雪だるまの作り方


■水瀬家■
「・・・と、いうわけで、雪だるまつくろうよ」
「なにが『と、いうわけ』なんだ?」

苦めのコーヒーを飲んでいた祐一は、そういってきたあゆに言い返した。
いつもの黄色のコートをもって、手袋をはめている。よくわからない格好だった。
あゆが水瀬家に住むようになって、もう1年がたっていた。
初めはかしこまっていたあゆも、大分ここに慣れてきたようだ。
祐一もそれは同じだった。冬の寒さはともかく、この街にも普通に過ごせるようになった。
そして、今は冬休みだ。昼食後、優雅に昼の休みを満喫しているところに、あゆがそういってきたわけだ。

「外は寒いだろ」
「だいじょうぶ、さむくないよ」

あゆに言われて、祐一は窓を通して外を見た。
雪が積もってはいたが、今は降っていないようだ。
それでも、寒いことにはかわりないだろうが・・・。

「まぁ、暇だしいいか」

言って祐一はまだ熱いコーヒーを一気に飲んだ。
それほど残ってはいなかったが、一気に飲んだので舌がヒリヒリした。
祐一は立ち上がり、

「いくぞ、あゆ」

そういって玄関に向かっていった。

「うん」

嬉しそうに、あゆはそのあとを追いかけた。

■玄関■

ガチャッ・・・バタンッ

玄関の戸を開けて、すぐに閉める。

「どうしたの?」
「寒い」

天気はよかったが、それでも外は寒かった。

「だいじょうぶ、雪だるまつくってればすぐにあたたかくなるよ」
「冬が終わったらつくるよ」
「うぐぅ・・・それじゃ雪がないよ」

確かにそうだろうな。

「うぐぅ・・・祐一君・・・」

あゆが涙目になって祐一を見つめる。
祐一はそれに負けて、再び玄関の戸を開けて、外に出た。

「3分でつくって、早く終わらせるぞ」
「うぐぅ・・・3分は無理だよ」
「それがおれの活動限界時間だ」
「それはウルト○マンだよ・・・」

あゆと話していても、外はやはり寒かった。

■外■

足跡一つない雪。
その上を二つの人影が歩いていく。
やがて、人影は足を止めた。

「さて、さっそくつくるか。おれは胴体をつくるから、あゆが頭をつくってくれ」
「うん、わかったよ」

あゆはしゃがみこむとまわりの雪を集めはじめた。
祐一も、足元の雪を手にすくうと、必要以上に硬く握る。
氷のように透明度が上がったそれを、ボウリングのようにころがした。
とたんに、氷のような雪玉は、大きさを増していく。
バレーボールほどまでに大きくなったとき、どのくらいの大きさにするのか悩んだ。
頭をつくっているあゆと相談したほうがいいな。

「あゆ、どのくらいの・・・お前、なにしてんだ?」
「え?」

あゆがなにか間違ってる?といった顔で首をかしげた。
あゆは雪だるまの頭となる部分をつくっている。
まわりから雪をかき集めて、それをペタペタと手でくっつけていた。

「あゆ、まさか雪だるまの作り方知らないのか?」
「うぐぅ・・・雪だるまを見たことはあるよ」

つまり、知らないという事か。

「そんなつくり方じゃ、日が暮れちまうだろ」
「うぐぅ・・・」

あゆがつくった頭はまだ普通の雪玉くらいの大きさだった。
あゆに近寄って、祐一はあゆのもっていた雪玉を取る。

「いいか、雪だるまっていうのは、転がしてつくるもんなんだ」

言って、あゆから取り上げた雪玉を転がしてみせた。
さっきの3倍くらいの大きさになって、その雪玉は止まった。

「わぁ。すごいよ」

それを見て、あゆは胸の前で両手をあわせた。
手袋をしているため、ポンという音がなる。
あゆは雪玉のところに駆け寄ると、それを転がしはじめた。
それをみて祐一も、つくりかけの胴体を転がす。
いつのまにか、祐一は寒さを感じていなかった。

