クリスマスはまだだというのに、すでにこの街の人々はクリスマス気分だ。
いや、この街と限らずどこでもそうなのかもしれない。
しかし、水瀬家にはクリスマスではない違う気分が包んでいた。
今日は名雪の誕生日だから。
12月23日な日々
■祐一の部屋■
――どすっ。
「・・・っ」
おれの上に何かがのってきた。
一瞬息が詰まったが、まぁ、耐えられないほどではない。
祐一は、一度離れかけた眠気を引っぱると、もう一度眠りにつこうとした。
――どすっ。
「・・・ぐっ」
もう一度、衝撃がかかる。
ベッドがギシギシと音をたてた。
苦しいかったが、おれは眠いのだ。
ギシギシと不快な音をたてていたベッドが音を止めた。
静寂・・・祐一は再び眠りにつこうとした。
――どすっ。
「・・・がっ」
さらに衝撃。
またギシギシと、ベッドが音をたてた。
4度目に危険なものを感じて、祐一は少し目を開いた。
最初に見えたのは、名雪の顔だった。
祐一が目を開けたのに気づいたからか、ニコリと笑った。
しかし・・・、
「・・・夢だな」
名雪がおれより早く起きるわけがない。
祐一の思ったことがわかったのか、名雪が不満そうに口を尖らせた。
「祐一、夢じゃないよ」
「じゃ、なんで名雪が起きてるんだ?」
「うー。・・・ひどいこといってるよ・・・」
祐一は横になったまま、枕もとに置いてある目覚し時計を見た。
この部屋にはいまだに壁時計が無いが、祐一はそれでも特に不便だとは思わなかった。
「・・・もう1時か」
正確には12時50分ほどだが、似たようなものだろう。
再び名雪を見る。
後ろからあゆと真琴が顔をだした。
「祐一、起きた?」
「おはよう、祐一君」
「あぁ、おはよう」
言って、ベッドから出ようと体を起こそうとするが、
「・・・で、なんでお前らはおれの上にのってるんだ?」
体が動かない。
名雪、あゆ、真琴の三人がのっているのだから当たり前かもしれないが、
「祐一を起こすためだよ」
当然といったふうに、名雪が答える。
さっきの衝撃は飛びのってきたからだろう。
真琴、あゆがおれの上からおりて、少し遅れて名雪がおりた。
「一声かければいいものを、わざわざ人の上にのるな」
「うぐぅ・・・一声かけたけど、祐一君起きなかったから・・・」
「それでも人の上にのるな」
祐一はベッドからおりて、いつもの着慣れた私服をとりだす。
もう昼とはいえ、冬の寝起きは寒く感じる。
さっそく着替えようとして、思い当たって振り向く。
「なんだ。おれの着替えが見たいのか?」
「うぐぅ・・・ちがうよう〜」
冗談だというのに、慌てた口調であゆは答えた。
「じゃ、下にいってるね」
「あ、ボクも」
そう言って、あゆと真琴は部屋を出ていった。
階段をトタトタと下りる音のあとに、ドタバタとした音が聞こえた。
「うぐぅ〜」
あゆが階段を転げ落ちたようだ。
「あう〜」
それに真琴も巻き込まれたといったところだろうか。
最後にバターンと大きく音が聞こえた。
「騒々しいな、あいつらは」
「そうだね」
ニコリと名雪は笑った。
■水瀬家■
昼食を食べて、祐一は特にすることもなく、テレビを見ていた。
名雪も暇なのか、祐一と一緒にソファーに座ってテレビを見ている。
ちなみに、あゆと真琴は昼食を食べたあとすぐ出かけてしまった。
「この時間はニュースしかやってないのか」
あいかわらず、番組数が少ない。
夜になればおもしろい番組もやるのだが、昼間はニュースくらいしか見るものがない。
「うん、あっ、ねぇ、ここって商店街じゃない?」
「お・・・ほんとだ」
テレビに見慣れた商店街の風景が映っている。
生放送で街を紹介するとか、そういう番組らしい。
その中を特に意味のなさそうなマイクを持った女性レポーターが走り回っていた。
クリスマス前だということもあってか、商店街は普段より人通りが激しいようだった。
女性レポーターが人の波を避けながら歩いて、インタビューをするなどしている。
ふと、テレビの中に、見慣れたものが見えた。
が、それはすぐ人込みに消えていってしまう。
気のせいだったかな?
