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恋占い
『想ヒ人 現ハル』
「あぁ?何だよ、これ」
思わず声が出た。
暇つぶしでやってみた、インターネットの「今日の占い」。
そしたら、こんな結果が出やがった。
何が「想い人」だ。
だいたい、この聖地でそんなヤツに逢えるわけねーっつーの。
無理矢理こんなとこ連れて来られて、よーやく1ヶ月経ったけど、そんなヤツいねーって。
「あー、つまんねー」
こんなとこじゃ、出会いもねーだろ。
だとしたら。
下界に遊びに行くのみだ。
バカみてーにでかい私邸を抜け出して、下界へと繋がる門に足をかける。
「新入りの坊や、何してるんだ?」
「!!」
後ろから声かけられて振り向くと、そこには守護聖の1人が立ってた。
確か、炎の守護聖ってやつだ。
「なっ、何なんだよ、あんた!」
「何って、炎の守護聖、オスカーだ」
「そんなこと知ってるっての!」
「じゃあ聞くな。…坊や、下界に遊びに行くつもりか?」
「…そのつもりだったけど、止めた。どーせアンタに見つかっちゃ、行けねーだろ」
「一緒に行くか?」
耳を疑った。
「………え?」
「だいたい、こんな見つかりやすい所から下界に出るもんじゃないぜ、坊や。俺が教えてやる」
「坊やって呼ぶな!」
「何だ、名前で呼んで欲しいのか?」
アイスブルーの瞳が細くなって、軽く笑われる。
ムカつく。
………かっこいーのは認めるけど。
「来い、ゼフェル」
「え?」
「名前で呼んで欲しいんだろう?」
余裕ありげに笑うのが、またムカつく。
何か逆らえなくて、オレはコイツの後をついていった。
下界で連れた行かれた店は、落ち着いた雰囲気のバーだった。
「…いつもこんなとこ来てんのかよ?」
「いや。今日はお子様連れだからな。いつもは美しい女性のいる店に出向くんだが」
コイツ、さっきからずっと、オレのことを子供扱いしやがる。
酒も飲ませてくんねーし。
「子供じゃねーよ」
「子供だ」
「子供じゃねー!」
「そうか?」
顔がずいっと近付いてきて、思わず動けなくなった。
その目は反則だろ!!
…ちくしょー…
「ほら、俺に見つめられて赤くなるようじゃ、まだまだだ。これくら余裕でかわせるようにならないとな。」
「い、いきなりどアップで来んな!!それにっ!赤くなんてなってねえっ!」
「わかったから、そんなに噛みつくな」
ちくしょー、ムカつくムカつくムカつく!!
「あ、おい、ゼフェル!?」
オスカーが持ってるグラスをかっぱらって、一気のみした。
……頭がクラクラする……
『待チ人 来タル』
「……だから、誰のことだっての」
2日酔いで頭が割れそーに痛い。
気が付いたら、私邸のベッドで寝てた。
多分、オスカーが運んでくれたんだろーけど…
いや、多分も何もアイツ以外にいねーんだけど…
「はー…」
自己嫌悪でため息が出る。
弱みってわけじゃねーけど、聖地の人間、しかも守護聖の1人に醜態を晒したわけだ。
「…さいあく…」
病欠ってことにして、今日はベッドで1日中過ごすことにした。
寝転がってぼーっとしてると、昨日のことを思い出してしまう。
昨日のこと、っつーか……
アイツのこと。
「変なヤツ…」
守護聖のくせに、一緒にいると気が楽になった。
ジュリアスの犬かと思ってたけど、そーじゃなかった。
てゆーか、けっこー遊び人かも。
………
何でオレが、アイツのことばっかり考えなきゃなんねーんだよ!!
