功司さんから受け取った紙袋に入っていたのは間違いなく俺のジャケットで、俺は小さく溜息をついた。
 あいつには知られたくなかったのに。
 生真面目な性格のあいつのことだ、憎んでいる俺に感謝しなければならないなんて、堪え難い苦痛だろう。元はといえば隆史のせいであり、もっと言えば俺のせいなのだが……。
 俺は机の上に置いてある紙袋を見つめた。
 功司さんを問い詰めてみても「同級生?」なんて逆に聞かれるし。
 まずい人に弱みを握られてしまったかも知れない。
 でも、タクシーでなんて不安だったし、他に車に乗れる知り合いは思いつかなかったんだ。
 俺は頭を抱えて大きく溜息をついた。
 こんこんと叩かれる戸。
 点呼はさっき来たし、尚輝ならノックなんてしない。
「開いてるぜ」
 キャスター付きのイスをくるりと回転させ、来客者を待つ。
 カチャリとノブが回り、現れた人物に息を飲む。
「……矢尾」
 ドアを閉め、鍵をかける矢尾。
 風呂上がりなのか少し上気した肌に紺色のパジャマ。暑さのために上の方のボタンは掛けていない。ちらちらと見え隠れする鎖骨。半袖から伸びる細い腕。
 何も言わずに俺の前に立ち尽くす矢尾は、俺の目から見れば誘っているようにしか見えない。
 美しい身体の所々に昨日の悪夢の痕があり、抱き締めて、押し倒して、全ての痕を俺がさらに強い痕を残して消してしまいたくなる。
 俺は矢尾の身体から目を逸らした。
「ごめんな」
 出てくる言葉はそれしかなくて、俺は黙って矢尾の言葉を待った。
「……痕が、残った」
 細い指が動き、眼鏡を外し、俺の後ろにある机の上に置いた。
 間近にある矢尾の髪、ふわりと漂うシャンプーの香り。
 そしてその指は、紺色のパジャマの上着にかかる。
 ボタンが一つ一つ外され、まだ痛々しい痣の痕が残る肌が露になった。
 矢尾の信じられない行動に、目が釘付けになる。
 何を言おうとしているのだろう?
 じっと矢尾を見つめる俺の視線を避けるように、矢尾が顔を逸らした。
 赤く染まった耳、抱き締めてキスをしたくなる首筋、座っている俺の目の前にある桜色のぴんと立ち上がった乳首。
 気が付くと立ち上がって、抱き締めていた。
 俯いたままで俺の方を見ようとしない矢尾。
 身体は小さく震えていて、ぴったりとくっつけた身体には矢尾の下半身のぴくぴくと脈打つ昂ぶりが感じられた。
 感じやすい矢尾は、抱き締められただけで、勃っちまうんだよな。
 こいつの身体が全身性感帯なのを知っている俺は、卑怯者だ。
「逃げないと、また、お前を抱く」
 言葉ではそういいながら抱き締める腕の力は弱められない。
 俯いている顔に手を添え、唇を重ねる。
 甘い唇。優しいキスから深いものにと変えていく。
 ぴくんっと身体が震え、矢尾の身体から力が抜けた。
「相変わらず感度良いな」
 唇を離し、首筋に舌を這わせる。
「あっ……」
 甘い声。熱い息。
 俺は左手で体を支えながら右手で上着を脱がし、胸に舌を這わせた。
 ベッドに座らせ、ズボンを脱がせる。
 甘い香り。
 きめ細やかな肌。
 体中に付けられている痣の上から俺の痕をつける。
「……んっ……」
 触ってもいないのに再び熱を持ち始めるモノを掌で撫でる。
「すげぇ。これって、Tバック……?」
 前の下着とは違い、少しざらざらした手触りの布地は前は局部を覆う最小限しかなく、後ろは紐のように細かった。
「やっ……」
 下着の上から後ろを攻めると腰を浮かせて、おずおずと足を開く。
 前よりもずっと反応がいい。
 俺は右手で熱くなっているものを下着越しに扱きながら、自分の服を脱いだ。
 指先で根元を刺激しながら肌を寄せ、唇を重ねる。
 唇から首筋に降りていき、しっとりと汗で湿っている肌を舐める。
 汗の匂いさえ、酷く扇情的で甘い。
 こいつの汗には俺を魅了する成分が含まれているのではないかと思うほど、自分で余裕がなくなっていくのが解る。
「……やっ…あぁっ……んっ」
 下着の中に手を入れ、直に指で刺激しただけで、それは呆気なく破裂した。
 はあはあと熱い息をする矢尾の胸を指でなぞる。
 白濁した液を指ですくい、紐のように細い下着の横から、後ろに塗り付ける。
 入り口を軽く指でなぞり、侵入を試みる。
 狭くきつい壁だが、俺を奥へと誘うようにざわざわと動いていた。
「やぁっんっ……」
 内壁の何処を撫でても甘い声が上がる。
 前より感度が上がっていると思うのは気のせいだろうか?
 後ろを解しているだけなのに立ち上がっているモノを、下着の上から舐める。 
「やっ、脱、がせ…て……」
 矢尾の手が下着にかかる。
 その手を掴み、指を口に含む。
 昂ぶりにするように先端を舌で圧迫し、下から上にゆっくりと舐める。
 ぴくぴくと痙攣を起こすモノを横目で見つつ、後ろの指を抜き、一気に下着を脱がせる。
「あぁ……っ」
 熱い吐息。
 俺は自分の理性の限界を感じながら、2本の指を後ろに埋めた。
 息が出来ないほどの深いキスをしながら後ろの指を奥へと侵食させる。
 俺の昂ぶりが、矢尾のモノに当たって擦れる。
「っ、はぁっ……」
 零れる息。揺れる瞳。上気する肌。汗で湿る髪。
 全てが愛おしい。
 昂ぶりに感じる異様なまでの快感に、俺は矢尾の顔を見つめた。
 目を逸らして俺の首筋に顔を埋める矢尾の指は、俺のモノと矢尾のモノを擦り合わせるように動いていた。
「もう、いい……」
 制止するように、後ろを解す俺の手に重ねられた手。
 真っ直ぐに俺を見つめる瞳には羞恥と快楽が混じっていて、俺は自分の昂ぶりを、矢尾の秘所に押し当てた。
「やぁっ……ん、」
 きつく締めつける内壁を広げるように奥まで押し込んだ途端、矢尾のモノが弾けた。
 きゅっと締め付けられる快感に俺の腰が疼く。
 ゆっくりと抜き差しすると、放ったばかりのモノが立ち上がり、存在を主張する。
 ざわざわと動き、俺を最奥へと誘う内壁。
 綺麗な顔を上気させ、甘い声で喘ぎ、腰を揺らす。
 今まで抱いた女とは比べ物にならない気持ち良さ。
 俺は夢中で貫き、矢尾の中に欲望を放った。
 