思った時、カメラが移動していく。
「・・・あそこで歩いてるのあゆちゃんと真琴じゃない?」
名雪の言うとおり、あゆと真琴がなにやら話をしながら歩いていた。
■商店街■
「・・・それで、あゆちゃんはなにを買うの?」
「うぐぅ・・・まだきめてないんだよ」
今日は人が多い。
商店街に来て思ったことはそれだった。
人込みの中を進むのは大変なため、道の端の方を進んでいた。
それでもなかなか前に進めないが、ゆっくりと歩きながら話すことが出来た。
「すみませ〜ん、ちょっといいですかぁ?」
「え?」
「わ。テレビ!?」
振り向くと、マイクをもった女性がいた。
真琴はテレビに驚いていたが、あゆはどうも状況が理解できてないようだった。
しかし、後ろにいるカメラマンを見て急に驚いた顔になる。
それにかまわず、女性リポーターは続ける。
「この街の、いいところを教えてくださ〜い」
やけに気軽に言って、マイクをあゆ、真琴の方に向けた。
話してくれという意味だろう。
「あうー・・・」
「うぐぅ・・・」
困った顔になる真琴と、あゆ。
周りからは興味の視線が投げられている。
あゆと真琴の後ろで、無意味にピースをしたり、ポーズをきめる者もいた。
やがて、沈黙に耐えられなくなったのか、あゆがおどおどと言う。
「・・・みんなが・・・祐一君がいるところかな?」
「あ、あゆちゃん!?」
真琴が慌てて、周りのギャラリーから「おー」と感心したような声があげられた。
「おぉっと、番組始まって以来の告白です! 祐一君とは、どのような人ですか?」
番組の趣旨とまったく外れている気がするが、もともとそういう話が好きなのか、女性レポーターがさらに聞いてきた。
言われて、あゆもやっと自分の言った事に気がついたようだ。
「う、うぐぅぅぅ〜」
顔を赤くして走り逃げてしまうあゆ。
真琴も遅れてあゆを追いかけていった。
■水瀬家■
「あゆちゃんすごいね〜。私だったら言えないよ〜」
「たんに何も考えてないだけだろ・・・あ〜あ、学校の連中になんて言われるか・・・」
「ふぁいとっ、だよ」
■玄関■
ガチャッ。
「うぐぅ・・・ただいま・・・」
「ただいま・・・」
夕方になって、あゆと真琴が帰ってきた。
祐一はすぐに玄関へ向かって、あゆと真琴を見る。
二人ともなにかの大きな袋を抱えていた。
ちなみに、あゆはまだ赤い顔のままだった。
「あゆ、どういうつもりだ?」
「うぐぅ・・・祐一君、聞いてたの?」
赤かった顔が、さらに朱に染まっていく。
「・・・あれは、そういう意味で言ったんじゃないんだよ・・・」
「あぁ・・・真琴もフォローしろよ」
「あぅー・・・だっていきなり言ったから、ビックリして・・・」
「まぁまぁ、いいじゃない、祐一」
話を聞いていたのか、名雪が玄関に来た。
「名雪、おれはこれから学校で迫害を受ける事になるんだぞ?」
この事実は一週間以内に学校中に知れ渡るだろう。
学校というのはなぜか不思議なネットワークが存在するものだ。
この事が彼女いない歴5年以上の男子連中に知られたら、なかなか危険なことになる気がする。
