「はあぁぁぁぁ!! 聞いてへんでぇ!?」
 3時間目が終わった時、それは起こった。
「聞いてないって時間割にあるわよ?『オレの勇姿を見せたるわ』って、言ってたじゃない」
 せや、今日は体育で体力測定やってんや。なんでよりにもよって体力測定やねん。まあ、健康診断やないだけマシかも知れんけど。
「おい、帝! おまえどうすんねん」
 弥生がオレをつつく。
「どうしょ〜」
 悲壮な顔で抱きつくオレの頭を撫でられる。
 あ、今度は逃げられへんかった。さらしのおかげか?
言うてる間に女子は全員更衣室に行って、残った男子も着替え始めとる。
「しゃあない、オレも男や。まあ、今は女やけど……やなくて! 正々堂々と体育の授業をうけたる」
 そー言うてオレは制服の上着を勢いよく脱いだ。
「ちょお、待て。帝! 今、着替えたらみんなに女やってばれるで」
 弥生がオレを引っ張り耳元でこそこそと小声で囁いた。
「別にええやん」
「………言うとくけど、今のおまえはただの変態やで。心は男やのに、何や知らんけど急に女になったりする…」
「へ、変態は、嫌や……」
 そしてオレは皆が教室からいなくなってから着替えることになった。
 なんかめっちゃみじめやぁーー。

「はぁぁぁ。不便やなぁ、ずっと治らんかったらどうしょう?」
 一緒に2人組みの準備体操をやってる弥生に聞いてみる。
「オレに言われたかってなぁ」
「はーい、そこまでー、集合ぉー!!」
 先生の声でわさわさと集まる。推古先生って体育の先生やってんなぁ。
 まあ、美人やけど豪快でええ先生やん。
「男女に分かれて出席番号順に整列! 並び終わったら男子、女子の前半は時計回りで、後半は半時計回りで体育館の各場所にある測定器具で図ってね。2人組で図るものもあるから男子同士、女子同士でペアを組むように。終わった人から帰って良し。はい、何か質問!? ないわね? じゃあ始め!」
 だーっと流れるように説明される。
 体力落ちてへんやろうなぁ?
 これで女並の体力やったらオレめっちゃひ弱な奴やって思われてまうやん!
 オレは大きな溜息をついた。
「ひやぁっ!」
 急に腰の辺りからぞくぞくとした悪寒が伝わる。
「うーん、相模くん、ウエスト細いわねぇ。女の子みたいじゃない! そんなことじゃだめよぉ」
 きゅっとオレの腰を掴んでいた推古先生がばしばしと肩を叩く。
 流石体育教師や、実に的確や。
「ちょ、ちょっと昨日下痢してしもて、ウエストぐーんと縮んでしもたんですよ」
 オレの苦しい言い訳を笑い飛ばして去っていく先生。
 はぁ、びっくりしたぁ。
 心臓に悪いわ。
 
 と、いうことで、どうやら体力は男の身体の時と変わってへんようや。
 握力やって、腹筋やって、「受験でちょっと落ちたわぁー」ぐらいやし。
 いや、ほんまに男の身体で測っても全く変わらんかったやろうと思う結果でほっとしたわ。
 一体この身体はどないなってんねやろ? ようわからんわ。
 まあ、無事に体育も終わって速攻で教室帰って着替え終わってんけど、汗びっしょりかいてしもた。
 その上、さらしがきつくて暑くて気持ち悪いねん。めっちゃ外したいわぁ。外してええかなぁ?
 だって、ほんまに暑いで?
 砂漠のど真ん中で胸だけ日光浴してるみたいやねん。息苦しいし。
 よぉ、これで男の時と変わらん結果出せたもんやわ。
 幸い今は昼休みやし、よし、外したろ♪
 オレはきょろきょろと辺りを見回し、トイレに入った。
 あ、当然男子トイレやからな! 一応言っとくけど。
 個室の方に入って戸を閉め、鍵をかけて蓋を閉じ、制服の上を脱ぐ。ぱらぱらぱらっとさらしが外れていく。
 これって二人おったらあの伝説の「悪代官と町娘」出来るやんなぁ?
 あ〜れ〜とか叫んでるやつ。
 弥生でも呼んできたら良かったかなぁって別にそんなんしたい訳ちゃうけど。
 あー涼し。めっちゃ汗かいてるし。
 なんか拭くもん持ってきたら良かったなぁ。
 って、トイレットペーパーあるやん♪
 からからと紙を引きだし胸元を拭く。女の人、よぉこんな重くて暑いもん持って歩いてられるわ。尊敬やね。
「帝ー、おるかぁ?」
 トイレのドアが開く音と一緒に弥生の声がした。
「おう、おるでー何?」
「お前今日弁当忘れて行ったやろ? おばちゃんから預かったあるで?」
 オレはばんっと音を立てて個室のドアを開けた。
「弥生ー!! お前は心の友や! 昼飯の恩人や!!」
 弥生の飛びつき、首に腕を回してぎゅっと抱き付く。
 育ち盛りの高校生にとって昼飯は重要やねんで!?
「だーっ! 帝! なんちゅー格好しとんねん!!」
 弥生の言葉に我が身を振り返れば、あらビックリ、上半身裸やわ。
 当然女のままやからでっかい胸があるわけ。
「あはっ♪」  
 オレは弥生に向かってにこっと微笑んでみた。
「あはっ、やないわ! 誰かに見られたらどーすんねん!」
「弥生、弥生」
「何や!?」
「後ろ」
 弥生がゆっくりと振り返る。
 オレらのでかい声で何事かと飛んできたたくさんの生徒と、推古先生が目を丸くしてこっちを見てはった。
「あはっ♪」
 オレは先生に向かってにこっと微笑んでみた。
 先生はつかつかと男子便所に入ってきてにこっと微笑んだ。
「相模くん、宗くん、職員室まで来なさいね♪」
「はーい」
 オレらは「よい子のお返事」しか出来きひんかった。
 オレの学園生活がぁ…………。
 お先真っ暗やわ。はぁ。      
 

オリジナルトップへ戻る BACK  NEXT

地下水トップへ戻る