1−3.スーパーくのいちによる世界講釈
最終更新日:2003/10/14

 作中、ハッピーエンドを求めてあがく太一が曜子に問いをぶつけ、それに曜子が長々と講釈を垂れるシーンがある。
 とにかく長くてややこしいので理解するのが面倒なのだが、とりあえずその際の様子を書き出しておく。


太一「何なんだよ、この世界は!」
深々と息を吐き出した。
苛立ちとともに。
太一「ねえ……ここは異世界なのかな」
曜子ちゃんは俺の前に立った。
そしてつま先で、地面に『X』の字を描いた。
曜子「可能性は二つ」
曜子「一つは、線形だった二つの世界軸が交錯し、互いに知覚できる状態になってしまった……SFね」
二本の世界。
ねじまがって、交差。
太一「世界が重なって、異常が起きたってことか」
太一「ん……その場合、俺たちの元いた世界は? そのまま保持されてるってことじゃ───」
曜子「もう一つは、私たちのいた世界の結末がコレだった」
だが彼女は安易な救済を、半分だけ否定してのけた。
太一「…………」
太一「多世界同志の干渉はありえない……んだったね。量子力学だと」
量子力学といえばディラックだが、俺は原書を読んだことはない。
そもそも今の状況が、量子力学的解釈にふさわしいものかどうか。
太一「……さっき言ってた、SFの方なんだけど……あれは?」
曜子「AとBのどちらかを選ばないといけないとする。どっちを選ぶ」
太一「……半々だな。内容がわからないなら」
曜子「そう。私たちは日々、無数の選択の上に生きている」
曜子「たとえば歩き出すとき、どちらの足から前に進めるのか」
曜子「ごはんのおかずを何から食べるのか」
曜子「もっとミクロの世界でも、選択は行われる」
曜子「ありとあらゆる瞬間、無数の選択が行われている」
曜子「世界は選択によって作られている」
曜子「それも、極めて確定的に」
太一「確定的に……」
曜子「たとえば太一はAを選ぶ。太一はAを選んだことを自覚している」
曜子「けど同時に、その同じ世界軸にBを選んだ太一も存在する」
曜子「並列的な世界の存在を意味するものではないけれど……」
曜子「ただ少なくともディラックの概念では、A選択世界からB選択世界を知覚することは不可能。逆もまた然り」
曜子「逆に知覚できるなら、世界間の移行はありうる」
曜子「紫外線を目視できる者にとって、世界がまったく違うものであるように」
曜子「多世界を観測しえた者は、その二つの世界に存在することができる」
曜子「観測が成立した瞬間、その世界の者になっている……とも考えられる」
太一「観測……した……?」
太一「世界は変わらずそこにあって、要するに見る者の違いってことかな?」
曜子「そんな感じ」
曜子「ただ多世界観測は、現行の理論ではありえない」
曜子「私たち複数が一斉に移行した理由にもならないし」
曜子「だからSF」
太一「……ふむ」
太一「二つ目の可能性については?」
曜子「私はこちらが本命だと思う」
曜子「つまり他の世界は観測されてない」
太一「……んー、さっきのSF解釈はナシってことね」
端正な顔が頷く。
曜子「世界、時間、固有の歴史。すべて一続きのもの」
曜子「つまり……時間も巻き戻ってはいない」
太一「……え?」
太一「それはおかしいよ。日記には月曜から土曜あたりまで記述があって……そこからまた月曜に戻っていたりするんだけど?」
曜子「ループしているように見えるに過ぎない」
曜子「当然世界は、永遠の時を繰り返しているのではない」
曜子「この結末が、世界の確定的な結末だった」
曜子「世界は交差していない。異変は起きてはいない。一続き。もともと、こうなる可能性が許容されていた世界で、私たちは可能性に乗って順当に今に立った」
曜子「多世界間での知覚の交錯が起こったように見えるけれど、実際は一繋がりの道を進んでいるだけ」
太一「ループしているようにって……実際俺たち、何度もリセットかけられているわけで……」
太一「そもそも元の世界でループなんて現象、起こったこと……」
気づいた。
そうか。
太一「自覚できないんだ……」
ループが起こったことを、俺たちは本来自覚できない。
祠という特殊な場所が存在してくれない限り。
現象は決して露見しない。
太一「世界には、もともとループという現象が予定されていた? 人類の黄昏として?」
長い線路の端に。
何も大地が崩壊するばかりが、滅亡じゃないんだ。
時空が乱れて、先に進めなくなることが……終焉であることだって。
太一「でも……でもさ……」
曜子「特定の条件……この場合、日曜日の規定時間に到達した時、世界は一度分解されている……としか言えない」
曜子「空間的に記録された情報に従って、分解された粒子が集束、月曜朝の状態に戻る」
太一「でも、世界としては一続き……」
曜子「その証拠として、例の社をあげる」
曜子「ノートの記述内容は過去の存在を示すものよ」
曜子「過去が観測できる以上、過去はある」
曜子「この世界は、過去を許容しているということね」
曜子「そして私たちは、何度も分解され構築されてここにいる」
曜子「……厳密に言えば、私たちはもう人ではない気がする」
太一「じゃあ何だっての?」
曜子「現象」
適切すぎる言葉が、心に染みた。
もう人じゃない───
太一「君は一繋がり説だって言ったけど、でも俺には前者の方もそれっぽく聞こえる。どっちが正しいか、今のところは判断できないんじゃあ……」
曜子「私たちにとってループしているように見えても、実際どうかは調べようがないの」
曜子「……だったらまずは、今ある理論を適用するしかない」
曜子「現状、世界間の移動はありえないと思われるから、移動なしの仮定としての後者」
太一「ああ、なるほど……」
量子力学における多世界解釈は、並列的世界の存在を裏付けるものじゃない。
それは誤認であり、実際はもっと確定的な思考実験だ。
そこでは、世界Aと世界Bは同時に存在しているが行き来はできない。
なぜなら同時に存在しているからだ。
このあたり、理解が少々厄介ではある。
太一「ディラック、せめて訳書があれば読んだんだけど」
曜子「仮に従来の理論を逸脱していたとしても」
曜子「起こりえないと思っていたことが起きた。それだけのことよ」
曜子「物理的な地平は広くて、人はまだその全てに手を広げたわけじゃない」
曜子「そして今の私たちに、理論は些細なことでしかない」
曜子「必要なのは、なに?」
太一「わからない」
曜子「理解者、でしょう?」
微笑む。
太一「…………」
曜子「太一の理解者なら、ここにいる」
曜子「他の誰も、あなたのことを理解してはくれない」
曜子「擬態をすればするほど……」
そうだ。
当然のことだ。
人のフリをすれば、フリだけが自分になってしまう。
隠した内面を見られたが最後、おしまいだ。
思い出す。
太一「わかってたさ……そんなこと」
太一「あのときから、とうに!」


 結論を言ってしまえば実は太一が他世界観測者であり、その為に移動が起こったという真相があるわけだが、後者の説にも示唆するところが無いわけではない。
 つまり太一が観測し、移動することになったB世界、その確定的な結末が世界のループ化だったという可能性である。
 B世界でなぜ神隠しが起こったのか、世界がループするようになったのは何故か、その辺りの具体的な説明はない。
 世界が交差したことが異変の原因であるとするなら、ゲーム本編の太一たちが元いたA世界で特に異変が無かったのも不自然である。
 つまりB世界は元々ループの発生が許容されていた世界で、そこに太一たちが紛れ込んだのではないのかと。


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