「朝〜、朝だよ〜」
いつもの目覚ましからいつもの間延びした声が聞こえる。
「わたしを起こして、学校いくよ〜」
すこしセリフがかわっていた。
「朝〜、朝だよ〜」
そしてまた繰り返される。間延びした声。
「今日も一日、ふぁいとっ、だよ」
祐一は手をのばして、目覚ましを止めた。
自分で言ったとはいえ、よくあんな恥ずかしい約束が出来たなと思う。
「毎年でも何年でも何十年でもお前はおれがずっと起こしてやる」
遠まわしに言っているが、「結婚しよう」といっているのと同じようなものだと、後になってから気がついた。
しかも、名雪が嬉しがって北川や香里にもバラしたので、後の誤魔化しが大変だった。
あの約束をしてから、目覚ましがこの内容に変わった。
そして約束どうり、毎日名雪は祐一が起こしている。
祐一は起きてからもすこしの間、ベッドの中でうだうだとしていた。
雪がとけ、冬が終わり春になったとはいえ、まだ気温は低い。
名雪は「暖かくなったね」と言っていたが、この街は基本的に平均気温が低いらしい、祐一にはどれほど気温が上がったのかわからなかった。
いつもの目覚ましをチラッと見ると、時間が迫ってるのに気づいてしまった。
眠気はないが、寒さに拒否反応をする体を起こし、祐一は着替えはじめた。
着替えを終えると、なにも持たないまま部屋をでて、名雪の部屋に向かった。
一応ノックをする。
「・・・はいるぞー」
返事はなかった、一応断わってからドアを開ける。
女の子の部屋というのはなぜか明るく感じる。
最近になってよく祐一はそう思った。
名雪はいつもの猫の足型模様のパジャマで気持ちよさそうに寝ている。
ひょっとしたら、この明るさは名雪の明るさなのかもしれないな・・・。
思いながら、祐一は名雪に近づいた。
・・・可愛いな。
毎日みているはずの寝顔をみて、いつもそう思ってしまう。
時間をみると、かなりヤバくなっているのに気がついた。
「こら名雪、起きろ」
「くー」
呼んでみたが、起きるようすはなかった。
さて、ステップツーだ。
「名雪! 起きろ!」
「くー」
今度は揺さぶりをいれてみる。
が、やはりまだ起きるようすはない。
つづいて、ステップスリー。
「おおおくぅいいいいろぉおおおお!!」
空気を全て吐き出して、叫ぶと、やっと名雪は起き上がった。
「・・・名雪、起きたか?」
「・・・」
名雪はゆっくりと頷くと、一言いった。
「おきたおー」
パタンッ
倒れるように横になると、再び「くー」と寝はじめた。
「・・・」
祐一は10秒ほど沈黙した。
・・・仕方ないな、ステップフォーだ。
「名雪、今起きたらイチゴサンデー奢ってやるぞ」
食い物で釣ってみる。
「おはよー、祐一」
「冗談だ」
パタンッ
「くー」
「・・・」
一度は起きたものの、すぐに寝はじめてしまった。
ここまでくると、感心してしまう。
「・・・ステップファイブだ。」
一番確実で、一番やりにくく、一番嬉しい・・・方法。
この方法を使って、名雪が起きなかった事は一度も無い。
名雪の顔に、少しずつ祐一の顔が近づいていく。
・・・チュッ
「・・・!?」
祐一からキスをする前に、名雪の唇が近づいた。
「おはよう、祐一」
「・・・名雪、いつから起きてた?」
「祐一がイチゴサンデー奢ってやる、って言ったときから」
「起きたんならすぐ起きろよな」
ため息をついて、じゃ、早くおりてこいよといって部屋から出ようとすると、名雪が祐一の背中に飛びつくようにじゃれてきた。
「ダメだよ、祐一」
「なにがだ!?」
つい、照れから、語気が荒くなってしまう。
「朝は、おはようございます。だよ」
「あ・・・あぁ、おはよう」
「うん、おはよう♪ 祐一」
祐一の挨拶を、名雪は笑顔で返した。