空 色 の 惑 星
VOL.1
まだ誰もいない庭園へと一人降り立つと、男は満足そうに笑みを浮かべた。
派手な出で立ちをしたその男は、きょろきょろと辺りを見回すと、一つの像に目を止める。
庭園の一番奥に堂々と、しかし何か慈しみを感じさせるその一人の女性の像にしばし目を
奪われると、男は誰ともなくつぶやいた。
「今回の試験・・・どんな人等が集まってくるんか楽しみや」
人好きを感じさせる屈託のない笑顔で。
(とりあえず色々回って見よ)
試験が始まるまでにこの聖地の地理を把握する必要がある。
そう男は考え、自分以外まだ誰もいない聖地を探索することにした。
庭園から南へ歩き、大通りを東へ行けば学芸館。
試験が始まればそう歩き回ることは出来ないので、きっともうあまり行く事のないだろう建物を訪れる。
(この試験のために新しく作られたたてもんやな)
どこかアンティークさをともなった造りの建物を一通り見終わった後、今度は来た方向と反対に
歩き始める。
手入れの施された美しい道を見回しながら軽い足取りで歩く。
しばらくして見えてきたのは、見覚えの有るマークの入った、整然とした一つの建物。
(王立研究院・・・)
ひとしきり眺めると、男は一つ大きくため息をついた。
(確かに立派なたてもんや。けど・・・)
男は微妙に表情を固くする。
「・・・やっぱ、俺の苦手なタイプや。」
思わず声に出してしまっていたその台詞に、返ってくるはずのないと思っていた返事が聞こえた。
「いきなり失礼な方ですね」
自分の背後から聞こえたその声に、男は思わずビクッと身体を硬直させた。
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには一人の男が立っている。
「・・・あんたは?」
男の問いに、少し顔をしかめたまま彼はためらいながらも答える。
「私は今回の試験で王立研究院主任を努めさせていただくエルンストです」
「主任・・・」
「何か?」
よりにもよってという男の顔に、エルンストはまた少し表情を固くする。
「いや、なんでもないなんでもない。それよりゴメンな。まさか主任さんがおるなんて知らんかったんや」
「貴方は人が聞いていなければどんなことを言ってもいいということですか?」
「い、いやちゃうって・・」
どうフォローしたらいいものか途方に暮れ出した男を見てエルンストは苦笑する。
「冗談です。・・・中にお入りになりますか?」
まだいろいろ試行錯誤しているらしい男にそう一言告げると、エルンストは抱えた資料を持って先に
中へ入って行った。
「・・・なんかやりにくい人やな・・・;」
そう一人ごちると、男も続いて中へと入った。
「そういえば、まだ貴方の名前も聞いていませんでしたね」
研究院の奥の自分の自室へ男を通し、とりあえずコーヒーを出したところでエルンストは思い出したように
言った。
「俺の名前?」
出されたコーヒーに口を付けようとしたところで、男は多少困ったように口をつぐむ。
「名前・・・ね。」
「?」
怪しむ様な目をし始めたエルンストに、男はいつもの笑みを浮かべて言った。
「チャーリーや」
「なるほど。ではチャーリーさん」
妙に納得したような口調で問うエルンストに、チャーリーはそのまま応える。
「なんや?」
「どうして、この聖地へ?」
「商売や。」
「・・・は?」
理解出来なかったのか、エルンストはぽかんと口を開けて言葉に詰まった。
「あー・・・なんちゅーか、ま、いろいろあってな。女王サンから頼まれて来たんや。
あんたとおんなじようにな」
まだなんとなく賦に落ちないのか、表情をしかめたまま次の言葉を待つエルンストに、チャーリーは
心のなかで苦笑する。
だが、まだ知られる訳には行かない。
自分の正体は誰にも明かさない。
そう決めて来たから。
「ま、あんまり深く考えんことや。どうでもいいやん、そんなこと」
「しかし・・・」
まだ食い下がろうとする彼に、いい加減辟易しながらチャーリーは笑みを崩さず言う。
「人には他人に言えんような秘密だってぎょーさんある。そやろ?」
「・・・わかりました。私としたことがどうもすみません」
無理やり自分を納得させたのがありありと分かる彼の物言いに、チャーリーは今までの彼に対する印象とは
まったく違う本当の部分を見つけたような、そんな気がして、また一人心の中で歓喜した。
本当はこんな研究者らしい固い人間じゃないのかもしれない。
