、この鎖骨、この全体の骨格、この顔! どこをとっても完璧だっ!!!」
 がしっ!と肩をつかまれ、ビビるオレ。なんやねん、こいつ?
 目の前の変質者は真っ白な(って当たり前やけど)白衣を着て、黒く細い縁の眼鏡をかけてて、ちょっと神経質そうに見えるけどかなりの男前な顔やった。
 その顔をばっと上げてオレに、もう少しでぶつかる、ゆうとこまで接近しはった。
「っ!!??」
 一歩退くオレ。
 先生かと思ってんけど、かなり若いわ。
「きぃみぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
「っはひぃ……!」
「理科研究会に入らないかっ!?」
「………………はあ?」
 
 


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