再 生
主星から遠く離れた辺境の惑星で、ゼフェルは立ち尽くしていた。
一面に広がる焼け野原に、連なる死体。
まだ強く残る火薬の匂いに混じり、腐臭が漂う。
この星に生きているものはない。
人も動物も、植物さえも、すべて死んでしまった。
星の寿命はまだあったはずだ。
それなのに、戦争が全てを終わらせた。
勝者も敗者もここにはいない。
ただ延焼し、腐った大地が残るだけだ。
いたたまれない。
こんな情景を見るために、自分は守護聖になったのではない。
目を背けると、隣に立っていた炎の守護聖が静かな口調で言った。
「目を逸らすな」
抑え気味な、けれどその中に何らかの感情を押し殺しているのだということは、ゼフェルにも理解できた。
「こんなの、見たくねえ」
「この星の最期だ、よく見ておけ。…俺達のサクリアが、暴走した結末だ」
「オレ達のせいかよ!?オレは何もしてねえ!鋼の力だって、この星から引き上げた!!
勝手に力を望んで、暴走させたのはこの星の人間だ!!自業自得だろうがよ!?」
叫びながらオスカーを見上げると、彼は静かな目でじっと焼け野原を見つめながら、そしてゆっくりと口を開いた。
「…自業自得…確かにな。俺もお前も、サクリアを最大限まで引き上げた。それでも戦争は止まらなかった。
結局、人間が心の奥に持っている力には敵わないってことだ。
鋼と炎の力が増幅するのを、誰にも止めることはできなかった。
……だからこそ、よく見ておけ。自分が司る力の顛末をな」
一語一語噛みしめるように、自分に言い聞かせるように、彼は語る。
怒りと悲しみ。やるせなさ、憤り。
アイスブルーの瞳の静謐さとは裏腹に、様々な感情がそこから流れ出す。
「…なぁ、じゃあ、オレ達は何のために存在するんだよ?
なりたくもねー守護聖にさせられて、何ができるってんだよ!?」
星一つ救えない自分。
崇め奉られても、サクリアすら自在に操れない守護聖。
結局は人間の心に支配されるというのなら、自分たちの存在意義は何だろう?
「さあな」
「さあなって…」
「答えられないものは答えられん。それを理解するために、俺は守護聖として存在しているのかもな」
正面を見据えるオスカーの視線を追うように、ゼフェルは焦げた大地を見つめた。
底知れない人間の欲望や、未知数の自分のサクリアに恐怖すら覚える。
それらを正視することはやはり苦痛でしかなくて、また顔を逸らしたが、オスカーは今度は止めなかった。
頭を抱えるように腕を回されたかと思うと、大きい手の平が瞼を覆った。
「もういい。もう充分だ」
「…何だよ、見ろっつったり、見るなっつったり…」
視界は閉ざされたというのに、何故だかこの男の手はやけに安心する。
「事実を受け止めるだけでいい。泣くほど受け止めたなら、それでいい」
「泣いてねー」
嘘をついても無駄だということは分かっている。
自分の頬もオスカーの手も濡れている。
「そうか。泣いてないか」
オスカーはそう言ったが、手を外そうとはしなかった。
多分、泣きやむまでこうしていてくれるつもりなのだろう。
「・・・・・おめーが炎の守護聖で、よかった」
呟いた声は、彼の耳に届いただろうか。
聞こえていても聞こえていなくても、どちらでもいい。
今ここで、こうして隣にいてくれるのがオスカーでよかったと、心底思う。
脆い自分を支えてくれる炎の守護聖が、彼でよかった。
「なあ、ゼフェル。この星はまだ本当に死んじゃいない。
リュミエールやカティスの力を借りれば、きっと生き返る。
…そうしたら、また一緒に俺達の力を送ろう」
一緒に。
この言葉が、じんわりとゼフェルの心に染みる。
大丈夫。オスカーがいれば大丈夫。
心の中で繰り返し、オスカーの言葉を転がす。
「今度ここに来るときは、この星の寿命が尽きる時だ」
そんな確信なんてないのに、オスカーの言葉は力強い。
きっと一人だったら、もう一度この星を発展させることに躊躇していただろう。
でも、大丈夫。
オスカーがいれば。
ゼフェルは深呼吸してオスカーの手をそっと外すと、涙も拭わずに焼け野原を見据えた。
あとがき
このご時世にこんなネタなんて不謹慎ですが、
私は別にこの話で戦争反対とか平和云々を書きたかったわけではありません。
って、はっきり言ってしまう方が不謹慎ですか(爆)
ある歌の「目をそらさないで」という歌詞を聞いた時、ふっと思い浮かんだ話です。
炎と鋼のサクリアって、性質が似ていると思うんですよ。
諸刃の剣というか、使いようによってはものすごく怖いものになるところが。
実際、それでコミックのゼフェルも悩んでますしね。
使いようによっては、というと、闇や水の力も似たようなものかもしれないですけど
根底にある危うさは、炎・鋼が一番だと思うです。
タイトルの「再生」は、星ももちろんあるけど、ゼフェル自身も。
守護聖として、心構えが変わった意味での再生。
だけどうちのゼフェルは、オスカーがいるから守護聖やってるみたいなもんです。
守護聖としての自覚が芽生えたって、「コイツと一緒だから」って気持ちがきっとあります。
もちろん、仕事としてやることはやりますけど。
オスカーの存在って、それくらいゼフェルには大きくあってほしい。(希望?/笑)
あ、タイトルは最初、「手と涙」でした。
「目をそらさないで」の歌詞といい、「手と涙」のタイトルといい、もう誰の曲だか分かった人もいるかも〜(^^;
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