「ふぁいとっ、だよ」
「ふぁいとっていうか・・・まあいいか、あゆ、もっと考えて行動しろよ」
「うぐぅ〜・・・」
あゆは真っ赤になった顔のまま、少し頷いた。
名雪はあゆと真琴の持っている袋を交互に見ながら、
「二人とも、そんなにたくさん、何買ってきたの?」
『ないしょ♪』
名雪の問いかけに、二人はやけに嬉しそうに答えた。
■名雪の部屋■
トンットンッ
「名雪ー、夕食だぞー」
ドアをノックするが、反応が無い。
あのあと、名雪は自分の部屋に戻っていき、祐一とあゆ、真琴、秋子さんは今日のことについて話し合っていた。
けっこう時間がかかったが、とりあえず準備はできた。
あとは手はずどおり祐一が名雪を呼びに行くだけだ。
「名雪ー、寝てるのか?」
トンットンッ
さらにノックをするが、やはり反応はない。
――これは絶対に寝てるな。
「名雪、はいるぞー」
ガチャッ
一応確認してからドアを開ける。
予想どおり、名雪は机に突っ伏すように寝ていた。
「くー」
「名雪ー。おきろー」
ニュッ
祐一は名雪の右の頬をつかんで引っ張った。
が、起きる気配は無い。
「夕食できたぞー。名雪ー」
ニュッ
今度は左の頬も引っ張ってみる。
「う〜・・・」
なにやら名雪がうなったような声をだす。
だが、やはり起きる様子はなかった。
ふぅっ
祐一はため息を一つつくと名雪の頬を引っ張っていた手をはなして、かわりに上にゆっくりとあげた。
「人間は悲しい事に重力には逆らえない・・・」
自分でもよくわからんことを呟きながら、祐一は上げていた手をパーからグーの状態にかえた。
そして落とす。
当然、手は名雪の頭に落ちる事になる。
ガンッ
「うにゅ」
狙いどおり名雪の頭に命中すると、名雪が謎の言葉を言った。
「名雪、起きたか?」
「・・・頭が痛い。祐一、なにかした?」
「なにもしてないぞ」
「うー。・・・あやしいよ・・・」
名雪が不満そうに口を尖らせながら、頭を撫でている。
そんなに痛かったのだろうか。
「とにかく、夕食できたから下いくぞ」
「・・・祐一、ごまかしてる・・・」
■水瀬家■
「あれ?なんで暗いの?」
階段をおりると、リビングには電気がついていないのが見えた。
名雪はそれを疑問に思ったようだ。
「電気の球が切れたのかな」
白々しく言いながら祐一が部屋に入ると、名雪も部屋に入ってきた。
カーテンも閉めて真っ暗だが、それでもどこかから光が入っているらしい。
暗闇の中、名雪が手を突き出しながら、おそるおそる歩いているのが見えた。
祐一が周りを見ると、黒い影を3つ見つけた。
その影は、あゆと真琴と秋子さんのはずだ。
向こうにもこちらが見えたらしい、よくわからなかったが、ジェスチャーでOKと言っているようだ。
・・・そろそろだな
「3!!」
「わ。なに!?祐一」
突然大声をだした祐一に驚いたようで、名雪が慌てる。
「2!」
祐一の声に続いて、真琴の声が聞こえた。
「1!」
そして、あゆの声。
一回一回の声に慌てる名雪。
「0」のタイミングで祐一は部屋に明かりをつけた。
パン!パパパン!
