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鋏 (ハサミ)
オスカーの髪を切るための鋏は、ゼフェルが持っている。 付き合いだしてからずっと、その鋏を使うのはゼフェルしかいない。 普段は見下ろすことのない項や首筋、形のいい頭頂部などが その時だけは無防備に晒されていて、あまりの愛しさにキスしたくなったりもするのだが、 平静を装って鋏を使う。すると、 『こうやってオスカーの髪を切れるのは、自分だけだ』などと、傲慢な気持ちにもなったりする。 実際、こんな風にオスカーと接することが出来るのは自分だけなのだ。 他愛もない言葉と態度で、彼の心を切り刻むことも出来る。 髪の毛を無造作に掃き捨てるように、ポイと捨ててしまうことだって出来る。 いつだって、鋏を手にしているのは自分なのだ。 それなのに。 ゴミ箱の底に捨てられた赤い髪の毛の束を見るだけで、切なくなる。 赤い髪の持ち主が、自分の傍らにいない。 今夜は視察で帰ってこないから、明日の夜まで会えない。 たったそれだけのことが、ゼフェルを不快にさせる。 髪の毛だけで、心を切り刻まれる。 こんな些末なことで胸を痛めているなどと、オスカーは考えてもいないだろう。 自分の方が、より鋭い鋏を持っているなどと、彼は考えることもしないのだ。 赤い髪の毛の束を見つめていると、携帯の着信音がなった。 発信先の名前に、「オスカー」の文字。 ゼフェルは困ったように笑うと、携帯を手に取った。 結局のところ、心を刻むのも、治してくれるのも、オスカーしかできない。 何て合理的な関係。 ゼフェルは自分の思いつきに苦笑しながら通話ボタンを押した。 |