| 駄文の中からアレを厳選しました(マテ |
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My Gift to You
「貴志」
振り返った視線の先には古い馴染がいた。
「夕紀」
4年ぶりだろうか…久しぶりに出会った彼女の顔は、ひどく怒っていて、そして涙に濡れていた。
俺と夕紀は中学からの腐れ縁で繋がった仲だった。
3年間無駄に長い間一緒に馬鹿やってきたし、お互いの良い所も悪い所も知り尽くしていた。
そんな俺達が高校に上がると同時に、特別な関係になったとしても誰も疑問なんて抱かなかったし、俺達も友達から恋人に関係が昇華しただけの事だって考えていた。
そんなのだから、付き合ってるって感じじゃなく、ただいつも一緒にいる仲の良い2人って言っても良かったかもしれない。
夕紀は時々不満そうな顔をしていた気がするけど、俺はそんな関係をだらだら続けるというのが気楽で好きだった。
今となって考えると、一線を越えてしまうのが怖かったのかもしれない。
行為として夕紀を恋人として認めてしまったら、おそらく俺は友達としての夕紀を忘れてしまっていただろう。
一緒に馬鹿出来る関係ってやつを簡単に崩すというのも何だか嫌だったんだ。
そして無駄に時を重ねた俺達は、別れの時を迎えた。
高校3年も終わりの時、俺は東京の大学に行く事を決めた。ずっと地元しか見てこなかったし、それなりな憧れもあった。ない脳みそを何とか稼動させて、2流ながらも希望する大学に合格する事ができたんだ。
しかし夕紀は地元に残った。大学にも行かず、実家の家業を継ぐらしかった。
俺は夕紀に大学を受けるよう勧めなかった。
そして夕紀も俺に地元に残るよう頼まなかった。
俺達はお互いを知りすぎて、お互いに夢がある事も知っていた。
俺は設計のプロになる夢を持っていて、その為に大学には行きたかった。
夕紀は人一倍家族想いで、少しでも早く家業を継ごうと考えていた。
お互いがお互いの事を知っていたからこそ、俺達は別れる事を決めたんだ。
夢を掴む為に。
そして―――。
大学を中退した俺は何をするでもなく、当てのない生活をただただ生きるために繰り返している。
何度も繰り返した問いかけを自分にぶつけてみる。
「お前、何がしたかったんだよ。」
と。
甘くない壁にぶつかった俺は、ただただ現実を否定し、最後には現実から否定された抜け殻だけが残った。
「お前、何がしたいんだよ。」
そんな問いかけに答えを出せない俺がいる。
思い出したくない思い出と、いたたまれない想いに追われ、俺が東京を後にしたのはそれからすぐ後の事だ。
そして地元に舞い戻った俺は、実家に帰れるわけもなく、住み込みの居酒屋で働いている。
仕事が終われば朝まで酒を飲み、田舎の町をふらつき、そして次の仕事まで寝る。
自分に対する嫌悪感が日の前に出る事を避けさせ、まさに日陰者の気分だ。
気づけば雪の降る季節となっていた。
「貴志」
震えた声が再び俺に投げかけられる。
髪が伸びていた。
懐かしい想いと、変わってしまった自分、そして涙する夕紀、様々な気持ちが交錯して俺の喉からは次の言葉が出ない。
「お前、何してるんだよ」
俺は黙って下を向いている。
最初に呼ばれた時に落としたボトルから流れ出たアルコールが、浅く積もった雪を溶かしている。
「お前、何してるんだよ!!」
ハンドバックを投げられたらしい。
鈍い痛みが頭に響くと共に、中身が散らばった音が雪のクッションで軽く聞こえてくる。
いつの間にかまた降り出していた雪が、痛みの残る額に冷たい刺激を残していた。
「…………」
今度は夕紀は何も言わなかった。
バラバラに飛び出た荷物を拾おうと手を伸ばした先で見つけてしまった写真を見て、俺の動きが止まる。
「夕紀……これ……」
俺と夕紀が卒業する時に、最後だからって撮った一枚のポートレート。
俺の腕に絡めた夕紀の腕。
俺も夕紀も本当に良い顔をしている。
今とは正反対の笑顔。
そして同じ写真が、俺の古ぼけた財布の中にも納まっている。
「昨日、東京に行ってきた。」
雪で濡れる事も気にしていないのか、アスファルトに座り込んだ夕紀が呟く。
「おととしの年賀状に書いてあった住所に行ってみた。でも違う人が住んでいて、その人に大家さんを教えてもらって、お前が地元に帰ってるのを知った。」
下を向いて淡々と吐く。
「お前の実家に連絡しても帰ってないみたいで、おかしいと思って知り合いの伝手全部当たったけど誰も知らなくて、青山が『似たやつを深夜に見た事がある』って言ってたから――」
顔を上げた夕紀の面はひどいもんだった。
目は真っ赤。涙で化粧はぐちゃぐちゃ。乱暴に拭ったせいか、口紅も滲んでしまっている。
「だから来た。」
そういうと、俺の手からポートレートをひったくり、ビッと破いてしまった。
「何にも変わらないって思ってた私が馬鹿なのかな。」
2つの紙片は4つに。
「4年経ったらお前がまた馬鹿みたいな顔してさ、私も馬鹿みたいな顔してさ、一緒にまた馬鹿出来るって。あの頃みたいに馬鹿出来るって。」
4つの紙片は8つに。
「お前が―――お前が変わっちゃうのが怖いんだよ!!」
もう一度裂こうとしたが、破けなかったらしくそのまま空中にばら撒いた。
落ちてくる雪と一緒に、バラバラになった俺達の思い出も散ってしまった。
夕紀の震える肩に俺は手を伸ばす。
跳ね除けられるかと思ったけど、彼女は濡れた瞳を俺に向けるだけだった。
一つため息をついて、俺は財布を取り出した。
そして中身を見せる。俺と夕紀の笑顔を。
「変わらねぇよ、俺もお前も。」
差し出した手を、夕紀の冷たくなった手が握り返してくる。
少しでも暖かくなれば良いと思い、ぎゅっとその手を握り締める。
「とりあえず、立てよ。話そうぜ、これまでの事。話し終えるまで、ずっと一緒にいるよ。」
「話し終えるまで?」
散らばった荷物を集める俺に、夕紀が不満そうに言う。
「いーや、ずっと。これからずっとだ。」
ぶっきらぼうに言い放った俺に、夕紀は微笑みかけると、あの頃と同じように腕を絡ませた。
そうだな、俺も笑ってる。あの頃と同じように。
「あ〜もうッ、ケツ冷たい!!」
「ばーか、自業自得だろうが。」
「元々お前が悪いんだろ、反省しろ反省。」
「悪かったな。」
「変わらないな、その悪びれない態度。ムカつくくらい。」
「うるせ。」
「明日はお前の実家紐付けてでも連れて行くからな。」
「げ、マジ勘弁。」
「だーめ。」
本当の意味で、俺達の恋ってのはここから始まる。
今はとても贈れたもんじゃないけど、いつか俺がその資格を手にしたなら伝えてやろう、こいつに。
「愛してる」
ってな。

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2003 Muscle