あ、またムカついてきた。
頭から毛布をかぶると、ドアをノックする音。
「開いてるぜ」
どーせ使用人とやらが、何か食べるものでも持って来たんだろ。
追い返すとうるせーから、好きにさせとくことにした。
「入るぜ、坊や」
「げっ…」
その声は。
そーっと毛布から顔を出すと、やっぱり。
炎の守護聖だった。
「執務室にいないと思ったら、病欠だって?聖地には病気はないのにって、マルセルたちが心配してたぜ」
「うるせー!」
「2日酔いも、それだけ怒鳴れりゃ大丈夫だな。まったく、子供のくせに無茶をするからだ」
「子供扱いすんなっつってんだろ!!」
起きあがって叫ぶと、髪の毛をぐりぐりとかき回された。
「だったら、あれくらいの酒で酔わないようにするんだな」
「う…」
「ジュリアス様が、心配して様子を見にいらっしゃるところだったんだぞ」
「げ、マジ?」
「そんな言い方をするな。お前はまだ、聖地に来て日が浅いからな。あの方も心配してらっしゃるんだ」
「誰も心配しろなんて頼んでねーよ」
「ゼフェル!」
頭を思いっきり殴られた。
しかもグーで。信じらんねえ!
「いってぇ…、何しやがんだよ!!」
「心配をかけるなとは言わない。だが、心配してくれる人をないがしろにするな」
怒鳴り声じゃないから、余計に怒ってる感じがした。
「……わりぃ」
「何だ、ちゃんと謝れるじゃないか。ジュリアス様やルヴァにもそうしろ」
「できねーよ!」
あれ?じゃ、何でコイツには素直に謝れたんだ?
「仕方ないな、まったく…。そこが坊やの可愛いとこなんだが」
「可愛いだぁ?」
気持ちわりーこと言ってんじゃねーよ、おっさん。
「ああ。昨日の寝顔を見せられちゃ、可愛い以外の言葉は出ないな」
「……!!」
そうだ、そうだったんだ。
やっぱりコイツ、ムカつく!!
「そう怖い顔をするなよ。ジュリアス様にはうまく言っておいてやるから。じゃあな」
「とっとと帰れ!!」
投げた枕はオスカーに当たらなくて、一瞬早く閉まったドアに当たって落ちた。
「ったく、何なんだよ、アイツ」
でも…
オレの様子、見に来てくれたんだ。
…何だ、案外いーヤツじゃん。
『失セ物 見ツカル』
「…何かオレ、無くしたっけ?」
思い当たる物はない。
そもそもこの占い、全然当たってねーし。
起きてすぐにチェックするのが日課になっちまったけど。
「さて、どーっすかな」
今日は日の曜日。
気兼ねなくだらだらできる日だ。
外に出ると、やたら天気がいい。
庭園に行くと騒がしそーだし、真っ直ぐに森の湖へ向かった。
木陰を探して、寝っころがる。
うんと伸びをして、深呼吸。
あまり気持ちよくて、眠気が襲ってくる。
今日は面倒な執務もねーし、ここで寝てもいーよな…
目を閉じて、ウトウトしかけた時。
急に、頭の上が翳った気がして、目を開けた。
「うわっ!」
覗き込んでるのは、アイスブルーの瞳。
……またコイツかよ……
「こんな所で寝たら風邪引くぞ」
「何してんだよ!!」
「遠乗りの帰りにここを通っただけだ」
オスカーの後ろには、真っ白な馬がいる。
「じゃあ、素通りしろよ」
「勝手に起きたのはお前だろう」
「だからって、人の顔ジロジロ見んな!」
「可憐なお嬢ちゃんを期待していたんだがな。眠れる姫君がゼフェルで、がっかりしていたところだ」
「バカじゃねーの!?」
勝手にがっかりしてやがれってんだ。
「そう怒るなよ。…どうだ、暇ならアグネシカに乗ってみないか?」
「え…オレが?」
「馬に乗るのは怖いか?」
「!怖くなんかねーよ!!」
あーあ。挑発にのっちまった。
してやったりって顔で笑うアイツの顔は、やっぱりムカつく。
馬は…嫌いじゃねーけど。
乗ったことねーんだよなー。
かといって、コイツに聞くのも何だかって感じだし。
「ほら、ゼフェル」
一足先に馬に跨ったオスカーに、腕を掴まれた。
「わっ」
あっという間に引っ張り上げられる。
あー!この体格の良さもムカつくぜ!
