「あの理科研究会なら仕方ないわねぇ……」
 職員室でこれまでのいきさつを話したオレと弥生に、推古先生は深々と溜息をついた。
 仕方ないって、それで済ませてええんか!?
 いや、オレにはどうしょーも出来へんねんけどさ。
「困った子よねぇ、大和くんは。悪い子じゃないんだけど」
 せやせや、困った子やあの人は。って、ん?
「先生、崇峻さんのこと知ってはるんですか?」
 オレの疑問を弥生が口に出す。
 流石は相方。コンビ組んで長いだけあるわ。
「そりゃあ、知ってるわよ。理科研究会って言えば変人の巣窟じゃないの」 
 理科研究会に気をつけろって連絡事項で言うべきかしらねぇ、と推古先生が真剣に頭を抱える。
 はぁ、何でオレそんなエラいところに関わってしもてんやろ……。
「とりあえず、大和君には私の方からも言っておくから、早めに元に戻してもらいなさいね」
「はーい」
 オレは本日2度目のよい子のお返事をした。
 ホンマ、早よ治して欲しいわ。
   
 
 
「では、治すか」
 放課後。またしても、オレは理科研究会の部室のベッドの上におった。
 横では弥生と岩城さんがちょっと離れたところから見守っている。
 いや、そんな離れんでもええやん……。
 ちょっと寂しいわ。
「帝くん?」
 あ、せや、大和さんはベッドのすぐ脇に立ってるんやった。
 これから恐怖の再現をするために。 
 あー、めっちゃ嫌や〜。注射並やでホンマに。
 オレはベットに横たわり、覚悟を決めて目をつぶった。
 ………………………………………………。
 何があったんか、どんな感じなんか、聞くんはやめて…。頼むから…。
 オレは起き上がり、無言で上着のボタンを外した。
「ほんまに、これで戻るんですか?」
 そんな言葉がこぼれる。そして、オレはベッドの上に立ってベルトを外し、制服のズボンを下ろした。…トランクスの中を見る。
「やっぱり女や…。この後、何しました?何や、ようさんしゃべっとって……」
「私が……」
「キャァァァァァァァァァァァァ!!!!」
 オレの口から凄まじい声が出た。だって、だって、胸揉まれてんでっ!?
「何すんねん! 変態!!……って前も言うとった気がする」
 ばさっとオレの肩に白衣がかかった。
「これで戻らんかったら、どうしてくれんねん」
 オレの言葉が終わるか終わらんかの時、オレの身体に異変が起こった。
「ああっっっ。戻っとる!!」
 小躍りしながら喜ぶ。
 あぁ、数時間ぶり……んーと朝起きた時には女やったから昨日の晩ぶりの男の姿や♪
 嬉しゅて嬉しゅうてしゃーないわ。
「けど結局、何で元に戻ったんです?」
 踊り狂うオレを他所に、冷静な弥生が大和さんに聞いた。
「さて、私には理解できないな」
「あんたが作った薬やろ!」
 オレは手の甲で(典型的や)ツッコミをいれる。
「そう言われても、私が作ったのは『理科研究会に入りたくなる薬』だ。一体、なんの分量を間違えたのか……」
「いいかげんやなぁ」
「とりあえず、これから詳しい実験をするとしようか」
「実験て、せめて検査とか言うてや」
 オレの嘆きも空しく、機械の塊がぎょーさんあるところの横の机のパソコンに向かい大和さんが淡々と言うた。
「さて、まず、今わかってことは君の意識がなくなると変化するということだ」
「意識がなくなると……?」
 そういえば、一回目も二回目も目が覚めたら女になっとったな。
「で、他は?」
「不明だ」
「……」
「……」
「……まあ、どうやったら女になるんか、わかったからええやん」
 弥生が言う。他人事やと思って……。
 薄情な奴や!
 オレはぷぅっと頬を膨らませた。
「けど、どうやったら元に戻るのか、わかってないんでしょ?」
 磐城さんの言葉にオレは大きく頷いた。
 寝ぇへんっちゅう訳にもいかへんし、でも寝て起きたら女になっとって、いちいち大和さんに……されへんと戻らへんなんてめっちゃ不便やん。
