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駄文の中からアレを厳選しました(マテ  1個中1 - 1個目・ ・厳選にかかった時間わずか0.1

vogue


 アイツと離れ離れになってから、もう5年・・・
 あの頃の緩やかな時間の流れが信じられないよ。
 こんなにも、時間なんて早く流れるもんなんだな・・・

 


 俺が実家のある長年暮らしてきた田舎を捨て、ここに住みついたのは5年前のことだ。
 歌手になりたくて・・・子供の頃からの夢をかなえる為に・・・俺は5年前、すべてを捨ててきた。
 そう・・・すべてを、だ。

 ――ゴメン、俺もうお前とは一緒に居れない――

 ここに来た当時は、とにかく何もかもがむしゃらにやった。
 とにかく金なんか、すぐになくなっちまう。
 歌手になりたかった俺は、その勉強も手に付かないまま2年を無駄に過ごした・・・

 ――どうしてって・・・それは・・・――

 3年目の春、不意にそいつは訪れてきたんだ・・・親父だった。
 長男だった俺は、家業を継がされるはずだったんだ・・・歌手になるってのもそれが嫌で決めたことでもあった。
 親父はいたって普通に見えたよ、家を黙って飛び出したどら息子に対する怒りは微塵も感じれなかった。
 何で親父が俺の住んでいる所に現れたのか・・・多少の疑問はあったさ、でもその表情を見て少しはほっとしたよ。
 けど・・・次の瞬間、俺の脳天に雷が落ちた。

 ――俺は、歌手になる、だから、ここを出る――

 親父の拳固は痛かったよ、23年生きてきたけどさ、あんなに痛かった拳固は初めてだ・・・肉体的にも、精神的にも、だ。
 驚く事によ、痛さに顔を埋めてしゃがみ込んだ俺の顔を、親父は覗き込んでにやっと笑ったんだ。そして、言ったよ。
 『歌手の顔は、殴れねぇよなぁ?』

 ――お願いだから・・・泣かないでくれよ・・・――

 (なんでだ?親父がなんで知ってる?)
 驚きの余り、口をパクパクさせながら――端から見たらさぞアホ面だったろうな、ちくしょう――俺は親父の言葉を待った。
 親父は無言でポケットに手を突っ込み、俺に向かって手にした物を放り投げた。
 それは、ぱんぱんに何かが詰まったどこにでもあるような茶封筒、そしてもう一つ・・・それは・・・

 ――お前には泣いて欲しくないんだ・・・だから、俺のことは・・・――




 「じゃあな、明日は気張れよ!!あ、あと、絶対に遅刻すんな!!わかってるか!?」
 練習場所を提供してもらっているライブハウスの前で、俺はバンドのメンバーと別れの挨拶を交わした。
 5年、5年かかった・・・5年かかったけど、俺はようやく自分の歌を歌えるようになった。
 まだメジャーには程遠い、でもここのライブハウスでもっとも注目される存在にまでようやく、そう、ようやく辿り着いた。
 5年間、俺はがむしゃらに走り続けた。自分でもわけがわからないうちに、こんなとこまで来ちまった。
 誰かが引いたレールの上を進むのは楽だっただろうなって、今になって少し思うこともある。
 親父の家業を継いでいたらずっと楽だったろうって、思ったりもするさ。
 けど、俺は決めたんだ・・・いや、約束したんだ、アイツと・・・




 ――・・・だから、俺のことは嫌いになってくれ・・・忘れてくれ――

 それは・・・白い封筒だった。そう、なんの変哲もない、手紙を送る為の封筒。
 これは?という顔で見上げる俺に親父はもう一度にやっと笑いかけ、こう言った。
 『じゃあな、感謝しとけよ・・・あの子になぁ』
 頭に疑問符を沢山付けた俺に対して、結局何一つ答えてくれずに親父は俺の部屋から出ていった。
 
 ――忘れてくれ・・・お願い、だから・・・――

 まず・・・茶封筒の中身は・・・札束だった。しかも、全部万札である。俺がたまげたのも、おかしくはないだろ?
 おそらく・・・少なくとも百万はあったよ。中に説明の紙でもないかと茶封筒を覗き込んだ俺は、妙なものに気が付いた。
 茶封筒の内側に何か文字が書いてある・・・そう、何故か内側になんだ。
 茶封筒を破り、内側をあらわにすると・・・そこには、親父からのメッセージが書いてあったんだ。
 『よく気が付いたな、バカ息子。
  勝手に家を出たお前に、ここまでやってやるんだ、感謝しな。
  ちなみに、この金は俺が精魂込めて作った封筒で稼いだ金と、家から持ち出したもんだ。後で俺、母ちゃんに殺されるかもな。
  これで縁切りだ、これ以上は何も頼るんじゃねぇぞ、わかったな!!』
 ・・・さすがに俺も呆れたけどさ、親父には感謝したよ。

