by 夢缶様





うーさぎうさぎ なにみてはねる?



おつきさまのうさぎ えぴろぅぐ


「・・・・あ、楊ぜん・・・くん?」

 ふいに、後ろから声をかけられました。

 振り向くと、そこには月明かりに照らされた一人の青年が立っていました。空色の少し癖がある髪に、天使を思わせる輪が浮いています。そして、綺麗な淡い菫色の瞳が、優しい微笑みを浮かべながら、こちらを見つめています。

「あなたは・・・・」

「普賢真人です。初めまして」

 楊ぜんの師匠と同格の十二仙でもある普賢真人ですが、見た目は、楊ぜんとそう変わりない年齢のように見えます。

「いえ、こちらこそ・・・」

 丁寧にお辞儀をして、そのまま二人は一緒に歩き出します。

 どうやら、目的地は一緒のようです。そして、二人は玉鼎真人、もとい楊ぜんの家の前までやってきました。出迎えたのは、玉鼎さんではなく───・・・。

「おぉ!ご苦労だったのぅ!!・・・・ん?普賢ではないか!!」

「師叔、お客さんですよ」

「望ちゃん、遊びに来たよ」

 笑顔で出迎えたのは、太公望でした。



「普賢さんっ!今晩わッス!!」

「やぁ、四不象。元気?」

 今宵、楊ぜんの家には玉鼎、四不象、普賢、楊ぜん、そして太公望の5人がいました。

「良く来たのぅ普賢!」

「別に、そこまで苦労して来たってわけじゃないよ」

 太公望と普賢は幼なじみなので、とても仲が良いのです。二人とも屈託無い表情で会話しています。

「それにしても望ちゃん、良かったね。元の姿に戻って」

 そうです。太公望は、普賢と同じ目線で会話していました。もう、間違っても5歳児に間違われることはありません。ちゃんと、十代のお兄さんに見えますー・・・それでも、十分若いのですが。

「まぁのぅ!願いはちゃんと3つ叶えられたしの〜〜〜」

「別にご主人が威張ることじゃないッスよ!楊ぜんさんのおかげッス!!」

「そうだね。そのおかげで僕も黄布力士なしでこっちに来れたし」

 

「まさか、楊ぜんの願いが、

    『月と崑崙山の間に〈橋〉を架ける』なんて願いだとは、思ってもみなかったぞ」



 そう、最後の3つ目の楊ぜんの願いは、月と崑崙山の間にいつでも行き来できる〈橋〉を架けることだったのです。この〈橋〉は数分で行き来できる上、特別な乗り物もいりません。

 おかげで、ひとつ屋根の下というわけではありませんが、喜媚は毎日四不象に会えるので、大喜びです。最近では、結婚式場も新婚旅行先のホテルも、もう予約済みというウワサも・・・(四不象本人は否定しています)

 そして、太公望はというと────・・・・。

 あれだけ帰りたがっていたのに、原始天尊にこき使われるのがイヤだといって、あっさりこっちに残ってしまいました。

今は楊ぜんの家に転がり込んでますが、もう少しで自分の家を見つけるそうです(ちなみに、四不象も一緒に住むそうなので、ペットOKの所を探さなきゃ行けないそうです)

 太公望曰く、「いつでも帰れると思ったら、帰る気を失くした」そうですが・・・。

「あ、これ原始天尊さまが、玉鼎にって」

 普賢が丁寧に包んだおみやげを出しました。中身は、崑崙名産まんじゅーでしょうか?

