ソロモンの悲劇(前編)
宇宙世紀0079年12月某日 ソロモン
「大尉、マツナガ大尉!」
ドズル・ザビ閣下の親衛隊隊長にして俺の上官、そしてソロモンの白狼の異名をとるシン・マツナガ大尉を俺は呼び止めた。
「大尉、どういうことですか?突然の本国への召還だなんて。」
いつ連邦の総攻撃が始まるか分からないこの時期に、マツナガ大尉のようなエースパイロットを手放すことなど出来るはずが無い。
「すまないが、命令は絶対だ。私は本国へと帰らねばならん。」
「しかし…」
「私とて、このタイミングでここを離れたくは無いのだ。だが、それは私一人でどうこうできる問題ではあるまい。」
大尉の言葉に何も言い返せなくなってしまう。
その言葉の一つ一つに大尉の使命感のようなものが感じられた。
「もし、私が居ない間に連邦からの攻撃があったら…その時は少尉、お前に任せる。」
「え!?」
「お前の力でドズル閣下をお守りするのだ。」
「……」
「返事はどうした!」
「はっ!」
その言葉を残して、大尉はドックへと歩いていった。
そして、これが、俺の見た最後の大尉の背中だった。
同日 ソロモンドック
大尉が居なくなると同時に、ここのドックにも変化が訪れた。
ドムよりもゲルググよりも、なおその勇姿を轟かせていた純白のザクはもうここには無かった。
そのことは、どうやら士気にも大きな影響を与えているようだった。
それは何より、マツナガ大尉の名声がそのまま形になって表れたかのようで、寂しいと同時に、少しだけ鼻が高いような気もした。
「少尉!ほら、ザクの整備、一緒に手伝ってくださいよ。」
「悪い、今行く。」
たとえ何があろうとも、自らの愛機の整備を怠らない。それが戦場で生き延びるコツだ。
「遅くなった、すまん。」
「まったく、自分の機体なんだから、もうちょっとしっかりしたらどうです?」
「だからすまんと言っているだろう。」
整備兵の文句を適当にあしらいながら俺は整備を開始した。
「この戦いで戦果を挙げれば、俺もエースパイロットの仲間入りだ。」
「そう上手くいきますかねぇ。」
「いくさ。そうしたら、機体を白く染めたいな。」
「白狼のようにですかい?」
そうだ、この戦いを生き残ればいいんだ。
そうして、大尉を迎え入れればいい。
俺の居るべき場所は、きっとそこにある。