 
 気だるいほどの暑さに目を開けると腕の中に綺麗な寝顔があった。
 1度目の時は「出て行け」と部屋を追いだされて、服を着てさっさと帰られてしまったから、こうして隣に矢尾がいる状態で目覚めたのは初めてだった。
 長い睫毛、綺麗な肌。男だとわかっていても興奮してしまう色を帯びた肢体。
 最高に可愛かったなぁ。
 どういう訳か、俺の身体を欲してくれた矢尾。
 1度や2度では足りず、何度もお互いを求め、身体を重ねた。
 甘い声を上げて乱れる姿を思い出し、身体が熱くなる。
 矢尾が目覚めて出ていってしまうまで、もうすぐ消えてしまう幸せな夢を噛み締めて、俺はもう一度目を閉じた。
 腕の中の身体が動き、その熱が離れていく。
 寂しさを感じながらも、この非現実的とも思える幸せな夢の終わりに満足している自分がいた。
 矢尾の腰の辺りに掛けられていた腕を取られ、人差し指に柔らかな感触があった。
 唇……?
 目を開けた俺に気付いた矢尾は、慌てて手を放して背を向けた。
「貴志」
 後ろから抱き締めると、ぴくんと身体が跳ねる。
「……名前で呼ぶな」
 振り払われずに抱き締めさせてくれていることに驚き、嬉しくなる。
「お前しか…………」
「ん?」
 呟かれた言葉は最後の方が聞き取れず、俺は聞き返した。
「お前しか感じなくなった! 責任をとれって言ってるんだっ!」
 顔を赤く染めて叫ぶ矢尾を強く抱き締める。
「一生、お前だけを愛しているよ」
 幸せな口付けは、数分後に鳴り出した目覚まし時計に中断されたけれど、信じられないほど幸せな空間は、しっかりと目を覚ました後でも続いていた。
 
