| ーーー縛られる程に愛されたいーーー 真っ暗な闇に独りで浮いているような感覚が、ゆっくりと現実味を帯びてくる。 まず、最初に聞こえて来るのは荒い息遣い。耳障りなそれが自分のものだと解るまで少々時間がかかる。 ゆっくりと目を開ければぼやけた視界に光が戻り、大抵は覗き込むようにして自分を見つめている相手の顔が見える。 「だいじょうぶ?」 今もそう。少し心配気な顔をしてゆっくりと髪を梳き、頬を撫でる。 「……平気だ」 返す声がみっともない程擦れている。 いったい自分は何をしているのだろう。 ようやくハンター試験に合格し、復讐への手掛かりを掴んだ。 斡旋屋でまだ試験が終わっていないと言われて、自分に足りない物を捜した。 念を覚えてもう1度斡旋屋へ行けば一族の瞳を欲しがる金持ちの家へ入り込めた。 一つづつではあるが確実に目標への階段を登り始めている。 結果はともかく、このまま行けばいずれ確実に奪われた瞳か幻影旅団へは辿り着ける。 けれど ハンター試験の間感じていた充足感さえ遠く、ただ珍しい宝石でもあるかのように死者の瞳を欲しがる相手に怒りと嫌悪 を覚え、けれどそれを感じさせないように取り繕い、笑っていられる自分を目の前の相手以上に嫌悪し、そんな手段でしか 目標へ近づけない自分の無力さに憤りを感じる。 そんな時にヒソかに出会った。 名前を呼ばれて立ち止まってしまった。 誰でも良かったのかもしれない。ただ、自分が何の為にハンターになり何よりも蔑む金持ちの飼い犬になろうとしているの を知っている者であれば。 偶然、気紛れ、暇つぶし。ヒソカにすればそんな所だろう。 頭では判っていた。 普段のヒソカを知る者が見れば目を疑うほど、自分に対しては優しい。 耳元で囁かれる言葉に何を答えるでもなくぼんやりと考えに沈む相手に気分を害した風もなく、ただゆっくりと労わるよう に髪を梳き、穏やかな眼で見つめている。 「どうしたの?」 見つめ返せばそんな言葉が聞こえる。 どうして自分などを好きだと言うのか。 なぜ自分はココに居るのか。 こんな時間を過ごす度に何時も湧上ってくる疑問。 そして、いつも答えは出ない。出したくない。 ゲーム化なにかのつもりだろと思った。そうでないなら何かの罠か。 けれど好きだと言われて心が動いた。 優しくされて、弱っていた気持ちが揺らいだだけだと思った。 でも、抱き寄せられた腕の中は暖かかった。 敵にまわしたら厄介だから、情報を持っていそうだから、何を考えて自分に近づいたのか確かめないといけないから。 まるで言い訳のように理由を考えて傍に居ることを、居たいと思う自分の気持ちを納得しようとした。 理由がある。大丈夫、別に居心地の良い腕に溺れている訳じゃない。 だけど耳元でもう1度名前を呼ばれて何も考えられなくなった。 「何か悪いことした?」 胸が苦しい。 「なんで泣くの?」 いつまでこうして居られるのだろう。 どうしてあの時逃げてしまわなかったのか。 魔法でも掛けられたみたいに、眼を逸らすことも出来なかった。 ヒソカの事だから魔法じゃなくて呪いだったかもしれない。 どっちにしろ、奇術師にふさわしい鮮やかさだった。 指一本動かせないまま、接吻けられたら立っていることすら出来なくなった。 魔法はいつか解けるのだろうか。 その時自分はどうするのだろう。 「お願いだから、泣かないで」 優しい接吻け。頬に額に瞼に静かに触れる唇。 「好きだよ」 涙が止まらない。 別にヒソカを好きなわけじゃない、だからこの言葉が嘘でも平気。 なのに胸が痛い。 たとえ言葉だけでも好きだと返せば、消えるかもしれない痛み。 でも嘘をつくのは嫌だから好きだなんて言わない。 背中に腕を回して抱きつけば抱きしめ返され、ゆっくりと唇が重なる。 珍しくも自分から唇を開いて深いキスをねだれば直ぐに器用な舌が滑り込んできて意識を奪う。 何も考えたくなかった。 熱に浮かれたように頭の中が白くなり、自分の身体ではないように全身がヒソカに向かって反応する。 気絶するまで抱かれれば、次ぎに眼が覚めるまでは何も思い悩まず眠ることができる。 今だけ、全てを忘れていたかった。 魔法は、死ぬまで覚めなければ本当になるのだろうか。 「好きだよ」 嘘吐き。 「本当だよ」 信じない。 魔法は、いつか覚めてしまう。 だからそれまで、ほんの少しだけ、ここで……。 END |