前作「旋風編」が主水シリーズとしては最短の14話で終わったことを受け、前作の世界観を受け継ぎながらも、前作の反省を活かしたマイナーチェンジを行う形で制作が開始された、シリーズ第28弾。
前作の総合的な失敗を受けて新たに制作された本作では、従来の新作のように様々な新趣向を盛り込むということは行われず、主として様々な登場人物のキャラクターを丹念に描くと言う、丁寧なドラマ作りが目指された。黄金期に匹敵するような高密度のドラマとは言えないものの、各話ごとの被害者や加害者のみならず、既にキャラクターが完成している主水や政と言ったレギュラーキャラについても、改めてその人間像を掘り下げることで、既存キャラの新たな一面や魅力を浮き彫りにすることに貢献している。
しかしそれ以上にファンの話題をさらったのは、新たに登場した仕事人・かげろうの影太郎の存在である。一見のんびりとしていて人の良さそうな外見を持つが、鋭い洞察力を持ち、尚且つ仕事人としてはかなりの腕前を持っているという影太郎の設定は、素性が知れないというある種ミステリアスな雰囲気ともあいまって、歴代の仕置人達には見られなかった魅力を内包させることに成功、後期作品としては屈指の名キャラクターとしてファンに愛されることになる。さらにはその影太郎とお玉のプラトニックな恋愛関係もたびたび描かれ、作品世界に大人の雰囲気を醸し出すことにも成功していると言えるかもしれない。
さらに本作放送中には映画第4作「必殺4 恨みはらします。」が公開され、実に「必殺仕掛人」以来である深作欣二監督の登板、千葉真一、真田広之を始めとするジャパン・アクション・クラブ所属俳優達の大挙出演による迫力の大乱闘シーンは、劇場映画ならではの豪華さを誇っていた。さらには秀や順之助と言った歴代仕事人を登場させて以前からのファンを喜ばせるだけでなく、主水チームに初めて映画独自の編成を取らせ、テレビ本編に依存しない自由な作劇もファンからの好評を得た。
これら諸要素は必殺シリーズの新たな萌芽になるかとも思われたが、残念ながら15年もの長きに渡って放送されてきた必殺シリーズも、今作の放送中に終了することが決定。制作陣は本作を終了させ、この時点での最終作にして意欲作の「必殺剣劇人」を世に送り出すのである。
☆登場人物
中村主水(演・藤田まこと)
本作の主水は「旋風編」最終話での百軒長屋全焼の責任を負い、八幡橋の橋番にまで降格されてしまった。銀平と順之助の死後は裏稼業も休業状態であったものの、幕府の大物の奸計にかかって同業の仕事人から命を狙われるという危機的状況の中、政やお玉、そして新たな仲間である影太郎と共に裏稼業を再開することを決意する。
本作でも基本的に性格設定や殺し技に新たな面が加えられることはなかったものの、今回は主水の刀をずっと研ぎ続け、主水の裏稼業をそれとなく察している人物も登場、久々に仕事人・中村主水という人間が掘り下げられている。また怪物とも呼べる若き強敵・奥田右京亮との激戦においては、旗本愚連隊を向こうに円熟した剣技を披露した。
最終話では大奥での難関仕事を無事に終えるも、わずかに残ってしまった痕跡が下で仲間が手配される羽目になり、仲間を守るためにチームを解散、再び表の日常へと戻っていった。
鍛冶屋の政(演・村上弘明)
「旋風編」の最終話で銀平と順之助を失い、そのまま江戸に残留していたものの、裏稼業に手を出すことは控えていた。長年の仲間である主水が殺しの標的となったにも関わらず主水を仕置しようとするものの、その中で影太郎たちと会い、再び本格的に裏稼業を再開することになる。
今作の政は従来よりも直情的な部分がより前面に出るようになり、時として先走ろうとする場合もまま見られた。普段は鍛冶屋として生活しているが、客の注文に応じて様々なものを作成する技量も備えている。奥田右京亮との戦いでは丁髷姿や手ぬぐいを巻きつけた手槍などを披露、その頃から同年代の仕事人である秀との絆が深まっていったようである。