 

 広い図書室の片隅。偶然会ったと思ったクラスメートは俺を待っていたらしく、しかし会話の途中で黙りこくってしまった。 
「なあ、上田」
 男を背に立ち去ろうとしたところを呼び止められる。
「あぁ?」
「……矢尾と石田って付き合っているのか?」
 問われた内容に頬が引き攣る。
「な、何だよお前。柊二狙いか?」
 儚げで天使のように可愛い笑顔の柊二を好きになるやつは少なくない。
 しかし嫌な予感はしていた。
「………いや、矢尾、なんだけどさ……。最近、矢尾、綺麗になったよな。いや、前から綺麗だったけどさ、より綺麗になったっていうか、妙に色っぽくなったっていうか」
 俺は大きく溜息を吐いた。
「悪いな、矢尾が付き合っているのはこの俺。あいつだけは誰にも譲れない」
 がっくりと肩を落として去っていく級友に小さく手を振る。
「誰と誰が付き合ってるって?」
 誰が来るか解らない図書室で何の話をしているんだよ、と薄い本で頭を叩かれる。
 しかしその耳は少し赤く染まっていて、俺は小さく笑った。
 俺を睨み、怪訝そうな顔をする矢尾の身体を引き寄せ、ぺろりと唇を舐める。
「…あっ……」
 甘い声を上げ、崩れ落ちるようにしゃがみ込む矢尾。
 悔しそうに頬を染め、下から俺を睨み付ける。
 誰に触られても感じてしまう全身性感帯が奇跡的に治った矢尾だったが、何故か俺だけは例外だった。
「ここで、する?」
 手を取り立たせ、耳元で甘く囁いてやると、頬を赤く染めて「バカ」と呟いた。
「たーかーしっ! こんなところで何してるの?」
 可愛すぎる矢尾の唇を奪おうとした瞬間、明るい声と天使のような笑顔が飛び込んできた。
 赤い顔を隠すように足早に去って行ってしまう矢尾。
「あれ、和人くん、どうしたの?」
 解っているのかいないのか、にこっと微笑む柊二。
 天使の微笑みを持つ柊二だが、今の俺にとっては小悪魔にしか思えなかった。
 
 
 地下にある図書室。しかし中庭に面している壁がすべてガラス張りになっていて、ガラスの外は小さな庭のように緑があり、上から夏の顔をした太陽の光が降り注いでいる。
 地下の楽園と呼ばれるガラス張りの庭の横でこちらを振り返り、俺に笑顔を見せてくれる矢尾が居れば、他には何も、天使だっていらない。
 俺は今、溶けてしまいたいほど幸せな恋をしている。
 


 終わり    

あとがきという名の言い訳
 

誘い受けだゼ、こん畜生っ!
ということで、王道物語第2のカップルが誕生しました。
 ……矢尾はまだしばらく否定しそうな気がするけど。
そこがまた可愛いんだよなぁ。(笑)
本編主人公、尚輝より気に入ってしまったクール(?)受け矢尾。
愛情が回りすぎて、でも物語上決めていた輪姦をさせるのが忍びなくて、
最後の砦(笑)は守ってみたり。
しかし、エロいですねぇ、この話。(←他人事)
*マーク多すぎ……。(爆)
と言うわけでようやく書き上がりました和人&貴志編。
感想をいただけると踊り狂います。~ヘ(・.ヘ)(ノ.・)ノ~

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