三国志の兵法
反間の計
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反間(はんかん)の計
敵の間を離間させる
「反間の計」とは、ニセの情報を流して敵を離間したり、敵の判断をまどわしたりする策略である。情報を流す場合、敵の諜報員を利用するのがもっとも効果的だとされる。『孫子』によれば敵の諜報員を利用するやり方にはつぎの2つの方法があるという。
1、敵の諜報員を買収して、ニセの情報を流させる。
2、わざと気づかないふりをしてニセの情報をつかませる。
こういう形で敵の諜報員を利用するのが、もっとも古典的な「反間の計」である。
また諜報員を使った間諜の種類としては
1、郷間ーー敵国の住民を使って情報をとる。
2、内間ーー敵国の役人を使って情報をとる。
3、反間ーー敵の間諜手なずけ、こちらの間諜とする。
4、死間ーー死を覚悟で敵国に潜入する。
5、生間ーー敵国から生還し、報告をもたらす。
の5種類があるがこの中でも反間の計が36計の中に入れられるのは、5種の中でも最も奥が深く運用が難しいからに他ならない。敵を謀るものは、また謀られやすくもあるのである。
劉邦の参謀陳平の「反間の計」
一番古典的で有名な「反間の計」は劉邦の参謀陳平の使った「反間の計」ではないだろうか。
劉邦の軍が項羽の大軍に包囲されて、大苦戦におちいったときのことである。参謀の陳平が劉邦に進言した。「項羽に従っている剛直の士は、謀臣范増以下数人の武将にすぎません。そこでこのさい、黄金数千枚を用意し、諜報員を放って相手の君臣関係をバラバラにし、互いに疑心を生じさせるのです。感情的で中傷に載りやすい項羽の事、必ず内訌がおこります。それに乗じて攻めれば、必ず破ることができましょう。」劉邦はよしと言って、さっそく黄金数万金を用意して陳平に渡した。「これを使ってくれ。いちいち明細を報告する必要はない。」陳平はこの金をふんだんにばらまき、項羽の軍内に諜報員を送り込んでこんな噂を広めさせた。
「項羽の部将連中は、大変な功績を立ててきた。ところが、それに見合うだけの封地をあたえられないものだから、項羽を見限って劉邦に内応しようとしている。」
はたして項羽はこの噂にまどわされて部将連中に対する疑惑を深めた。折から項羽は、劉邦のもとに使者を送ってきた。陳平は、使者の為に豪華な宴席を設け、王たる者に供される鼎まで用意させた。そうしておいて、いざ使者の顔を見ると、さも驚いたように
「なんだ、范増殿の使者かと思ったのに、項羽殿の使者か」
こう言って、用意した料理をすぐ運び去らせ、あらためて粗末な料理を持ってこさせた。項羽の使者は帰陣するや、このありさまをくわしく報告した。これで項羽はにわかに范増を疑いだし、范増がどんな策を進言しても、もはやとりあげようとしなくなった。
怒った范増は、項羽に見切りをつけて故郷に引き上げてしまった。こうして陳平の「反間の計」にはまった項羽は、じわじわ劣勢に追い込まれていったのである。
人間の心理を衝いた最大の計略
”反間の計”は別名”離間の計”ともいい、「三国志演義」には実に多くの例が登場する。はじめのほうでは、董卓の部将で、董卓の死後、勢力を2分するほどの力をもった李イ寉と郭シが、朝廷の大尉・楊彪(ようひょう)にこの策を用いられて、仲間割れさせられているし、名軍師の賈クが馬超と韓遂を仲違いさせたのも、感情の行き違いを利用した策謀であった。
「汚いやり方ではないか」と思うのは当らない。三国志(戦国)の世界が生き残りを賭けての戦いを肯定している以上は、はめられた側が、いたらなかったというべきなのだ。
諸葛孔明もこの策謀を用いている。
越すい郡の太守・高定は、蛮王孟獲と組んだ建寧の太守・雍ガイの反乱軍に城を明け渡してしまう。その上、高定は、反乱軍とともに、永昌郡を攻略しようとするが、このおり、配下の鄂煥(身長9尺で方天戟を使う)が蜀軍の魏延に捕らえられた。孔明は鄂煥を釈放し、帰ってから高定に恭順を説かせるように仕向けた。
そのことが雍ガイの疑いを招いた。さらに孔明は”反間の計”を用いて、雍ガイに殺害されるのを恐れる高定を利用し、逆に、雍ガイをおびき出して殺させる。
それでも孔明は、わざと疑うふりをして、次には、同じ反乱軍仲間の牂牁郡(そうかぐん)の太守・朱褒(しゅほう)をも高定に殺害させ、その功によって高定を益州の太守、牙門将に任じた。
ほかにも、馬謖 によって仕掛けられた、”反間の計”によって、曹叡と司馬仲達の仲が裂かれたり、他の”計”として挙げられたものの中にも、原理的にはこの”反間の計”と同じものは少なくない。
人間同士の関係において、最も有効な戦術といえば、この”反間の計”だろう。
人間、疑心暗鬼、心に鬼をすまわせると冷静な判断ができなくなる。しかしこの計は使う人間の器量によっては、自らの足元をすくわれる危険性も少なくはないので、計を仕掛ける相手の器量を見極める事がこの計の成否の鍵といえそうである。