■十分後■

「完成だな・・・」
「うぐぅ・・・」

祐一とあゆの前には雪だるまがあった。
まだ顔や手などはついていないが。

「まぁ、なんていうか・・・」
「うぐぅ・・・」

祐一の胴体にあゆのつくった頭をのせてからというもの、あゆはうぐぅと言っていた。
なにやら困った顔になっているが。

「十頭身だな・・・」
「うぐぅ・・・」

あゆのつくった頭は小さかった。
祐一のつくった胴体は大きかった。
結果、雪だるまは十頭身といえるほどのアンバランスになってしまった。

「うぐぅ・・・」

それを見て、あゆはずっと困り顔だった。

「うぐぅ・・・」
「うぐぅ・・・真似しないで・・・」

祐一も困った声を出すと、さらに困った顔になった。
しかし、これは本当にうぐぅと言いたくなるほど困った雪だるまだ。

「あゆ、頭が小さすぎたぞ」
「うぐぅ・・・祐一君のが大きすぎたんだよ・・・」
「大は小を兼ねるというだろう。だからおれは悪くない」
「うぐぅ・・・」

こういう場合に大は小を兼ねるというかは謎だが、間違ってはいないと思う。
祐一はもう一度雪だるまを見た。結構な大きさだ。胴体とは反対に、頭は小さいが。

「しかたない、とりあえず、顔をつくろう。あゆ、目とか口になりそうなもの見つけてきてくれ」
「うん、わかった」

そう言って、駆けていく。
あゆの姿が見えなくなってから、祐一は近くにあった樹の細い枝を二本折った。
それを雪だるまの多分ここだろうという位置に差し込む。
胴体と見比べると、かなり短かったかもしれないが、腕に見えないこともない。
とりあえず祐一はそれで納得する事にした。

「祐一君、目はこれでいいかな」

呼ばれて振り返ると、あゆが息を切らしながら、手を突き出していた。走ってきたらしい。
手の上には小さな赤い木の実が二つのっていた。

「ああ、あゆは左つけてくれ。おれは右のほうをつけるから」
「うん、わかったよ」

あゆから木の実を受け取ると、祐一は雪だるまの顔に少しの穴を開けた。
そこに木の実を押し込んでいく。ちょっと穴が小さすぎたかもしれない。
が、とりあえず木の実は穴におさまった。雪にふれたからか、光を反射して輝いている。

「よし、こっちはできたぞ」
「うぐぅ・・・」

見ると、あゆのほうはまだ木の実が入っていなかった。
木の実を押し込もうと、グイグイと力を加えている。

「おいおい、目を入れるときは先に少し穴をほってから・・・」

祐一の注意は少し遅かった。
ズッ、っという音が聞こえたあと、あゆが前のめりになって、そのまま雪だるまに倒れる。
力を加えすぎて、吹っ飛んだ頭がつぶれた。それほど硬くつくっていなかったからだ。
あゆが倒れこんだ胴体の方は、つぶれずに残っていたが。

「・・・」
「・・・」

しばらく、沈黙が流れる。

「・・・さ、家に入るか」
「うぐぅ・・・」

結局、雪だるまは完成しなかった。
あゆは悲しそうに目を伏せた。

■翌朝■

昼になっても部屋から出てこないので、心配になってあゆが見に行くと、祐一はまだ寝ていた。

「もうお昼だよ・・・」

あゆが、何気なくカーテンを開ける。
暗かった部屋に光が差し込んだ。
昨日の天気とは違って、今日は雪が降っている。
ふと、雪の中に手をあげているような人影が見えた。

「誰だろ?」

両手を挙げているそれは、雪だるまだった。ちゃんと顔もついている。
あゆは急に嬉しくなった。目が熱くなって、涙がでてくる。

「祐一君・・・」

部屋には、コートがかけてあった。まだ湿っている。
夜遅く、一人で雪だるまをつくる姿が思い浮かんだ。
ただの雪だるまだが、それをしてくれる祐一の気持ちが嬉しかった。

「・・・ありがとう」

それだけを言うと、気持ちよさそうに寝ている祐一を起こさないようにカーテンを閉めて、あゆは部屋を出て行った。



あとがき

 漣:あゆSS「雪だるまの作り方」をここにお送りします
あゆ:ボクのSSはこれが初めてだね
 漣:うみゅ。あゆのSSは書きたいのがたくさんあるんだけど、季節感があわないものばかりだからな
あゆ:たとえば、どんなの?
 漣:「階段の怪談」とか「夜にたたずむ影」とか、夏物が多いな
あゆ:うぐぅ・・・ボク、こわいのイヤだよ・・・
 漣:安心しろ、あゆをこわがらせるのが目的だから、あ、説明しとこうか?
あゆ:うぐぅ・・・いらないよ・・・
 漣:さて、今回はここで終わりです。最後まで読んでくれた人、ありがとうございました
あゆ:・・・ありがとうございました
 漣:・・・ある日、あゆが夜中に一人目覚めると目の前に黒い影が・・・
あゆ:うぐぅぅぅ〜!!

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