「あぁ、すまないな。しかし、太公望が来てから、何かとこの家も賑やかになったものだな──別にこのままこの家に住んでも良いのだぞ?」

「師匠、甘やかさないでください。そんなこと言ってたらず───っとタダ飯食べに来ますよ、師叔は」

「失礼だのぅ。早く茶でも入れてくれ」

「はいはい」

 ・・・どうやら、太公望が元に戻っても、あまりこの二人の関係は変化ないようです。

 手早く楊ぜんがお茶を入れると、いい香りが湯気と共に辺りに広がります。そしてテーブルの上には5つの湯飲みが並べられました。

「わしの、ちょっと量が少なくないか?」

「おかわりしていいですから」

「おいしいッス〜〜〜」

明るい笑い声が響くのを、台所で夕飯の準備をしている玉鼎さんは、とても幸せそうな顔をして聞いていました。ちなみに、夕飯のメニューは玉さん特製の果物料理のようです。

「師匠、僕も手伝いますよ」

 夕飯の仕度を手伝おうと、楊ぜんがテーブルを離れてやってきました。

「いや、おまえは皆と一緒に待っていればいい」

「でも5人前は大変でしょう。僕も何か作りますよ」

 玉鼎さんは、ゆっくりと微笑みかけて、小声で呟きました。

「───・・・嬉しいものだな」

「え?」

「こうやっておまえが、仲間に囲まれているのを見ると──嬉しいものだな」

「・・・・師匠」

 楊ぜんは、自分が『天才』と呼ばれながらも、本当はずっと独りだと思っていました。

 玉鼎師匠以外の人間に、心を開いたことはなかったのです。

「以前(まえ)のおまえなら、きっと、一番効率のよい方法を考えていただろうにー・・・誰かの為に「願う」ことが出来るようになって、私は本当に嬉しいよ」

「・・・」

 玉鼎さんの言葉を、楊ぜんはちょっと複雑な顔をして聞いていました。嬉しいような、歯痒いような、くすぐったいような・・・それらがまぜこぜになった表情で。

「さ、ここは私に任せて、皆とゆっくりしておいで」

 そういって、楊ぜんを促すし、再び目の前の食材と向き合って、

「よし!」

 と腕まくりをして、気合い新たに料理に取り組んだのでした。



 ──ただ、自分は、確かにあの時、思っただけ。「ここで、一緒に」と。



「太公望師叔は本当に月には戻らないのですか?原始天尊さまに何を言われても知りませんよ?」

「ふん!どーせあのじじぃの所に戻ったところで、今まで通り玉虚宮の廊下磨き・原始天尊さまの部屋の掃除!修行だあーだこーだ、めんどいことばっかだからいーのだ!!」

「ご主人の怠け癖には愛想が尽きるッス・・・」

「望ちゃん昔から掃除嫌いだったもんね」

 楊ぜんは小さな溜息を一つ吐くと、ゆっくりとお茶を一口飲みました。じんわりと身体が芯から暖まっていくのを感じます。

「・・・・楊ぜん」

「はい?」

「おぬしこそ、本当にこれで良かったのか?」

 じぃっと、楊ぜんは太公望の碧の瞳を見つめました。真っ直ぐな目線で。

「こんなことをせずとも、わしだけ月に帰すとか、喜媚の願いを無効にするとか・・・他にいくらでも思いついたろうに──「天才」のおぬしなら」

「・・・・僕は自分が一番良いと判断したことを言った迄です。それに──」

「・・・それに?」

「師叔は、こっちにいたそうでしたから」

「・・・何ぃ?」

「図星でしょう?」

「ダァホっんなことあるワケ─・・・・」

「でもボク、月よりこっちにいる方が楽しいッス〜!」

「そりゃあフィアンセが出来たもんね〜」

「それはスープーだけであろうがっ!!」

「でも、望ちゃんだって、いっつもこっちの世界に来たい来たいって言ってたじゃない?」

「う!!」

 天使の笑顔でツッこまれたら、流石の太公望も二の句が繋げなくなってしまった様子。

「だってこっちの世界だったら、僕らが月に住んでるから見ることが出来ない──空に浮かぶ満月だって見えるしね」

「そうッスね!ここから見える月はホンットにキレイッスよ!あっ!月の模様ってうさぎが餅をついてる様に見えるっていうのもホントだったッス!!」

「月にはうさぎが住んでるっていうおとぎ話もあるもんね」

「さしずめわしらがうさぎになるのかのぅ?」

「落っこちてきましたけどね、月から」

 