 きっぱりすっぱり治して欲しいわ。
「そこでだ、どうやったら元に戻るのか、ということを解明しようと思う」
「…で?」
「まず、これをみてくれ。帝くんが目を覚ましてからの行動をまとめてみたものだ」
 ----------------------
  大和にキスをされる
  服を脱ぐ
  女であることを確認する
  大和に胸を揉まれる 
  叫ぶ
  白衣を着る
 ----------------------
「ろくなことやってへんな…」
 弥生が肩を竦めて溜息をついた。
「オレが好きでやったことやないわ」
 全部大和さんの行動からやんけ。
 この人が諸悪の根源や!
「それで、まず何をしようとしてるの?」
「まず、大和とある部分を他の人物がするとどうなるか…」
 ー ガタッッ ずざざっっ ー
 弥生が立ち上がり扉の方へ逃げる。
「弥生?」
「……俺、帰るわ」
「何でや!」
 オレも立ち上がって弥生に近づく。
 弥生はオレから逃げるように一歩後ろに下がる。
「だって、帝とキスすんの嫌やもん」
 ………。
「オレかって嫌やっ!」
「私もちょっといやー」
「んな、磐城さんまで………」
「あ、飛鳥でいいわよ」
「私は別にいいが……」
「あんたには聞いてへんっ!」
 たくっ、なんやねん。人が困ってんのに、わいわいと………。
 誰でもええから実験でも何でもして早よ治してーー!!
「まあ、私の代わりに誰がするかはひとまず置いておいて。とりあえず女になってもらおうか」
「なれ、言われてなれるようなもんやないような……。今、眠りたないし」
「大和の作った睡眠薬があるじゃない」
 んなもん作んなよ、この人は……。
「そういえば、前に作ったな。たしか、ここに……」
 大和さんが近くにあった鍵付きの薬棚を開け、怪しげな瓶の中から『水銀』とラベルの貼った小瓶持ってきた。
「それ、水銀て書いたあるで!」
「ああ水銀の空き瓶に入れておいたのだ。ほら、中は白い粉だろう。水銀はもっとこう………」
「説明はいらんわ。で、それを飲むん?」
「水に溶かして、少量飲めばいい。」
 言いながら、ビーカーに水と粉を入れる。
「副作用とかないやろな。」
「安心したまえ、副作用はない。ただ、一度に3ミリグラム以上飲むと永眠する」
「あほかぁー!!」
 オレは弥生の手にあったハリセンを奪い取りすがすがしい音をたてた。
 ちなみに、よくハリセンの音を
 ー バシッッ ー
 ー スパーン ー
 ー パァーン ー
と、表現する人がいるみたいやけど、そんな浅い音やないで。もっと深いんや。
 まあ、ハリセンの音について語りだしたら日が暮れても終わらんから、オレは一応
 ーばしっー
なんかを使ってんねんけど。
「しかし、これを飲まなければ女になれないではないか」
 は?
 ……あ。
 うわ、今、めっちゃ話忘れとった………。
「永遠の眠りについてまうわ!!」
 オレの言葉に、大和さんは、
「私も飲めばいいのだろう?」
とビーカーに口を付け、中の透明な液体を飲みほした。
 おおぉぉぉぉぉぉぉーーっっっ!!!
 どよめきがおきる、オレの心の中で。だってどよめき起こせるほどの人数おらんもん、今。
 え?そーゆー問題ちゃうって? まあ、気にしなや。
 大和さんは下をむいてはるままや。
「大和さん、寝てしもたんですか?」
 そう、この時、オレは不覚にも大和さんの半径50cmの危険地帯に入ってしもたんや。
 ばっと急に顔を上げた大和さんは、オレを抱き締めオレの口の中に液体を流し込んだ。
 ー ごくっっん ー
「美味しい?ミカちゃん?」
 飛鳥さんの言葉に答える間もなく、オレの意識はなくなっとった。
 
 
 

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