<アナスタシア通信1>
【フィリオ】 よう。
【アナスタシア】 どうしたのだ、いきなり?
【フィリオ】 なあ、聞いてもいいか?
公女殿下は、なぜクラウンになったんだ?
【アナスタシア】 お父さまが……。
ヴォルガ大公陛下がお喜びになるからだ。
【フィリオ】 親父さんが、か……。
【アナスタシア】 フィリオ、貴公はどうなのだ?
【フィリオ】 俺は、べつに。なりゆきさ。
【ヴァレンタイン】 ロッシ様のお父ぎみもクラウンだったと
データベースには記録されてますがね。
【アナスタシア】 憧れていたのか?
【フィリオ】 そんなことねえよ。
親父の顔も知らねえし……。
【アナスタシア】 だが、貴公はお父ぎみの歩んだ道を
歩いているな。
運命的なものを感じるが。
【フィリオ】 運命? ハッ!
そんなもの、あるもんか。
俺が決めたことだ。
無数の道から、俺が選んだ。
だから真剣にやるのさ。
誰のためでもない。俺のためにな。
【アナスタシア】 よく言った、フィリオ・ロッシ。
貴公の健闘を祈っている。
【フィリオ】 あんたもな、お姫さん。

<アナスタシア通信2>
【フィリオ】 公女殿下、賭けをしないか?
俺が勝ったら一杯おごってくれ。
【アナスタシア】 かまわないが、私が勝ったら、貴公は何を
してくれるのだ?
【フィリオ】 ナビゲータをトレードってのはどうだ?
【フォクシィ】 フィル! 勝手に決めないで!
【フィリオ】 一回だけだ。気分転換だよ。
【フォクシィ】 賭けの対象にされるのがイヤなの!
【ヴァレンタイン】 私のほうは問題ありませんがね。たまには
羽を伸ばしたいところですし。
【アナスタシア】 だめだ。
【ヴァレンタイン】 は? えーと、殿下?
【アナスタシア】 だめと言ったら、だめだ。
【ヴァレンタイン】 驚きましたねえ。大公女殿下が、それほどに私のことを愛してくださってるとは。
【アナスタシア】 ちがう!
いいか、ヴァレンタイン。
貴様をデトネイターに乗り込ませてみろ。
どんな汚い仕掛けをするかわからん!
そんな不名誉な方法で勝っても
嬉しくないのだ、私は!
【ヴァレンタイン】 ははあ……。案外と古風ですねえ。
【アナスタシア】 フィル!
この話はなかったことにしてくれ。
【フィリオ】 ……。
【フォクシィ】 ……フィルのバカ。
勝手に決めないでよ。
【フィリオ】 ほんの冗談だろ。
【フォクシィ】 大っきらい。
あなたなんて。
【フィリオ】 そんなに怒るなよ……。

<アナスタシア通信3>
【フィリオ】 なあ、お姫さん。
あんたの星は、どんなとこだい?
【アナスタシア】 惑星ペテルブルグか……。
いいところだ。豊かな惑星だ。
【ヴァレンタイン】 昔はウサギ星なんて呼ばれていたようですが、今ではそんなこと想像もできないほどの大都会ですよ。
【フィリオ】 ウサギ星?
【ヴァレンタイン】 多かったらしいんですよ、ウサギが。
ほとんど獲り尽くしてしまったんですが。
【アナスタシア】 お父さまも狩りはお好きだ。
フィルはどうだ?
【フィリオ】 狩りかぁ〜?
金持ちの趣味だよなあ、それ。
【ヴァレンタイン】 確かにコストはかかりますね。
犬を飼わなければなりませんし
獲物によっては馬も要ります。
【フィリオ】 冗談じゃねえよ。
俺は庶民だ。貧乏人だ。
おまけに、ごろつきだ。
追っかけるより、追っかけられてるほうが日常だった。
なさけねえよなぁ……。
【フォクシィ】 でも、いまは違うわ。
ごろつきじゃない。
フィル、あなたはクラウンよ。
選び抜かれた15組のうちの、ひとりよ。
【アナスタシア】 そのとおりだ、フィル。
【ヴァレンタイン】 実力はともかく、ね。
【アナスタシア】 ヴァレンタイン!
【ヴァレンタイン】 申し上げておきますがね、殿下。
殿下も同じことです。実力は未知数。
文句は結果を出してからおっしゃいまし。
【アナスタシア】 すまない、フィル。
こういうやつなんだ。
【フィリオ】 いいさ。ホントのことだ。
やってやるさ。手加減抜きだぜ、アナ!

