対固有美希ルート“INVISIBLE MURDER INVISIBLE TEARS(IMIT編と略称)”にて、美希から新たな情報が提示される。
以下にその際の様子を書き出しておこう。
「先輩、この世界は……わたしたちのいた世界じゃないんです」
「なに?」
「これを読んでください。一番わかりやすいですから」
美希は分厚い日記帳を取り出した。
「52ページから」
読んでみる。
○月×日
大規模神隠しが確認されはじめて、わずか一ヶ月。
瞬く間に人はいなくなってしまった。
いつ消えているのか。
どのように消えているのか。
消える瞬間を、誰も見たことはない。
原因を解明する暇さえ、人類にはなかった。
上見坂市の人口も、今や半分以下だ。
学生の数も減った。
黒須という学生は、相変わらずだ。
危機的状況で、変わらず騒いで生きている。
彼は重篤な者の一人だが、もっとも健全に見える。皮肉なものだ
私はいつ消えるのだろうか。
○月×日
授業は自由参加になった。
学生が十分の一になってしまっては、どうにもなるまい。
私は自宅で、フィギュアばかりいじっている。
しかし見る者はなく、愛でる者もない。
自己満足に過ぎない。
家族がいなくて良かった。
家族の消失に、私は耐えられそうにない。
発電所が停止させられることになった。当然か。
○月×日
フィギュアを処分した。
人がいなくなっただけで、趣味さえ無意味になるとは。
何もする気が起きない。
世界が安定している。
それが趣味の楽しみに繋がっていたのだ。
人嫌いの私もまた、世界と繋がっていた。
流通はかろうじて生きている。
食料も、頭数が減ったせいでなんとか賄われている。
物々交換が増えた。
無性にステーキが食いたい。
○月×日
街に出ても滅多に人を見なくなった。
まだ生きている者はいるのか。
私は徘徊するようになった。
テレビは機能を失った。
ラジオも空電ばかりで、何かが聞こえてくることはない。
静かだ。気が狂いそうだ。
○月×日
今日は誰とも会わなかった。
○月×日
運送トラックが来た。
だがドライバーはいなかった。
方々を捜したがいなかった。
エンジンのかかったトラックだけが残されていた。
恐い。私は恐い。
○月×日
トラックの物資を拝借した。
パンばかりだ。
だがカレーパンはいらん。
自分の分を何度かにわけて自宅に運んだ。
カレーパンのケースは、学食に運んでおいた。
誰か生き残っていれば、食べるだろう。
○月×日
今日も誰とも会わない。
○月×日
誰かいないのか……
○月×日
山辺美希に出会う。
私は歓喜した。
だが山辺は怯えていた。とりあってくれない。
黒須がどうのと言っていた。
黒須が危険?意味がわからない。
山辺は逃げてしまった。
私は夜中まで捜したが、発見できなかった。
○月×日
山辺が死んでいた。なんてことだ。
殺されていた。誰に。
黒須?黒須が危ないとはこういうことだったのか。
確かに黒須は重度の不適応者ではあるが。
なにか原因があったんだ。
私は人に会いたい。
明日は、黒須を捜してみようと思う。
誰でもいいんだ。
ここで途切れている。
「……これって、榊原の日記?」
「だいぶ前に、いろいろ調べたときに……見つけました」
「ここ別世界なんです」
「同じなんだけど、別世界なんです」
「……本来の住人のいない、からっぽの世界なんですよ」
「わたしたちはそこに投げ出された。たぶん、あの合宿の帰りに……」
心臓が跳ねた。
合宿の帰り。
じゃあ、じゃあ───
この目が───
「……どこにあったんだ?」
「誰の家にもたいていありますよ。ただわかりやすいのはそれです」
「こっちの世界の先輩やわたしってのが、別にいたわけですね」
「で、たぶん榊原先生は殺されたんだと思います」
「学院の廊下が血だらけでしたから」
「……俺が、か」
「この世界の先輩です」
「俺が……」
「この世界のです!」
「でも、俺だ」
日記を落とした。
「まったく、ろくでもない───」
「平気」
抱擁された。
「だから、落ち着いて」
抱き返す。
小さな美希が、大きな安心を与えてくれる。
「……世界が、交差してるんだな」
「その交差点が、今の一週間世界」
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ゲーム本編での太一たちが元いた世界をA世界、大規模神隠しが発生していた世界をB世界と仮称する。
これより前に七香が語っていた人類滅亡の様子というやつは、B世界での出来事だったのだろう。
ついでだからそちらも書き出し。
「で、キミってこの人類滅亡症候群とどう関係あるわけ」
「無関係」
「うそだよなぁ……絶対」
「本当だよ。人類は勝手に滅びました。理由はわかりません」
凝然と少女を見つめてしまった。
「……知ってるの?」
「見てた」
「見てた!?」
「うん。見てた」
「世界はね、ゆっくりと滅びていったんだよ」
「ゆっくり?」
「ゆっくりってどのくらい?」
「んー、さあねぇ。時間感覚なくなっちゃって」
「変だ。だって、俺たちが合宿行く前は普通だったんだよ?」
「合宿は二泊三日だったから……三日かけて滅亡したってこと?」
「ううん」
七香は首を振る」
「……もっとだよ」
「そりゃおかしいな。理屈に合わない」
「ものの見方の問題だと思うよ」
「はー?」
意味がわからない。
「ま、過ぎたことをくどくど考えても仕方ないよ」
「そうだけど……人類って、こんな簡単になくなるものなんだったんだな」
「どっかでなにか起こった、ってあたしは思ってる」
「なんとなく、肌の感覚でね」
「どっか?」
「言葉じゃうまく説明できないんだけど……」
「どこかで大きな波があって、それがバーッて広がったんだと思う」
「あたしの知覚力じゃそれが限度」
「……キミは……神様なのかな?」
彼女は苦笑した。
「ちがうちがう。そんな偉くないって。何もできないしさ」
「……なにもわからないんだよ」
「じゃあ、どうして俺の前に」
「……ん、それは……ちょっと言えない。言う資格がないから。ごめんね」
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B世界の人類がなぜ消えたのか、それはわからない。
ともかくB世界では大規模神隠し事件の結果、人類含めた動物がほぼ完全に消失。
そこを合宿の失敗で消沈し、一人になることを痛切に望んでいた太一が観測してしまったことから移動が起こったというのがA世界8人にとっての真相のようだ。