狂夜忘
また夜がきた・・・惨劇を思い出す事しか出来ない、恐ろしい夜・・・
「っ・・・・!」
だめだ・・・体がついていかない。
ずっとあの惨劇を思い出して、体と心がそれを拒否する。
夜が怖いのではなく、私は闇が怖いのだ・・・・。
・・・あの時も、真っ暗な中で討ち捨てられた同胞の遺体を見つけたから・・・・
「はぁっ・・・・!」
心臓が脈打ちすぎて、もう胸が張り裂けそうだ。
過去の記憶を、頭に閉じ込めようとするのに”闇”が強引にそれを掘り起こそうとする。
その記憶を拒んで、体が異常に怯えてしまって。
瞳までも緋色に染まって・・・
「んっ・・・はぁ・・・!」
もう嫌だ・・・!あんな記憶に揺れないように、心を潰したつもりだったのに・・・!
「っ・・・・!」
胸を掴んで、布団の中で丸くなった。
苦しそうに喘ぐクラピカに合わせて、体に掛かった布団が上下する。
・・・体が過剰に反応しすぎる・・・・
暗所恐怖症という言葉では、例えられない程に。
「・・・・っ・・・!」
夜なんて必要ないのに・・・!
夜なんて、この世から消えてしまえばいいのに・・・!!
自然に頬を涙が伝っているのに、気づくことさえできない。
視界は全て血の色に染まり、夜の闇色と混ざってあの時の惨劇を余計に鮮明に、瞳の裏に思い起こさせる。
5年間ずっとこの苦しみを味わってきた。
毎夜、毎夜、何度も息を切らしながら瞳を緋に染めて。
そんな私を仲間に見られたくなくて、夜は電気を眩しいくらいに灯して「読書をする」と偽っていた。
・・・別に本を読んでいなかったわけではない。
嘘をつきながらも、しっかりと読書はしていた。
毎夜起こる発作のような事態を忘れられる気がしたから・・・。
それでも、そんな願いは皆無だと、もちろん気づいてはいた。
どんなに記憶を紛らわそうとしても、体は正直に反応してしまう。
闇を少しでも感じたとたん、すぐにそれは発作を起こし始めるのだ。
心臓は激しく鼓動を打って、瞳はあっという間に真っ赤に変わり、自分はよろよろと布団に倒れ込む。
・・・それが、毎夜毎晩、これからもずっと続く・・・
ドサッ
机にちょこんと置いた本が、大きな音を立てて床に落ちた。
ペラペラと紙の音を鳴らしながら、どこかのページを開いたままそこに留まる。
そんな音も、クラピカにはもちろん聞こえていなかった。自分の喘ぎで、周りの小さな雑音なんてもうまったく聞こえてこない。
「ふぅ・・・・ぁ」
あとどれくらいで夜は明ける?
この苦しみに耐えるには、もう体が記憶についていかない・・・・
「クラピカ・・・・どうしたの・・・!?」
不意に背中から聞こえた、誰かの声。
胸を抑えた両手を離して、声の主を振り向いた。
「キ・・・ルア・・・・」
涙でにじんだ視界に映ったのは、愛しく想う私の大切な人。
「苦しいの・・・?」
尋ねながらキルアはそっと近づいて、クラピカの頬に右手を添えた。
きめが細かく、透き通った肌が、今は涙で濡れて今までと違う雰囲気を漂わせている。
「・・・ルア・・・助っ・・・けて・・・!」
何も考えず、ただ必死にキルアのか細く筋の通った首に腕をまわした。
キルアは少し
だけ驚いた表情をして見せて、困惑したように状況が読めないこの状態を理解しようとこちらを向いた。
「も・・・っ・・・嫌・・・」
自然に唇が重なったのは、キルアが私を助けてくれそうな気がしたから。
もしかして、この人なら私の痛みを解ってくれるかもしれない。
でも、苦しみや感情を押し付けるつもりはない。
彼を束縛することなんて、私には出来ないから・・・。
「っ・・・ん・・・」
まるで、今までの苦しみを忘れようとするかのように、むさぼるように自らの舌を彼の舌と絡ませた。
舌で彼の口内を侵し、恋人同士がするような、愛し合う二人がする、深いキス・・・。
「はぁっ・・・」
やがて二人の唇は離れて、すぐさまクラピカはきつくキルアの華奢な体を抱きしめた。
「クラ・・・ピカ・・・・?」
何事かと、キルアは戸惑いがちな声を漏らしながらも、優しくクラピカの背中を抱きしめ返した。
「もう・・・嫌だ・・・・!夜な・・・んて・・・ひつよ・・・う無・・・のに・・・」
クラピカの瞳が、もうすでに元の茶色に戻っているのを、キルアは目の端で見た。
キルアは理由を聞こうとはしなかった。
ただ、クラピカのいきなりの行動に、無言で語りかけながら応じてくれた。
そんな無言の声をクラピカは、胸の中だけに聞いた。
――もう、苦しまなくていいよ――
そう話しかけられているようなリアルな声を、頭の中で聞き取った。
彼は気づいていなかった。闇に触れても、もう体は反応をしないことを。
あの記憶に、瞳が緋色に染まらないと言う事を。
・・・5年間の痛みが、たった一人の少年に打ち消されようとは、まるで思いもよらなかった・・・
――きっともう・・・夜になっても怖くない――
fin…
この小説、題名を”狂夜忘”と書いて”きょうやぼう”と読みます。なんか字を見るとかっこいい気がして、こんな名前をつけてみました。・・・が、中身はとんでもに
ないです・・・(汗)意味不明だし・・・(泣)でも、とにかくクラピカが夜を怖がっている小説を書きたかったので・・・・。なん
かセクシィーじゃないですか?怯えて布団に潜り込むクラピカって・・・。そう思うのって私だけ・・・?