クラッカーから飛び出した赤青緑、いろいろな色の紙帯が宙を舞う。
『ハッピーバースディ! 名雪!』
「・・・え?」
祐一とあゆと真琴と秋子さんの声が唱和した。
名雪が唖然とした顔をして、宙を舞っていた紙帯が床に落ちたあと、思い出したように言った。
「今日・・・わたし・・・誕生日?」
「そうだよ。名雪さん」
「なに言ってんだ。まさか忘れてたのか?」
コクリと名雪は頷いた。
呆れて、祐一はため息をついた。
「ふぅ・・・じゃ、別にプレゼントはいらないか」
「うー・・・祐一、いじわるだよ」
祐一はすぐそばにあった袋から、包装紙に包まれている物を取り出し、
「冗談だって、ほら、誕生日おめでとう名雪」
それを名雪に差し出した。
とたんに、すねたような顔から、笑顔になる。
「わー。祐一、開けていい?」
「もう名雪の物なんだから、好きにしろよ」
うんと言って、包装紙を開け始めた。
いつのまにか、あゆや真琴も周りに集まっている。
「あっ、イチゴがある」
「えっ、ほんと?」
まだ包装紙に包まれたままだが、隙間から見えたのだろう。
真琴からイチゴと聞いて、名雪が包装紙を一気に破り開けた。
「わ〜。イチゴのマクラだー」
中からでてきたのはイチゴの形をしたマクラだった。
祐一が商店街を歩いて偶然見つけたもので、お世辞にも寝心地がよさそうとは思えなかったが、話を聞いた名雪が欲しそうに言っていたのを思い出して買ってしまったが、
「う〜。ふわふわだよ。祐一、ありがとう!」
祐一の選択は間違っていなかったようだ。
名雪は嬉しそうにマクラを抱いて、う〜う〜とうなっている。
こんなに喜んでくれているのだから、いいだろう。
「名雪さん、ボクたちからもプレゼントだよ」
言ってあゆがテーブルの方に手を仰いだ。
名雪は立ち上がり(マクラは抱いたままだが)テーブルの方に向いた。
「わ。すごい・・・」
名雪が驚く。
まず目に付くのが、テーブルの中心の大きなケーキ。
3段で、どの段にもたくさんのイチゴがのっていた。
そして次に目に付いたのが肉まんとたい焼きの量。
それぞれが、皿の上に見ただけでも20個ほどのっている。
それらはあゆと真琴が買ってきたものだろう。
「あのケーキ、秋子さんが作ったんですか?」
「はい、名雪のための、特別製です」
「ありがと〜、お母さん。うにゅ〜、イチゴがたくさんだよ〜」
たしかに、イチゴ大好きの名雪にとっては一番のケーキかもしれない。
でもちょっとイチゴの量が多すぎませんか?秋子さん。
何個かイチゴ落ちてるし・・・
「ボクたちも用意したんだよ」
あゆが言う。
おそらく、たい焼きと肉まんのことを言っているのだろうが・・・
「お前らは、ただ自分が食べたかっただけじゃないのか?」
「うぐぅ・・・」
「あうー・・・そんなことないわよ」
ならなぜうぐぅやらあうーがでてくるんだ?
「ありがと、あゆちゃん、真琴」
「うぐぅ♪」
「あうー♪」
しかし名雪に言われて嬉しそうに跳ぶあゆと真琴。
こうして、水瀬家のクリスマス前夜は過ぎていく。
「・・・食べきれるかな」
「・・・ふぁいとっ、だよ」
あとがき
漣:このSSは、2001年度の名雪誕生日を祝うSSです。ハッピーバースディ!名雪!
名雪:・・・くー
漣:寝てるし・・・そんなにそのイチゴのマクラが寝心地いいのか・・・こら、起きろー
名雪:うにゅ?
漣:お、起きたか。ちゃんと進行してくれよ
名雪:・・・にゅ
漣:よし。自分的に、こんな誕生日もいいかなと思ったのですが、どうだったでしょう。ちゃんと意味はつながっているでしょうか?
名雪:・・・(首を横に振っている)
漣:ちなみに、この話の続きが少しあるので、そちらは『おまけ』のほうで読む事ができます
名雪:・・・
漣:でわ、最後まで読んでくれてありがとうございました
名雪:・・・ございました・・・くー
漣:・・・
*作品上の感想、苦情は掲示板への書き込みでお願いします