 うーさぎうさぎ、なにみてはねる? つきみてはねる おつきさまのうさぎを見てる



「覚悟しておれよよ〜ぜん〜〜毎日タダ飯喰いに来てやるぅ〜〜〜」

「それじゃ今までと何も変わんないッス!?」

「・・・覚悟しておきますよ。太公望師叔」

 一瞬。楊ぜんが嬉しそうな笑みを浮かべたのを見て、普賢もまた微笑みました。



「そういえば、妲己の願いって結局なんだったんでしょうね?」

残った小さな疑問が、ふっと楊ぜんの頭に過ぎりました。

「わしもあまりよく聞き取れなかったが・・・あまり害はなかろうよ」

「あの妲己があぁまでして、一体何を願ったんでしょうか?」

 う〜ん、と考え込んだ二人。まさか、妲己が、

「♪♪♪」

「妲己姉様───っ!!いつまで体重計乗ってるの──っ!?」

 その日一日中、以前より2キロ分後退した体重計の針を見てご機嫌だった事実は、妲己の二人の妹たち以外は誰も知らないのでした。



 とっぷりと夜も更け、おつきさまも大分高く高く上った頃。

 玉鼎さんの手料理をたらふく食べ、前ならこくこくとこっくりをうっていた太公望ですが、今はもう全然平気なようで、楊ぜんがおつかいしてきた桃を、デザートとして食べていました。その時、

「あっ!そうだいけない忘れるトコだった!!」

 急に普賢がまたごそごそと、先程玉鼎さんにあげたものとは別の包みを取り出しました。

「原始天尊さまから、望ちゃんにって預かってきたんだ」

 最初は訝しがっていましたが、普賢に促されて、渋々包みを開けました。中身は、

「おおっ!!桃マンだ〜〜〜vvv!!」

 ほこほこ出来たての桃マンでした。桃が大好きな太公望は勿論桃マンだって大好きなのです。

「ふっ原始のじじぃもたまには気が利くではないかっ♪」

 ぱくん、と食いついて、もごもごと美味しそうに頬を膨らませていた太公望、それにつられて、皆が手を伸ばそうとした、その時──!

 ぽんっ!!というなんだか昔の変身少女アニメの様な音が聞こえたと思うと、さっきまで確かにいた太公望の姿が見あたりません。

「望ちゃんっ!?」

「師叔っ!?」

「ご主人っ!?」

「・・・〜〜〜ここだっ・・・・!!!」

 声のした方を見ると、そこには、

「あ」 

「・・・・」

「ご・・・ご主人・・・・?」

 そこには、あの時、月から落ちてきた時と、同じ姿の太公望がおりました。

 プラス うさぎ耳付きで。



「あぁんのクソじじぃ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」



 後は、満月だけが ひたすら楽しそうに 地上を照らすのみ



 おつきさまのうさぎ なにみてはねる? ほしみてはねる あおいあおいほしみてはねる




                         rabbit of full moon fin. ?


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作者様のお言葉 / よ・・・ようやく、終わった・・・作者妄想全壊の・・・半年がかりの作品が・・・終わった・・・。耳付きとかもう暴走しまくってすみません。でも、終わっても何しても太公望のうさ耳かわいいんですようっ!!(いっそ冥王星まで逝ってしまえ自分)これからは細々と封神書きながら、オリジナルの方の小説を書こうと思っています。もしよかったら読んでやってください方野さま・・・。それでは、大変失礼致しました〜〜〜(超×脱兎)

方野の感謝の言葉 / ハッピーエンドでとてもよかったです〜。読んでいるこちらのほうまで幸せな気分になりました。それにしても玉鼎さんの料理している姿って妙に似合う……。夢缶さま、素敵な小説を読ませていただいて本当にありがとうございました! 封神もオリジナルもぜひ書いてください! 楽しみにお待ちしております〜!