<メルクリウス通信1>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
【フィリオ】 いや、べつに用はねえけど……
【メルクリウス】 そうか。
私も用はない。
(ブツッ)
【フィリオ】 ……。
【フォクシィ】 ……。
【フィリオ】 ……なに、あれ。
【フォクシィ】 ……ミスリルの魔女に、用もないのに交信を求める、あなたもあなたよね。

<メルクリウス通信2>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
用がなければ切るぞ。
【フィリオ】 いや待て。聞きたいことがあるんだよ。
【メルクリウス】 答えられることなら答えてやろう。
手短に言え。
【フィリオ】 おっかねえなぁ……。
【フィリオ】 あのさ、メルクリウスって、魔女だろ?
【メルクリウス】 大魔女だ。
【フィリオ】 ああ、そう……その大魔女ってのはさ、何人ぐらいいるもんなんだ?
【メルクリウス】 そんなことを聞いてどうする?
【フィリオ】 ……いや、別に、どうもしねえけどさ。
おまえみたいなのがゴロゴロしてたらちょっとスゲえなーなんて。
【メルクリウス】 ……。
【フィリオ】 あ、いや別に、悪口じゃねえぞ?
【メルクリウス】 ……。
【フィリオ】 ……。
【メルクリウス】 ……くだらん用で私の時間を奪うな。
(ブツッ)
【フィリオ】 ちぇっ。愛想のねえやつ。

<メルクリウス通信3>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。 なんの用だ?
【フィリオ】 なあ、この前は答えてもらえなかったけどさ、やっぱり気になるんだ。
おまえの仲間ってさ、たくさんいるのか?
【メルクリウス】 貴様に教える必要はない。
【フィリオ】 そりゃまあ、そうだろうけどさ……。
でもさ、メルクリウス。
俺みたいな、なんの力もねえ人間はさ。
おまえみたいなスゲえやつがどこにどれだけ存在して
なにをやっているのか……気になるぜ?
【メルクリウス】 ……。
……フィリオ・ロッシ。
貴様は、ごろつきだとは知っていたが
嘘つきでもあるとは思わなかった。
【フィリオ】 なに……?
【メルクリウス】 つい最近まで、ミスリルの魔女の存在さえ知らなかったほどの貴様が、そんな疑問を持つわけがないな。
誰の差し金だ?
【フィリオ】 ……!
……ああ、そうかよ!
俺は判ったぜ、メルクリウス。
てめえの正体がな!
【メルクリウス】 なに?
【フィリオ】 てめえは陰謀屋だ!
しじゅう人の腹ん中を探り回して
あれこれ企んでる牝狐だ!
俺はなあ大魔女さんよ、ものは知らねえが、人間は見てきたんだ。どっさり見てきたさ。
だから判るんだ、てめえの正体が!
人間ってのはな、相手を自分と思うんだ。
わかるか?
自分ならこうする。
だから相手もこうだろう。
そんなふうにして相手を判断するんだ。
大魔女さんよ、てめえが俺を陰謀屋だと思うのは勝手だ。
だがな、そいつはてめえの性格が見せてる幻かも知れねえってことは、頭に入れとけよ。お偉い大魔女さんよ!
【メルクリウス】 ……!
【フィリオ】 (ブツッ)
【フォクシィ】 ちょっと、フィル!?
切っちゃったの、通信?
彼女、なにか言いたそうだったわよ。
【フィリオ】 うるせえ!
知るかよ、あんなやつ!

