| 「……あ…………」 思わず零れた声を、喉に力を入れて押しつぶす。 ユニットバスの浴槽の底に打ち付けるザーっというシャワーの音で外に声が漏れることはないと思うのだが。 俺は立ち上がりかけている自分の欲望をゆっくりと手で扱いた。 感じやすい身体を持つ俺は、週に1度必ずこうして処理をしている。 半ば義務的に行っているこの行為を1週間以上空けると、苛々したり、どんな些細な刺激にも感じやすくなってしまう。 感じやすい身体なのに自分の手ではまるで感じられないという厄介な体質で、俺はそれを誰かを想像することで処理してきた。 昔は女の人が想像に居たと思うが、山口を好きになってからは、申し訳ないと思いつつあいつのことを考えていた。 しかし、山口に恋人が出来、山口を想うと失恋の痛みで萎えてしまい、処理することも出来なくなってしまったため、最近はしていなかった。 しかし、そうも言っていられなかった。 この厄介な身体は放っておけば快楽を求め、吹き出し口を求めて彷徨う。 子安が転校してきて5日経ったが、 「隆史かTAKAKOって呼んでね」 と言い回っているため、多くの奴があいつを隆史と呼ぶ。 一番厄介なやつは、そんな大勢よりも、あいつ、なんだが。 「うっ…………」 何も考えることがなくて萎えてきていたモノが熱を帯びる。 耳に残る声。 『俺はお前が好きなんだ。誰にも、……尚輝にも譲れないぐらいな』 口内に上田の舌の感触が蘇る。 大きな手が俺の身体を撫で回す。 駄目だ、想像したくない! 思い出したくない! 『俺が好きなのは、矢尾貴志。俺の前の席の奴だよ』 囁かれた言葉が俺の考えを押し流す。 上田がそうしたように胸に手を這わせ、ぴんと立ち上がっているものを摘んだ。 「……んっ…………あぁっ」 感じにくい自分の手による自慰にしては珍しいほど早く吐き出された欲望に驚きながら、肩で息をする。 白い液を放ったばかりのものは、まだ足りないというように再び立ち上がり始めていた。 今まではこんなことはなかった。一度終わらせるのがやっとで、2発目なんて考えたこともなかった。でも、これを処理しなければ、風呂から出て寝ることも出来ない。 早くイって良かったのか悪かったのか。 仕方なく立ち上がりかけているものの指の腹で擦る。 あいつは、これを舐めたんだっけ。 『抵抗しろよ。和姦でいいのか?』 声と感触が蘇り、欲望が一気にそそり立つ。 あいつの舌が俺のものの上を這う。 『俺じゃ、駄目か?……貴志』 「あっ、あぁ……っん……」 無意識のうちに後ろに伸びていた手が奴の欲望をくわえ込んだところを解きほぐす。 多少の痛みはあるものの、そんなものは大波の前のさざ波のように快感に流されてしまう。 こんなところで感じてしまうなんて、考えたくもないことだけど、気持ち良いのだから仕方がない。 上田がそうしたように、1本ずつ本数を増やし、解きほぐす。 痛みだとか不快感だというものはすでに全く消え去り、ただ気持ち良さだけが俺の身体を支配している。 『入れて、いい?』 内壁を押し広げる圧迫感。何処までも押し広げられてしまうような感覚。締めつけて感じる大きさ、形。 「……やっ……あぁんっ……」 俺は2度目の白濁した液を吐き出して、水の中に崩れ落ちた。 肩で呼吸をしながらシャワーを止める。 静寂の中で俺の息だけが大きく響く。 息を整えて立ち上がり、シャワーで体を流しながら風呂の栓を抜いた。 ごーっと渦を作って吸い込まれていく白が混ざった水を見て、俺は小さく溜息をついた。 いつのまにか机の中に入れられていた手紙には『放課後、正門に来い』とだけ書いてあった。 せっかく今日は生徒会に行かなくてもいい日で柊二と一緒に図書室に行く日なのに。 まあ、柊二は今週は当番でないため、委員会の仕事ではなく、自分の趣味で本を読みに行くだけなので絶対に行かなければならないということでもないのだが。それでも柊二が楽しみにしていることには変わりがない。 呼び出しは何もこれが初めてというわけではなかった。 柊二を好きになったやつに「柊二の隣からどけ」と言われたり、俺自身を好きになった奇特な奴に「好きだと」告白されたり。 もっとも、柊二の場合は8、9割が男だが、俺の場合の男女比は半々だったけれど。 しかし、正門に呼び出しというのは初めてだった。 リンチをするにしても告白をするにしても人通りが多すぎるだろう。しかも、放課後というだけで時間指定も何もない。 それに机の中などに入れておいて俺が今日これに気が付かなかったらどうするつもりだったのだろうか? 柊二に一緒に図書室に行けないことを告げ、その理由を話す。 机の中に入っていたこと、そして文面から見て呼びだした奴はこの学校の生徒、つまりは男で俺に恨みでも持っているのだろう。正門に呼びだされているということは、もしかしたら場所を変えて話をされるのか、一発殴られて終わりなのかもしれない。 話が終わったらすぐに図書室へ行けるように鞄は持っていくことにした。地下にある図書室には階段をのぼって教室に鞄を取りに来るよりも昇降口からそのまま行ったほうがずっと早い。 そんなことを考えながら正門へ向かう。 「あれ? 矢尾くんもう帰り?」 下駄箱で靴を履き替えている俺の横で長い黒髪が揺れた。 ぽん、と肩に置かれた手をさり気なく払って向き直る。 「正門に呼び出しを受けているんでね。子安は今日は仕事か何かか?」 人気アイドルの岩永ほどではないが、子安もモデルとしてよく仕事に行っていた。 もっとも、岩永は今年は学業に専念したいらしく、仕事を選び、抑えているらしいのだが。 「今日はねぇ、プライベートな用事」 くすっと笑う子安。 背中までの黒髪に長い睫毛、ミニスカートから伸びる足は女にしか見えない。 「じゃあ俺はここで」 並んで正門のところまで歩き、俺は足を止めた。 下校時間である今はやはり人が多い。部活に入っていない奴等の殆どがこの時間に帰るのだから当然と言っては当然なのだが。 「実はあたしも正門で人待ちなのよねぇ」 子安はそう言って正門に寄りかかった。 子安が転校してきて1週間近く経っているが、いつも上田にべたべたとくっついているこいつと2人で話す機会なんて初めてだった。 「あたしさぁ……」 「ん?」 子安の声に顔を上げる。 「和人が好きなのよねぇ」 「……それで?」 出来る限り平静を装って答える。上田の口から上田が好きなやつの名前を聞いているこいつはおそらく俺を敵視していることだろう。 待てよ……。 「あなたが、邪魔なの」 子安の言葉が終わるか終わらないかの時、灰色のワンボックスカーが凄い勢いでこちらに走ってきた。 急停車した車から降りてきたのは見たことのある制服に身を包んだ男達だった。緑陽(りょくよう)第二高校の制服か。そう考える暇もなく腹に衝撃が走るとともに猿轡を噛まされ、後ろ手に縛られ車に押し込められた。 「何すんのよっ!」 妙に遠くで子安の声が響き、奴も同じように車に乗せられたようだった。痛みで意識が朦朧としている。鳩尾に決まっていたようだ。 一言も声をあげることなく、俺や子安を襲った男達が乗り込んできて車が動きだした。 俺の意識はそこで遠くなった。 |
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