青 の 記 憶


【 序 】



 心臓の音が、耳の奥で溢れそうにうるさかった。
 一瞬にして思い出す。
 すべてを。余すところ無く。
 笑顔、笑い声、叫び、泣き顔。自分に掛けられた言葉の数々、優しさや戸惑い、それに畏怖心と漠然とした恐怖。
 左手に構えた銃が震える手からこぼれて、白いリノリウムの床にカツンと長い音を響かせて落ちる。
 体中が震えていた。震えを止めることが出来ない。
 それ以上前方を直視出来ず、必死で後ろへと駆けた。
 廊下に響き渡る足音が、後を追ってくるように思えた。それは確かに、自分の足音だったはずなのに。足元から遠くまで響く、無機質な足音。それさえも恐ろしかった。
 必死で逃げる。それでも、逃げ切れないという焦燥に襲われる。どうしようもない。恐い。
 ドアを体当たりで押し開けて青空を視界に認める。
 雑草の生えた茶色の土。遥か遠くに天辺を見せる山の、裾にまで絡みつくゆるりとした薄い雲。
 涙が出そうだった。
 いや、もしかすると、本当に泣いていただろうか。
 そこで止まる余裕などない。
 足が縺れても、構わずに走らなければならない。
 ここから逃げなければ。
 あのフェンスを越えれば。
 僕は。
 外へ。
 もうすぐ逃げられ――

 ピ シ   ッ     。

 頭の後ろで、なにか破裂音がしたように感じた。次の瞬間、突然、世界が止まった。空気が凍ったと思った。
 なにが起こったのか解らない。
 ふらりと視界が回って、もう自分の足で立っていることも出来ない。
 フェードアウトしていく目に映る世界に、細い足首がゆったりと歩み寄ってくるのが、かすかに感じられては、消え。



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