<アナスタシア通信4>
【フィリオ】 おい、ヴァレンタイン?
おまえから見て、どうだい。俺の実力は?
【ヴァレンタイン】 ごろつきとして?
女たらしとして?
【アナスタシア】 口を慎め、バカ者!
【ヴァレンタイン】 殿下は冗談が通じなくて困ります。
ロッシ様? クラウンとしての腕前でしたら、そうですねえ……。
とりあえず、うちの殿下と対等に走れたら、
まあまあ威張っていいと思いますよ。
【アナスタシア】 ……それは、どういう皮肉なのだ
ヴァレンタイン?
【ヴァレンタイン】 殿下。人の言葉の裏ばかり読もうとするのは、悪い徴候ですね。そのうち家臣の首をちょん切り始める前触れですよ。
【アナスタシア】 おまえを真っ先に始末してやる。
ありがたく思えよ。
【フォクシィ】 ……ヴァレンタインは、いちおう
あなたを買ってくれているみたいね?
【フィリオ】 そう受け取っておくことにするか。

<アナスタシア通信5>
【フィリオ】 刺客が襲ってくることは多いのか?
【ヴァレンタイン】 しょっちゅうですね。
【フィリオ】 あぶねえなあ。警備を固めろよ。
【アナスタシア】 いくら護衛を増やしても無意味だ。
お父さまのそばに、武器を持った人間の数が増えることは避けたい。
【フィリオ】 ……なんだよ、それ。
【フォクシィ】 現実的だわ。
そういうものよ、フィル。
【フィリオ】 俺には判んねえよ。
それって護衛が信用できねえってことか?
裏切って銃を向けるってことだろ?
そんなに裏切り者が多いのか?
そんなに人望がないのかよ?
【アナスタシア】 人間の価値は計算できない。
もっと計算しやすいものに動かされる人間は多いし、責められまい?
案ずるな、フィル。私は強い。
お父さまは、さらにお強いのだ。
【ヴァレンタイン】 タイムを競ってますからね。
暗殺者をやっつけるタイムを。
変わった人たちですよ、まったく。
【アナスタシア】 フィル、いまは刺客の心配はよそう。
私たちのレースに集中しよう。
【フィリオ】 わかった。
だがな、アナ。俺は納得しねえぞ。
おまえら、なんか間違ってるぜ。
【ヴァレンタイン】 ご意見はうかがっておきますよ。
ねえ、フォックスバット?
【フィリオ】 ……!
【フォクシィ】 ……。
【フィリオ】 (俺って、なんてバカなんだ! フォクシィも暗殺者だったんじゃねえか……)

<アナスタシア通信6>
【フィリオ】 犬が好きなのか?
【アナスタシア】 好きだ。
バーソロミューは元気か。
【フィリオ】 あんたに一番なついてるよ。
【フォクシィ】 ………………。
【アナスタシア】 彼は頭がいい。
マドロスを忘れられないのだろう。
【フォクシィ】 そう……なんでしょうね……。
【フィリオ】 お屋敷では、犬は飼ってないのか?
【ヴァレンタイン】 飼ってるもなにも、銀河じゅうの犬が集まってるみたいなものです。
【アナスタシア】 あれはみな、お父さまのだ。
【ヴァレンタイン】 私じゃ、ご不満ですか?
【アナスタシア】 おまえと犬とを比べられるものか。
おまえみたいに皮肉屋で嘘つきで偉そうで陰謀家でズルくて殴っても手応えのない犬が、この世の中に存在してたまるか。
【ヴァレンタイン】 言いましたねえ、ずいぶんと……。
【アナスタシア】 残りはレースが終わってから言ってやる。
フィル? バーソロミューによろしく伝えてくれ。
【フィリオ】 遊びに来いよ。きっと喜ぶ。
【アナスタシア】 そのうち。ぜひ行きたい。
【ヴァレンタイン】 私はね、かみつきませんからね。
【アナスタシア】 おまえ、すねてるのか?
【ヴァレンタイン】 大きなお世話ですよ!