最終話ではチーム解散に伴って江戸を去るが、赤穂浪士の討ち入りに伴う仕置を行ったことも確認されており、さらに今回以降も幾度となく主水と共に仕事人として活動、横浜での戦いの後に足抜けするまで、長い戦歴を積み重ねていくことになる。1人の少女との淡い恋模様から始まる彼の最後の戦いについては、また別の物語で語られた。
かげろうの影太郎(演・三浦友和)
お玉と共に裏稼業を行っていた仕事人。旅先でお玉と知り合ったようで、お玉と共に往来で南京玉簾を用いた大道芸を披露、それによって得た日銭を糧としている。
パートナーであるお玉も詳しい素性は知らないものの、仕事人としての腕は確かで、先端に鋭利な刃を仕込んだ玉簾を用いて、敵の急所を一瞬でつく。玉簾は勘で勝手に動くとは本人の弁。
いたって穏やか、というよりものん気な性格でいささか世間知らずな面もあるが、基本的には知的で礼儀正しい。相手の心情を察する慧眼を持つが、同時に必要以上に相手の心に踏み入らないという節度もわきまえている。実はさる藩の大名の双子の弟であり、双子は縁起が悪いとの俗信のために捨て子同然に寺に預けられたことが心の傷になっているらしい。そのためか顔も知らぬ母への憧憬を抱くこともある。
最終話では大奥での仕事の際に玉簾の一部を残してしまったことから足がついてしまい、チーム解散の引き金を引いてしまう。お玉に対して相棒以上の感情を抱いていたようであるが、解散に伴ってお玉とも別れ1人旅立った。それからしばらく後の井伊大老暗殺事件の際に主水を援護したが、以後の消息はようとして知れない。
お玉(演・かとうかずこ)
「旋風編」でのチーム解散後は1人で旅に出ていたようだが、その旅先で影太郎と出会い、現在は影太郎の大道芸に合わせての三味線弾きを仕事にしている。以前と同じく情報収集が主な役目だが、影太郎の仕事の際にも目くらましのために標的の周囲に金粉をばら撒き、影太郎のサポートを努める。また奥田右京亮との戦いでは二丁拳銃を用いて主水を援護する活躍も見せた。
いつしか影太郎を男として意識するようになるが、仕事の際に残した金粉から素性が割れてしまい、チーム解散によって影太郎とも結局別れることになり、1人旅立って行った。
絵馬坊主の蝶丸(演・桂朝丸)
江戸の夜叉堂を根城にしている坊主。仕事人と依頼人との仲介業を努めており、赤絵馬に標的の名前を書かせることで仕置の依頼を引き受ける。
標的についての関連事項を紙芝居風に解説することからもわかるように、口の軽いお調子者的な性格。裏をよく確かめずに仕事を引き受けることもあり、主水もそのために仲間からいらぬ誤解を受けることになった。女好きでもあり、お玉やお仙にしょっちゅうちょっかいをかけていた。
最終話での解散騒動では、政や影太郎達よりも一足先に江戸を逃げ出してしまっていた。
お仙(演・小林千絵)
中途より登場した明朗快活な少女。素性はまったく知れないが、勝手に夜叉堂に住み着き、蝶丸と行動するようになる。色事についてはまったく無頓着なようで、女好きの蝶丸の前でも恥じらう様子は皆無だった。裏稼業についても一応知ってはいるものの、人を殺すということについて真剣に考えているのかどうかは疑わしい。
最終話では大仕事を前に弱腰の蝶丸に愛想を尽かし、そのままどこかへ去って行った。
筆頭同心・田中(演・山内としお)
今作においても基本的なスタンスは変わらず、もっぱら奉行所での主水のいびり役として活躍した。主水との絡みはもちろん、前作から登場の鬼塚とのコンビぶりも絶妙である。
与力・鬼塚(演・西田健)
田中の上司の与力。例によって怒鳴ることが多く、主水も大声で叱責されることが多かった。
小物・六平(演・妹尾友信)
主水の部下であったが、今回は主水の左遷に伴って奉行所を退職し、もぐら叩き屋を開業、往来で日銭を稼いでいる。しかし影太郎は視線を逸らしたままで全部命中させてしまっていた。
中村りつ、中村せん(演・白木万里、菅井きん)
相変わらず主水をいびったりヘソクリを見つけたり、江戸の流行に敏感に反応したりと、コメディ部分には欠かせない2人。主水の相次ぐ左遷に頭を痛めながらも日々たくましく生きている。