<メルクリウス通信4>
【フィリオ】 ……。
【フォクシィ】 なにを迷ってるの?
【フィリオ】 ……べつに。
【フォクシィ】 メルクリウスと話をしたいんじゃない?
【フィリオ】 ……あんなやつ。
【フォクシィ】 ねえフィル、メルクリウスは魔女よ。
【フィリオ】 大魔女。
……だとさ。
【フォクシィ】 ……。
……それが、どういうことなのか
あなた判ってる?
【フィリオ】 いや。わかんねえ。
だから聞かせてもらおうと思ったんだよ。
それなのにさ……。
【フォクシィ】 フィル。魔女という存在は、人間の尺度では量れないと思うわ。彼女たちは、惑星を相手にしているんだもの。
【フィリオ】 惑星?
【フォクシィ】 魔女の仕事はテラ・フォーミングよ。
人間のまだ住まない星を、植民できるように変えるのが仕事なの。
長い時間のかかる、デリケートな仕事だわ。
だから長生きよ。何百年も生きるの。
【フィリオ】 ………………。
【フォクシィ】 何百年も生きて、惑星と、そこに生きる命のすべてを相手にしている存在──
そんな彼女たちが、人間らしい感情を備えたままでは、かえってつらいでしょう?
【フィリオ】 ……。
……そうだな。つらいだろうな。
でもさ、メルクリウスは
いま、俺たちといるじゃん?
人間の中で暮らしてるのに
人間に対して鈍感だったら
お互いに不幸だ。そう思わないか?
【フォクシィ】 思うわ。けど……。
【フィリオ】 ……よし、決めた。
ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。 なんの用だ?
【フィリオ】 ……あのさ、この前は言い過ぎたよ。
悪かった。ごめんな。
【メルクリウス】 ……。
【フィリオ】 今日はさ、それだけ。
じゃあな、メルクリウス。
【メルクリウス】 ……。

<メルクリウス通信5>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
【フィリオ】 いや別に。声でも聞こうかなって。
じゃあな、メルクリウス。
【メルクリウス】 待て。
【フィリオ】 ん!?
【メルクリウス】 フィリオ。 貴様は、魔女について尋ねていたな。
【フィリオ】 ああ。
【メルクリウス】 ……貴様が、誰の差し金でもなく、なにも企んでいないとすれば……なぜ魔女などに興味を持つというのだ?
【フィリオ】 ……あのさあメルクリウス。
俺って人間なの。
好奇心ってものがあるんだよ。
【メルクリウス】 ……。
【フィリオ】 悪いか?
【メルクリウス】 ……いや、よく判った。
つまり貴様は、お調子者の野次馬だ。
【フィリオ】 そうそう。おまけに、おせっかいでさ。
俺みたいなのが昔から大勢いて
よけいなこと、いろいろとやらかして──。
人間ってのは、そうやって進化してきた。
どうかな、大魔女さん?
フィリオ・ロッシ説だ。お調子者進化論。
【メルクリウス】 ……。
【フィリオ】 まあいいや。感想は気が向いたときにでも聞かしてくれ。
じゃあな、メルクリウス。

<メルクリウス通信6>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。 なんの用だ?
【フィリオ】 いや別に。いつものとおり、お調子者。
【メルクリウス】 予想どおりだ。
【フィリオ】 そうかい。
【メルクリウス】 私のほうは、貴様に少々、用がある。
【フィリオ】 ええ!?
俺に?
【メルクリウス】 最前からの疑問に答えてやろうと思うが、
どうだ。まだ聞きたいか。
【フィリオ】 魔女の話だな。
ああ、興味津々だ。聞かしてくれ。
【メルクリウス】 魔女の仕事について知識はあるか。
【フィリオ】 ちょっとだけ。
惑星に、人が住めるようにするんだろ?
【メルクリウス】 そうだ。貴様にしては上出来だな。
【フィリオ】 ひとこと多いよな、おまえって……。
【メルクリウス】 そうか?
ジャオジュンには、口数が少ない、と
いつも小言を言われるが。
【フィリオ】 まあ、いいや。
魔女の話を続けてくれよ。
【メルクリウス】 貴様と話していると
調子が狂うのだ、フィリオ……。
テラ・フォーミングは根気の要る仕事だ。
ひとつの星を、長い時間に渡って見守ってゆくことになる。
だから、当然、魔女の数もひとりやふたりではない。言葉のとおりに、星の数ほども存在している。
【フィリオ】 そうなのか?
そのわりには、あまり見かけねえけど。
【メルクリウス】 フィリオ、貴様は銀河の星々のうち
いくつの星の土を踏んだというのだ?
【フィリオ】 ……ああ、なるほど。
宇宙は広いし、魔女は散らばってるから
出会うチャンスも少ないわけだな。
【メルクリウス】 そういうことだ、フィリオ・ロッシ。
では、私はレースに戻る。
貴様も死なない程度にがんばるといい。
【フィリオ】 おうおう、あんがとよ。