「いい眺めだろう?」
オスカーの声が、やけに近く聞こえる。
…心臓の音も、聞こえそーなくらいに近い。
周囲を見回すと、見たこともない景色が広がっていた。
エアバイクとはまた違う高さだ。
「わ…」
「景色が違って見えるか?」
「ああ。オレ、馬って初めてだけど、けっこーいいもんだな」
「…やっと笑ったな」
「え?」
オレ、笑ってたか?
「聖地に来てから、未だに笑った顔を見たことがなかったからな」
「……そーだっけ……?」
「何だ、自分で気付いてなかったのか?そんなに綺麗な顔してるんだから、もったいないぜ」
綺麗!?
誰がだ、誰が!!
反論しようとして出来なかったのは、コイツが馬の腹を蹴っ飛ばしたからだ。
舌を噛みそーになって、口を閉じるしかなかった。
相変わらずムカつくけど…でも、コイツなりに心配してくれてたんだ。
そー思ったら、別に反論なんてどーでもよくなってた。
少なくとも、コイツの前では笑うことができる。
…まあ、たまには笑ってやってもいーかな。
『恋愛成就』
「…は?」
久々に見たら、わけわかんねー。
だいたい、オレが誰のこと好きだって?
……自問自答してみて、浮かんできたのはオスカーの顔だった。
「ジョーダンだろ…」
だって、オレは男で。アイツも男で。
そりゃ、一緒にいりゃ楽しーし。
…ドキドキするし。
でもそれは!アイツがちょっと背が高くて、かっこいーからだ!
だいたいアイツ、女好きって噂だし。
子供扱いされてるし……
何か、惨めになってきた。
「ゼフェル、何やってるんだ?」
「あ…」
部屋の入り口に、オスカーがいた。
タイミングよすぎなんだよ。
「悲壮な顔してるぞ」
「別に…何でもねー」
「ジュリアス様に怒られたか?」
「何もしてねーよ。つーか、それくらいじゃ落ち込まねーっての」
「それもそうか。…『恋愛成就』?」
「!人のパソコン、勝手に見んじゃねーよ!!」
慌ててウィンドウを閉じた。
「その占い、当たってるのか?」
「……まあな」
だから最近、やらなかった。
『想い人』も『待ち人』も、考えてみたらオスカーのことだったから。
それ以外に思いつかなかったから。
「そうか。…うまくいくといいな」
いかねーよ。
今のところ、思い当たるのアンタしかいねーんだから。
「ゼフェル?」
「…もし、もしさぁ…うまくいかなかったら、どーする?」
「その時は、俺のところに来い。慰めてやる」
「……どーやって?」
「どうやってって…」
「もし、おめーに失恋したら、どーすんだよ!」
めちゃくちゃだ。
きっとコイツも呆れてる。
「占い、当たってるな」
?
「身を引いちまうところだった」
??
何言ってんだか、さっぱりわかんねー。
ただ、オスカーに抱きしめられたことだけはわかる。
「好きだぜ、ゼフェル」
嘘だろ…
嬉しーってゆーよりも、信じられねーって方が大きくて、頭がパニクる。
「俺が相手だって、自惚れてもいいんだろ?」
「他に誰がいんだよ!」
この期に及んで、何言ってやがる、コイツ。
おかげでオレまで恥ずかしーこと言っちまったじゃねーか!
どんな顔していーかわかんなくて、とりあえずオスカーの胸に押し付けた。
そんなことでコイツが喜んでるなんて、その時は知りもしなかったけど。
浮かれてて、しばらく占いすんの忘れてた。
久々に行ってみたら、「サーバーエラー」が出てる。
知らない間に、サイトが閉鎖しちまったらしい。
「…ま、いーよな」
占いよりも、今のオレにはオスカーを信じる方が大事ってこと、ちゃーんと解ってるからな。
END
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