| ーーー縛られる程に愛されたいーーー 「みーつけた」 聞き覚えのある声がした。いつも何かしら楽しげな、というのが誉め過ぎならば何か企んでいそうな様子ではあ るが、この感じではいっそ「はしゃいでいる」という表現が適切であろう。 自分に指定された日付まではまだ間があり、別段捜されるような覚えも無いからここは関らないのが得策。 そう思って立ち去ろうとするが、どう考えても相手は自分の方へ向かってきている。 「よかった遭えて。やっぱりボクは運がいい」 いったい何を言っているのか、いやなんの用なのか。 「……私が指定されたのは9月1日だと思ったが?」 オークションの日付が変更になった、という話は聞いていない。 そんな疑問を声ではなく表情に表して問えば 「うん、だからこんなに早く遭えると思ってなかった。ホントに良かった」 ニコニコと笑う顔は本当に楽しそうというか嬉しそうで思わず良くないモノでも食べたんじゃないのかとなどと考 えてしまう。 「君にはああいう思わせぶりな態度の方が興味を持ってもらえるかと思って日付と場所だけ指定したんだけど、 やっぱり早く遭いたくなっちゃって、まだ来てないかな?って思ったけどとりあえず来ちゃった」 さっきから本当に何が言いたいのだろう。 思わせ振りな態度の方が私が興味をもつ? はやく遭いたかった? 自分に? ヒソカが? 「ゲームをしようか?」 唐突な言葉に、けれど納得してしまう よほど退屈していて、けれど暇つぶしの相手も見つからなかったというところか。 「条件によるな。私のメリットは?」 関らないのが得策。でも、敵に回すのはもっとマズい。 「ルールは簡単。ボクが今から広場で客を集めてショーをする。そのタネがわかれば君の勝ち。わからなかった らボクの勝ち。負けた方が勝った方の言う事を聞く」 つまり勝ったら9月1日をまたずに情報を得られる。 でも、負けた場合は… 「心配しなくても命とか体の一部をくれとか言わないよ」 やっぱり退屈していただけだったかと思い、メリットとデメリットを秤にかけて結局 「わかった」 そう答えればひどく嬉しげに笑って 「約束だよ」 などと返された。 そのまま街の中心部に在る広場へと引きずっていかれ、もとからあまり勝てると思っていたわけではないが、そ れでもひょっとしたら、などと期待したゲームに けれど、というか案の定、負けた。 ショーとしてはとてもオーソドックスだった。 集まってきた客の中から一人を選んで、シートをかけて、カウントダウンをし、その場から消す。 一瞬のうちに移動した客が、客の輪の外から帰ってくる。 普通に屋内でやるなら何かのセットがある。 屋外でも場所を選ぶか、もしくは予め相手の客がサクラか。 でも、場所を選ぶ姿は見ているかぎり無造作と言ってよく、あまつさえ 「誰がいい?」 そう言って自分に客を選ばせた。 この段階で、すでに諦めてしまっていた。 これだけ自信を持っていると言う事は、時間無制限という条件ならともかくこの場でどう頭をひねっても解答に はたどり付けそうもなく、また意地になったところで意味はない。 だから、せいぜい潔く両腕を挙げて負けを認めれば 「ボクの勝ちだよ」 嬉しそうな声で言われた。 まるでずっと欲しかった玩具を買ってもらえる子供のようなはしゃぎぶりに、いったい何を要求されるのか と思えば 「一緒に暮らそう?」 などというとんでもない言葉が返ってきた。 「……は?」 自分でも間が抜けているとしか言えないような顔で、それだけ言うのが精一杯だった。 「クラピカ」 初めて彼に名前を呼ばれた。とても普通に、当たり前みたいに。 「好きだよ」 何を言われたのか解らなかった。 「本当だよ」 見た事がない程、優しげな表情。何時もの、どこか人を嘲るような皮肉ゲな笑ではなく穏やかな、そう、慈しむ、 といっていいような笑顔。 「ボクが嫌い?」 たいして長くもないハンター試験の最中に嫌われる、さもなければ恨まれるのならともかく好かれるようなことをした 覚えがあるのだろうか。 「一緒に居よう?」 沈黙したまま動かずにいるのを、いったいどう解釈したらそんなとんでもないことが言えるのだろう。 「好きだよ」 伸ばされた手が頬に触れる。思ったより暖かい。 「泣かないで」 また、良くわからないことを言う。泣いてなんかいないのに。 「びっくりした?」 確かに驚いた。でも、別に泣くような事じゃない。 何時の間にかひどく近い位置にある顔を見れば、先刻と変わらず穏やかな表情がある。 「好きだよクラピカ。ボクのこと嫌いじゃないなら一緒にいて?」 繰り返される言葉。なんとも思っていない相手にでも告げられれば心が動く言葉を、ひどく気になる相手から 優しく囁かれる。 「今すぐじゃなくていい。ボクを好きになって?」 Yesと言ったわけじゃない。 でも、Noとも言わなかった。 だって、これはゲームの結果。 自分に拒否する権利は、ない。 NEXT BACK |