<メルクリウス通信7>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
【フィリオ】 この前は魔女について教えてくれてあんがとよ。ためになったぜ。
ついでに、もひとつ教えてくんねえか?
【メルクリウス】 言ってみろ。
答えられることなら答えてやろう。
【フィリオ】 おまえってさ、ただの魔女じゃなくて「大」魔女なんだろ?
それって偉いんだよな?
【メルクリウス】 偉いかどうかは知らん。
力は強い。魔法の力のレベルが高いのだ。
【フィリオ】 たくさんいるのか?
【メルクリウス】 9人いる。
以前は10人いたがな……。
【フィリオ】 9人か。けっこう少ねえな?
【メルクリウス】 そうだな。貴様はすでに9人のうちふたりに会っている。
私と、ジャオジュンだ。
【フィリオ】 ああ、あの子な。へーえ。大魔女か。
【メルクリウス】 私の先輩だ。導師を務めてくれている。
【フィリオ】 おまえって、ひょっとして見習い?
【メルクリウス】 そういうわけではない。
魔女は、ふたりがひと組になって動くのが基本なのだ。そのほうが間違いが少ない。
【フィリオ】 間違い、って……。
【メルクリウス】 魔法は危険なものなのだ、フィリオ。
大魔女といえども、完全に制御しきれるとは限らん。事故はいつでも起こりうる。
そう、いつでも起こりうるのだ……。
【フィリオ】 ……。
【メルクリウス】 では、私はレースに戻る。
貴様も死なない程度にがんばるといい。
【フィリオ】 おうおう。あんがとよ。

<メルクリウス通信8>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
【フィリオ】 この前は大魔女について教えてくれてあんがとよ。ためになったぜ。
ついでに、もひとつ教えてくんねえか?
【メルクリウス】 言ってみろ。
答えられることなら答えてやろう。
【フィリオ】 おまえってさ、大魔女なのにクラウンだよな?
なんでなの? 忙しくねえの?
【メルクリウス】 ……。
……その件については、とくに理由はない。
ミスリルといえども、対外的な広報活動は必要というだけのことだ。
【フィリオ】 ふうん……?
【メルクリウス】 では、私はレースに戻る。
貴様も死なない程度にがんばるといい。
【フィリオ】 ……なんか隠してんじゃねえかな、あいつ。
【フォクシィ】 いろいろと、つごうがあるんでしょ。
【フィリオ】 なんなんだ、このレース?
どいつもこいつも
企んでばっかりじゃねえのか?

<メルクリウス通信(以下、ランダム)>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
【フィリオ】 おまえ以外の大魔女について教えてくれよ。
【メルクリウス】 では、お調子者に教えてやろうか。
グレートヒェンだが、ブランデンブルグ伯ならば面識があるかも知れん。
【フィリオ】 ブランデンブルグ伯……?
【フォクシィ】 マクシミリアン伯爵のことよ。
【メルクリウス】 グレートヒェンには、いま、人間の恋人がいるらしいのだ。どうやら相手は、伯爵の領地のあたりに住んでいるらしい。
噂を聞いていないか?
【フィリオ】 いや……。
おまえも、そういうの興味あるわけ?
ゴシップのたぐいの話……。
【メルクリウス】 魔女が、人間的な感情に捕われることは珍しいし、危険でもある。注目しないわけにはいかないのだ。
なにか噂を聞いたら、知らせてくれ。
【フィリオ】 いいぜ。おぼえとく。
【メルクリウス】 では、私はレースに戻る。
貴様も死なない程度にがんばるといい。
【フィリオ】 おうおう、あんがとよ。