ふと思った彼に対する見解が、そのまま純粋な興味へと変わるのを感じる。
もともと、好奇心は人一倍旺盛な質なのだ。
「なあ、あんた」
「え?」
飲み終わっていた二人分のコーヒーカップを片付けに立ち上がろうとした彼を、言葉で引き留める。
「なんでこんな早くに此処へ来たんや?」
先ほどとは逆の状況に、エルンストは少し考えるように間を置いてから答える。
「運びたかった資料がとても多かったので。この位からこなければとても整理がつかないんです」
「そんなこと言って」
なにか含めたような言い方に、エルンストは目で疑問を投げかける。
チャーリーは勝ち誇ったかのように笑って言った。
「ホンとは最新のコンピュータ、誰よりも早く見たかったんやろ?」
「なっ・・・」
図星を指された、というように思わず声を詰まらせた彼に、チャーリーは笑いを必死で噛み殺して続けた。
「ほら、な」
「そんな・・・ことはありませんっ!」
それでもまだ苦しそうにお腹を抱えるチャーリーを見て、エルンストはもうどうしたらいいか分からないと
いったふうに、顔を赤くしたまま立ち尽くしている。
「やっぱアンタ、面白い人やな」
「え・・・?」
ひとしきり笑った後不意にチャーリーが言った言葉に、エルンストは驚きの色を見せる。
「俺、人を見る目には自信あるからなー。思うたとおりや」
「私が・・・?」
驚愕を隠せない彼の表情を見て、チャーリーは満足そうに続ける。
「そ。こんな素直に感情が顔に出る人間なんて、そう多くはおらへんで」
「う・・・」
得意げなチャーリーとは裏腹に、エルンストはなんだか恥ずかしいような腹立たしいような、よくわからない
感情に戸惑う。
「ま、その位のほうが楽しくてええやんか。気楽に行かな、な」
人なつこい笑みをうかべて、チャーリーは言った。
そして、胸には一つの思い。
こいつは、色々な顔を持っている。
研究者然とした表情、子供っぽさを残した反応、以外とムキになる性格。
全部見たいと思ったのは、好奇心からだろうか。
「しかし、貴方こそ面白い方ですね」
なんとか落ち着きを取り戻したらしく、エルンストは彼に向き直して言った。
「えー?」
もう最初の澄ました顔に戻ってしまっている彼を心の中で少し残念に思いながらも、チャーリーは
意外そうな顔をしてみせる。
「私のことを『面白い人間』などと言った人は貴方が初めてです。私はあまり人付き合いが得意なほうでは
ありませんし」
心底不思議そうに聞いてくる彼に、またこいつは、と思いつつ苦笑しながらチャーリーは言った。
「そりゃアンタ、今まで出会うて来た人間が見る目なかっただけやって」
当り前のことを言うみたいな彼の顔を見て、エルンストは少しだけ表情を緩める。
今まで、自分が会ったことのないタイプの人間。
データの数字とばかり顔を突き合わせていた自分にとって、他人とのコミュニケーション、ましてや会話を
楽しむなんてことは人生のなかで殆ど意味を成していなかったような気がする。
研究に全てを捧げてきた自分にとって、誰かと話すことで気持ちが落ち着くなど考えられないようなことだったが、
何処かでそれを認める自分も居ることを、エルンストはおぼろげながら感じていた。
「あ、マズ。俺もうそろそろ行かなアカンわ」
気がつけばもう窓の外は薄暗くなり初めている。
チャーリーが慌てたように席を立つのを、エルンストは落ち着かない気持ちでただ見ていた。
「じゃ、な。コーヒーごちそうさん」
「あ、いえ。何もなくて申し訳ありません」
おもわず儀礼的に返してしまった返事に、チャーリーは何も言わず研究院の扉を開く。
何も挨拶はなく、ただ扉が閉まる前にこっちを振り返って手を振っていたのがわずかに見えただけだった。
パタリ・・・と音を立てて閉じた扉に、エルンストは急に何か得体の知れない感覚が身体を走ったような気がして
額に手を当てる。
外はもう、太陽がその姿を隠し始めていた。
うーん・・・(^^;)いきなり通算二作目にして
こんなののっけちゃっていいもんでしょうか(汗)
なんちゅうか。なんか思い知らされました。
やっぱ私、こーいうドリーマーなお話書くほうが好きだなー・・・。
だって普通の書いてる時と比べて悩む回数少ないもん;
なんだか書いてる内に思ってたストーリーとは違う話になってしまいましたが;
もし待って下さる心の広い方がいればいいなあ。一応続き物なので;