+  Heat Island 〜3章 +




 国道に沿った『中』行き専用のシャトルに乗り込む。

 本数は多いものの、行き来する人はそれほど多くない。

 冷房が効いているはずなのに何故か息苦しくて、ゼフェルはずっと俯いていた。

 閑散とした車内は北へ走り、都会を抜け、3時間ほどで岩ばかりが続く土地へ入った。

 もうすっかり日が暮れ、窓の外は真っ暗だ。

 巨大な『中』のドームが見えてきて、ゼフェルはようやくホッと息をついた。





 ゼフェルの暮らすコミュニティは、10代ばかりが集まるマンションタイプのビルだ。

 『中』の人間は寿命が短い。

 家庭を持てばそれぞれ独立していくが、保護者がいない者、いても1人立ちしたい者はここに集まった。

 ゼフェルは後者で、親は一戸建てタイプのコミュニティに住んでいる。

 見知った仲間も多いし、干渉されない暮らしの方がゼフェルに合っていた。

 吹き抜けになっているエントランスを入ると、ここに住む友人のセイランとはち合わせた。

「珍しいね。朝帰りじゃないなんて」

 皮肉っぽい笑みを浮かべて、セイランが話しかける。

 彼がそう言うのももっともで、『中』の繁華街で遊ぶ分には、その日のうちに帰宅したりなどしない。

「…『外』、行ってきた」

「そう」

「そう、って…それしかねーのかよ」

「君がどこで何を感じようと、僕には関係ないからね。…まんざらでもなかったみたいだし」

 まさか、と言いかけてゼフェルは口をつぐんだ。

 あの暑さや湿度には閉口したが、「まんざらでもない」出会いがあったからだ。

「まーな」

 それだけ言うと、セイランはゼフェルの頬に触れた。

「まだ熱いな…。早く体冷やした方がいいと思うけど」

「ああ」

 セイランの指は、ひんやりとして気持ちいい。

 

 オスカーの温度とは、正反対だ。



 不意に彼のことを思いだし、ゼフェルは顔を赤くした。

「ゼフェル?」

 不思議そうに見下ろすセイランの指を、ゼフェルはさりげなく外した。

「何でもねぇ。……まだ、熱気が抜けきらねーだけだ」

「そう」

 セイランはまた同じ言葉で返答すると、今度はゼフェルの頭を撫でた。

「何だよ?」

「別に」

 芸術家肌で他人との接触を嫌うセイランが、どうして自分に構うのか、ゼフェルには解らない。

 他の友人達とは一歩踏み込んだ話もできるが、オスカーのことを話そうとは思えなかった。





 エレベーターの所でセイランと別れ、ゼフェルは自分の部屋へ帰ってきた。

 冷えすぎるほどに冷えた室温が、火照った体をすぐに冷やしていく。

 ほとんど冷水のシャワーを浴びて、ゼフェルは裸のままベッドに倒れ込んだ。

 電子温度計は15度を示している。

 この気温だったら、オスカーは長袖どころかセーターだな、などと考えた自分に気づいて、ゼフェルは苦笑した。

 1度会ったきりの男のことを、どうしてこんなに思い出すのだろう。

 目を閉じて、眠ろうとしてみる。

 しかし視界が遮られれば、余計にあの赤い髪とアイスブルーの瞳がまざまざと思い起こされた。

 もっと話したかった。

 もっと、彼の空気を感じたかった。

 こんな冷え切った空気の中ではなく、息苦しい温度の中で。

 ゼフェルは起きあがると、クーラーのスイッチをオフにした。

 機械音が止み、部屋は本当の沈黙が訪れる。

 徐々に上がっていく気温の中で、ゼフェルは再びベッドに横になると目を閉じた。

 気温が上がれば上がるほど、あのアイスブルーの目が活きる。

 優しく包んで冷やしてくれる。

 クーラーが「気温上昇」と警戒音を鳴らしても、ゼフェルはそのまま横たわっていた。

 どうせ『中』にいる限り、あの暑さに包まれることは無理なのだ。

 とうとう、クーラーが自動的に動き出した。

 たいして気温は上がっていないくせに、ゼフェルの体はまた熱くなっている。

 

 もう一度会いたい。



 ゼフェルは確かにそう思っていた。









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