<メルクリウス通信>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
【フィリオ】 おまえ以外の大魔女について教えてくれよ。
【メルクリウス】 では、お調子者に教えてやろうか。
グレートヒェンについては前に話したか?
【フィリオ】 どうだっけ?
【メルクリウス】 まあいい。グレートヒェンとコンビを組む魔女について聞かせてやろう。
フォックスバット。貴様にも興味のある話ではないかと思う。
【フォクシィ】 私!?
【メルクリウス】 ネコミミの魔女なのだ。
ヴァーリンデという。
知っているか?
【フォクシィ】 知らないわ……。
【メルクリウス】 あまり素行がよくないのだ。
魔女は、むやみに命を取ることは禁じられているのだが、ヴァーリンデの趣味は狩りなのだ。それも、獲物は人間の乙女──
【フォクシィ】 !?
【メルクリウス】 ──という噂だ。
確かなところは誰も知らない。
では、私はレースに戻る。
貴様も死なない程度にがんばるといい。
【フィリオ】 おうおう、あんがとよ。

<メルクリウス通信>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
【フィリオ】 おまえ以外の大魔女について教えてくれよ。
【メルクリウス】 では、お調子者に教えてやろうか。
クランとイヨは、コンビを組んでからもっとも長い時間を共に過ごしている。
ジャオジュンと同じような肌をしているが、
性格はだいぶ異なるようだ。
クランは、魔女としては珍しく、剣の技を身につけている。いろいろと勇ましい逸話も多いが、どこか陰のある雰囲気でな。
イヨのほうは、控え目ながら、ものごとをおおらかに受け止めるたちだ。あのふたりが組んで、長続きしているのは──
イヨが、クランを励まし、引き立てているからだろうというのが、もっぱらの評判だ。
では、私はレースに戻る。
貴様も死なない程度にがんばるといい。
【フィリオ】 おうおう、あんがとよ。

<メルクリウス通信>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
【フィリオ】 おまえ以外の大魔女について教えてくれよ。
【メルクリウス】 では、お調子者に教えてやろうか。
9人の大魔女の長老格は、モルガンだ。
モルガン・ル・フェイ。
長老格だが、9人の中でもっとも若い。
【フィリオ】 なにそれ?
変じゃねえの、それ?
【メルクリウス】 魔女の格は魔力で決まるからな。
そういうことも起こるのだ。
モルガンとコンビを組むのは
“湖の妖精”ニミュエだが
このふたりは現場へは、あまり出ない。
ミスリル全体の統括を務めている。
気苦労の多い仕事だろう。
では、私はレースに戻る。
貴様も死なない程度にがんばるといい。
【フィリオ】 おうおう、あんがとよ。

<メルクリウス通信>
【フィリオ】 ナンバー12聞こえるか。
【メルクリウス】 感度良好。
なんの用だ?
【フィリオ】 おまえ以外の大魔女について教えてくれよ。
【メルクリウス】 では、お調子者に教えてやろうか。
9人目の大魔女については、人間にはその名が秘せられている。私といえども教えるわけにはいかない。
【フィリオ】 秘密なのか。なぜなんだ?
【メルクリウス】 理由も含めて秘密なのだ。
【フォクシィ】 前に言ってたけど、たしか
10人目の大魔女も、いたんでしょう?
【メルクリウス】 ……その件についても言えない。
では、私はレースに戻る。
貴様も死なない程度にがんばるといい。
【フィリオ】 おうおう、あんがとよ。


戻る