<アナスタシア通信7>
【フィリオ】 狩りに連れてってもらったことはあるのか。
【アナスタシア】 なぜ?
【フィリオ】 大公さんの暮らしに興味があるのさ。
【アナスタシア】 楽しいものではない。
【フィリオ】 なにが?
狩りが?
【アナスタシア】 すべてだ、フィリオ。すべてだ。
しかし私には大公女としての努めがある。
血も流す。自分の血でも、他人のでも。
【ヴァレンタイン】 殿下は、狩りはお好きではないんです。
【アナスタシア】 よけいなことを言うな。
【ヴァレンタイン】 いいじゃありませんか。
この方々は殿下のお友達でしょう?
【アナスタシア】 ……。
【フィリオ】 なに黙ってんだよ、アナ。
不満か? 俺たちなんかじゃ。
【アナスタシア】 いや違う。誤解だ。
フィル、フォクシィも。
おまえたちは私の友人か?
【フィリオ】 なに言ってんだ、いまさら。
【フォクシィ】 失礼でしょ、フィル!
大公女殿下におかれましては、そのようにお考えいただけますこと、光栄に存じ──。
【ヴァレンタイン】 案外と堅苦しいですね、このひと。
【アナスタシア】 ……質問に答えよう。
狩りは、好きではない。しかし義務だ。
いまのところは、義務だ。
いずれは廃止されるだろう。
お父さまは無用の権威を好まれない。
無駄な血を流すことも──
だから、あの犬たちが、どうなるか
そのことが心配ではあるのだが──
もういいか?
レースに戻っても?
【フィリオ】 ああ、悪かったな。変なこと聞いて。
【アナスタシア】 かまわない。
また、別のおりにでも──。

<アナスタシア通信8>
【アナスタシア】 この頃、思うんだ、フィル。
聞いてくれるか?
【フィリオ】 いいぜ。
【アナスタシア】 私は、走ってよかった。
クラウンになれて、よかった。
つくづくそう思うんだ。
【ヴァレンタイン】 すいませんねロッシ様。
うちの殿下は妙にナイーブなところがありまして、恥ずかしいこと平気で言うんですよ。大目に見てやってください。
【アナスタシア】 なにが恥ずかしいのだ!
私は感動を素直に述べたのだ。
卑劣な行為もしていなければ後ろ暗い行為にも及んでいない。おまえとはちがってなにも恥ずべきことはない!
フィリオ・ロッシ!
フォクシィ!
いつまでも友人でいてくれ!
たとえ私か貴公のどちらかがクラウンではなくなったとしても、私たちの友情は永遠だと、いまここで誓ってくれ!
【フィリオ】 うひゃあ……。
【アナスタシア】 うひゃあ?
【フィリオ】 あ〜、いや、まあいいや。
誓うぜ、アナ。
俺も、けっこう嫌いじゃねえんだよな。
こういうのがさ。
【アナスタシア】 フォクシィ?
貴公はどうだ。誓ってくれるか?
【フォクシィ】 ……永遠って、よくわかりませんが、殿下。
この私が存在する限りは、殿下の忠実な友でいることを誓います。
【アナスタシア】 ありがとう、みんな!

<アナスタシア通信9>
【アナスタシア】 いまはレースを楽しもうではないか。
会話は、お茶とお菓子と一緒に、いつでもいくらでも楽しめる。


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