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〜2章〜 何事もなく、日々は過ぎ去っていた。 穏やかといえば穏やかな毎日。 しかし監禁されているゼフェルにとっては、さぞ退屈な毎日だろうとオスカーは思う。外をぼんやりと眺めることしか許されない窮屈な日々は、きっと自分だったら耐えられない。それでもこの少年は、耐えるしかないのだ。いつ終わるとも判らぬ拘束の毎日に。 だからという訳ではなかったが、オスカーは毎日のようにゼフェルの部屋へと通っていた。 今日も、別段何をするわけでもなく、椅子に腰掛けてゼフェルにとりとめのない話をしている。ゼフェルはそれをいつものようにベッドに寝そべりながら、たまに相槌を打ってやっていた。 「なあ」 「何だ?姫」 ゼフェルから話しかけることは滅多にないから、オスカーは機嫌よく応えた。 「だから姫じゃねーって、何度言やー解るんだよ、おめーは」 大げさにため息をついて、ゼフェルが向き直る。 最初の頃は、それこそ「姫」なんて呼び続けようものなら、容赦なく平手打ちが飛んできたものだったが、今では怒る気力すら無くしてしまったらしい。 「おめーさー……よっぽど暇なんだな」 「そんな風に見えるか?」 「ああ、すっげー暇そー。……だいたいさぁ、どーしてオレの話し相手なんかしてるわけ?」 その質問ももっともなことだ。 本当にどうしてだろうな、と心の中で呟いて、オスカーは自嘲気味に笑う。 ただ、妙に気になって仕方ないのだ。この跳ねっ返りのじゃじゃ馬が。 きつい眼差しと、しなやかに伸びる手足。 自由に空を飛ばせてやりたいとも思うし、逆に、ずっとここに閉じ込めておきたいとも思う。 ようやく自分を引っ掻かない程度になった仔猫を、懐かせてみたいのだ。そう、せめて、自分の手から直接食べ物を口にするくらいまで。 答えないオスカーに苛立って、ゼフェルは唇を尖らせた。 「この国の軍隊ってのは、そんなに暇なのかよ?」 戦争になったら絶対に自分の国が勝つとでも言いたげな口振りだ。それを察して、オスカーは笑った。 「戦争なんて起こらないから安心していいぜ。…まあ、だからといって訓練の手抜きをしているわけじゃないんだがな」 「どーだか」 「俺がここに来るのは迷惑か?」 「……別に、んなこと言ってねーよ」 ぷいと横を向いて視線を外す素振りは、照れているから。 彼の些細な表情も、オスカーには興味深い。 決して素直とはいえないこの少年の表情は、だからこそずっと見ていたかった。 「話し相手がいるのも悪くないだろう?」 「………まぁな。……そーゆーことにしといてやるよ」 膝を抱え込んだゼフェルの表情はよく判らなかったが、オスカーの唇の端にはまた微笑が浮かぶ。何故だか、ゼフェルを見ていると自然に笑みが零れる。そうやって穏やかで暖かい気持ちになるから、また彼を見つめてしまうのだ。 「……なあ」 「何だ?姫」 「………。手紙って、書いちゃダメなのか?」 その質問に、オスカーは口ごもった。 客人扱いとはいえ、あくまでも人質は人質である。手紙の受け渡しなど、許されるはずもない。 「その様子じゃ、やっぱダメか。ま、解ってたけどよ」 「すまない」 「?どーしておめーが謝んだよ?…とーぜんだろ、こっちは人質なんだからさ」 「それはそうなんだが……」 「おめーだって、よーするにオレの監視でここに来てんだろ?」 「違う!」 オスカーの即答に、ゼフェルは驚いて目を見開いた。 監視などではない。 オスカーにははっきりと解っていた。彼に会いたいから来ているのだ。 監視などという義務的なものではなく、自分の意志で、彼に会うために長い螺旋階段を上って来ているのだ。 オスカーは無言で立ち上がると、ゼフェルの腕を掴んだ。 「っ!何すんだよ!」 「いいから大人しくしてろ」 低い声に、ゼフェルの抵抗が止んだ一瞬に、有無を言わさず自分のマントを頭から被せてしまった。 「うわっ、何なんだよ!」 そしてそのまま、両腕に抱き上げる。 「下ろせよ!!」 「大人しくしてろって言ったろ?……大丈夫、お前を傷つけはしない」 少しは安心したのか、それとも諦めたのか、ともかく大人しくなったゼフェルを抱きかかえたまま、オスカーは螺旋階段に通じる扉を開けた。 |