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〜1章〜 翼をもがれた小鳥。 それがゼフェルの第一印象だった。 第一印象、というのは語弊がある。正確な第一印象は、2年前、まだ隣国との仲が悪化していなかった頃(少なくとも表面上では)、使いに出た隣国の城内で見かけた時だ。 あの時の彼は、第1王位継承者であるにも関わらず、元気で幸せそうに飛び回っていた。 銀の髪に、日に灼けた肌が印象的で、それがしっかりとオスカーの目に焼き付いている。 しかし今、人質として連れてこられたゼフェルは、精気の欠片もなかった。 無理もない、とオスカーは思う。 これ以上、両国の仲を悪化させないための、彼は人質。 何年、もしかしたら一生をこの見知らぬ国の一室で過ごさねばならないのだ。 「オスカー、連れていってやれ」 ジュリアスの澄んだ声で、オスカーは我に返った。 「はっ。…では」 オスカーの指し示すままに、ゼフェルが歩き出す。オスカーはその半歩前を歩いて、ゼフェルのために用意された部屋へと案内していった。 「奴隷」ではなく、あくまでも客人扱いのため、ゼフェルに与えられた部屋の調度は高級な物ばかりだ。 しかしその窓には全て鉄格子がはめられ、部屋は塔の最上階。 「……囚われの姫ってところだな」 思わず口にしたオスカーを、ゼフェルがキッと睨み付けた。 「誰が姫だってんだよ!!」 「おっと、そう怒るなよ」 ゼフェルはツンと唇を尖らせている。 この国に来て初めて見せる「表情」に、オスカーは何だか嬉しくなった。 「姫は怒ったお顔も可愛らしい」 調子に乗って言うと、ゲンコツが飛んできた。 「暴れん坊な姫だな」 拳をひょいと避けられてゼフェルは大きくため息をついた。 「ったく、調子狂うぜ……だいたいアンタ、何なんだよ?えらそーに」 「おや、近衛隊長のオスカーの名前はご存知ない?」 「近衛隊長の、オスカー?……知ってる。確か、「王に一番近い男」って呼ばれてる……」 「だから、この国で姫と対等な口がきけるのは、ジュリアス様以外では俺だけなんだぜ?」 大貴族の父と、皇族出身の母。 そして近衛隊長という高い位。 大抵のものは手に入れられるオスカーにとって、この翼のない小鳥が隣国の王子だろうと関係なかった。 護衛という任務とは別に、声をかけたいからかけた、ただそれだけのことだ。 しかしゼフェルは、それをあっさりと跳ね返した。 「だから何だってんだよ。タメ口ききたきゃ、そーすれば?」 「そうか。じゃ、遠慮なくそうさせてもらうぜ、姫」 「だから姫って呼ぶなっつってんだろ」 ゼフェルは窓際にあるベッドにボスンと腰掛けた。スプリングのよくきいたベッドがゼフェルの体を柔らかく揺らして、風景をぶれさせる。 窓には格子がはまっていて、縞模様の空しか覗けないのだが、それがゼフェルに見ることのできる風景の全てだ。 翼をもがれた少年を嘲笑うかのように、遠くで鷹が旋回していた。 |