暗い雲が、カルバディアガーデンの周りを漂っていた。
俯いて機械的に画面を見ていた俺の瞳に、ふと外の空模様が目に入った。物凄い音を立てて稲妻が空を走る。
――雷か……。
珍しいな、と思いながら、学習パネルのキィを打つ。
まだ、夏でもないのに…春雷というものか?珍しく天気が気になり、おもむろに席を立ち、窓辺へ行こうとした。
「スコール。」
自動ドアが開く音が聞こえたが、あえてそれを意識せず、空模様に目を奪われた俺を大柄の野性の香りを纏った金髪の青年が呼んだ。
――サイファー。
声の主が誰かわかっていたが、振り向かない。ヤツがじっと自分を見つめているのがわかったから、わざと振り向かない。
「聞こえてるんだろ、こっちを見ろ」
――勝手だな……
ガッガッガッ、荒々しい足音が聞こえてくる。サイファーらしい歩き方。歩き方で全てを威嚇するような、そんな威力を持っている。
俺の背後に経ったヤツの手がぐいっと肩を掴み、俺の身体を自分の方へ向ける。
「なんで逃げた?」
ヤツの問いかけに、先程のコトを思いだした。
◆ ◆ ◆
「愛してる…スコール、」
そう言って、サイファーの手が俺の太股を手のひらで撫で、俺の唇に優しく触れる。
腫れ物を扱うみたいに。
「あっ、……ぁ、サイファ…」
それに応えていた。好きだから。でも、ちがう。俺はそうキスする前に愛を囁きあう前に、別 の女とキスして微笑み合い、何かを語っているサイファーの姿を。
「オマエだけだ…」
熱い息を右耳に吹きかけられ、脚を両脚に割り入れ、強く強く抱き締められる。
信じたい、その言葉。でも、それでも俺は先程の出来事が忘れられなかった。
気分が悪くなる。ぐるぐるぐるぐる…イヤなコトが頭の中を巡る。
―“愛してる”?“オマエだけ”?
―そんな言葉、また他のヤツに言うんだろ?
―俺じゃなくても……いいくせに…
「スコール…?」
じっと綺麗な瞳が俺を見つめる。でも、それを俺は見つめていられなかった。
耐えられない悪寒に、サイファーを突き離し、俺は自室から逃げるように走り去った。
◆ ◆ ◆
「なんで?そんなこと自分が一番知ってるんじゃないのか?」
俺は言葉を吐き捨てるように言い、肩を掴んで離さないヤツの手を無理矢理引き剥がす。
―何やってるんだ…俺。馬鹿みたい…
苛立ちを隠せない自分が、わからなくて下に視線を落としたまま、サイファーの顔がまともに見れない。見なくても、ヤツがどんな表情でこちらを見ているのか想像つく。
「知ってる??何を言ってる?」
困惑そうな声が聞こえ、その言葉が俺の頭に降り注ぐ。俺は唇を噛みしめて黙っている。
「――何も怒らないから、白状して全て話せ。何をそんなにイライラしている?何が気に入らない?」
その声は先程の荒々しい口調とは違う。一際優しい、優しく言おうと努力している声が耳に入った。
―アンタって、なんで…こんなに…
声が出なかった。声の変わりに、涙がぽろぽろ零れ落ちてくる。押さえていたモノが緩む、雪崩のように…
「……女か?」
ぎゅっと泣き出した俺を、サイファーが抱き締め囁く。俺は何も言えなくなって、ただサイファーの胸に顔を埋めた。
「…………………」
「馬鹿野郎。あれは、女が勝手に…俺は、」
サイファーの声が先程より近く感じた。近く感じたのではなく、サイファーの唇が俺の耳元に近づいたからだ。俺は頬に伝う涙をヤツの指の腹で掬い取られ、初めてサイファーの顔を見つめた。
「………??」
―“俺は”?何?その言葉の先にあるもの…
その先を期待してまっすぐ見つめてくるサイファーの目を見つめかえし、
次の瞬間に唇が………
言葉を発するかわりに、優しく俺の唇に重なった。
―優しすぎるよ…………アンタは……
「ん………、」
優しく触れた唇が、甘くて…俺は抵抗することなくキスに応えていた。
サイファーの手が俺の腰に回り、キリキリと強く抱き締める。
「オマエしか要らないんだ……、」
唇を離すと切なくて狂おしいばかりの声でそう告げられた。
俺はその言葉を聞いたとき、自分のココロの苛々が何かわかったような気がした。
『嫉妬』
空はますます暗黒雲に覆われ、天を駆けた稲妻が音を立て……
そして、俺はサイファーの身体にしがみつき、
「愛シテル………」
呟いた声は2度目のキスで奪われ、そのまま崩れ墜ちた…
E×N×D
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