+  Heat Island 〜1章 +




 300X年。8月。



 高層ビルが建ち並ぶ街に、ゼフェルは初めて足を踏み入れた。

 ビルとビルの間を、熱風が通り過ぎていく。

 じめじめとした空気が肌に貼り付き、汗で濡れたTシャツが気持ち悪い。

 手元の温度計は47度を示している。

 人間の体温を軽く超えた暑さは、異常としかいいようがない。





 惑星全体がヒートアイランド現象を起こし、熱を持ち始めたのは数百年前。

 それをしのぐための冷房の排出熱が、更に追い打ちをかけた。



 暑さに耐えられる人種と、耐えられない人種。

 人間は2つに分かれ、耐えられない人種は次第に数を減らしていく。

 彼らは比較的寒冷な土地に、街が入る大きなシェルターを作り、そこに居住区を作り上げた。

 温度管理された『中』の人々と、たくましく生きる『外』の人々。

 世界はそう分類された。





 ゼフェルは『中』の人間だ。

 産まれも育ちも『中』の彼は、『外』を知らない。

 『中』には何でもあったし、必要であればネット通販で取り寄せれば済むことばかりだった。

 1度でいいから『外』を見たい。

 ずっとそう思ってきて、ようやく決心がついたのだ。

 抵抗力の弱い『中』の人間は、18を過ぎると途端に交感神経の働きが鈍る。

 そうなると、幾ら望んでももう『外』には出られない。

 暑さはとことん苦手だったが、だからゼフェルは『外』に出てきた。

「あっちー……何だこの暑さ…」

 それにしても、暑すぎる。

 ここまで暑いとは思ってもいなかった。

 涼しくなるであろう夕方を狙ってきたのに、気温は一向に下がらない。

 それどころか、歓楽街に入ると更に気温が上がったような気がした。

 人の熱気のせいだろうか。

 ゼフェルは目眩を起こして、道端にへたりこんだ。

 しかしコンクリートに近くなると、一層熱くなる。

(気持ちわりぃ…)

 吐き気までしてきて、とにかくどこか室内に入ろうと、無理矢理に体を起こそうとした時。

「おい、大丈夫か?」

 低い声が頭上でして、手が差し伸べられた。

 割れそうな頭をかろうじて上げると、真っ赤な髪が瞳に映る。

 その熱そうな色に顔を背けそうになったが、次に目に入ったものに、ゼフェルは引きつけられた。

 アイスブルーの、透明で涼しげな瞳。

(氷が入ったミネラルウォーター、飲みてぇ…)

 そんなことを考えながら、彼に手を伸ばそうとしたところで、ゼフェルは意識を失った。







2章



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