 ――あと、最後のお願いだ・・・親父たちには、内緒にしてくれよな?――

 そして、もう一つの封筒。白い、薄っぺらい方だ。
 裏返してみても、差出人は書いてなかった。裏も表も、真っ白な封筒だったよ。
 中の手紙を切ってしまわないよう注意しながら、俺は封筒にハサミをいれた。
 取り出した手紙も、一般的なものだった・・・白い紙に黒い文字・・・ただ一つ、俺が気になったのは・・・
 そこに連ねてある文字を、俺がよく知っていたってことだ。
 俺は親父の言葉の意味をようやく悟ったよ、この時に、ね。
 『あの子、かよ・・・』
 親父の奴、アイツに全部聞いたんだ!!だから、俺が歌手を目指してるって知っていて、だからここの場所も・・・??
 ここの場所も?そんなはずはなかったんだ、アイツが俺の住んでる場所を知ってるはずがなかったんだ!!
 『だったら、どうして・・・?』
 すべての疑問は、この白い紙に書かれているのだろう・・・アイツからの手紙にな。




 部屋に戻った俺は、机の引出しに楽譜と一緒に大切にしまってある、紙を取り出した。
 何度読んでも変わらないその文字、けどそれを読むだけで俺の中には浮かんでくるものがある。
 いつも近くに、いつも一緒に、常に自分のそばにいた顔、顔、顔・・・
 「そーいえば、アイツいっつも笑ってたっけ・・・!!」
 俺は軽く頭を振り、最後に浮かんだ映像を思考の外に追い出した。
 「・・・そんな奴を最後に大泣きさせたのは・・・俺か・・・」
 腰掛けていたベッドにそのまま横になりながら、俺は手にした白い紙を開いた。




 『ゴメンね?
  お願い、まず謝らせて。おじさんにアナタの事話ちゃったの、私だから。
  約束破っちゃったこと、怒ってる?』

 ――怒っちゃいないよ・・・むしろ、感謝してる・・・おかげで、気持ちのつっかえが取れたよ――

 『それと、もう一つ謝らないといけないことがあるの。
  アタシに最後に言った事、覚えてるよね?』

 ――ああ、覚えてるよ・・・『忘れろ』って言った――

 『ゴメン・・・私さ、どうしてもアナタのこと、忘れられなかった。
  寂しくて、悲しくて、どうしようもなかったの・・・
  だから、今年の夏休みを利用してね、そっちにアナタを探しに行ったの。』

 ―― ・・・ ――

 『頑張ったよ、私。見つからないって、何度も諦めようと思ったよ。
  でも、見つけたの。私、見つけたの。ねぇ、私、アナタを見つけたんだよ。』

 ――どうして、そこまで・・・俺は・・・――

 『アナタ、頑張ってた。そう、頑張ってたの。
  だから、私、声かけれなかった。必死で頑張ってるアナタの邪魔になるだけだから・・・』

 ――・・・そんなことは・・・――

 『アナタ、夢の為に頑張ってる。私、その夢が花咲くように祈ってるね。
  そう、祈ってるから。もう近くには居れないってわかったから。
  私の花、もう散っちゃったみたいだから、ね?』

 ――花咲く、か・・・――

 『だから、今度はアナタが約束して。
  私の涙は忘れてください。
  私の笑顔を忘れないで。
  そうしたら、私は静かに散って行くから・・・』

 ――わかってる、忘れない、絶対に・・・――

 『忘れないで、私の笑顔を』

 ――忘れない――




 ライブハウスを熱気が、歓声が、そして多くの人達が埋め尽くす。

 俺はアイツを捨てて、今を選んだ。

 だから、忘れない、いかに過ぎし時が早くても。

 だから、忘れない、彼女を・・・その笑顔を。

 だから、花咲かせよう、美しく。

 それが、いつか散りしものだとしても。

 『花咲かせよう、咲き誇ろう。』

 スポットライトが今、俺たちを照らす。



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