ごちゃごちゃして面倒くさいのがきっと嫌いなんだろうなと思う。 同じクラスになり、友人と馬鹿話をしているときにふと目を上げると偶然目があって、空気のようにさりげなく逸らされた視線に他の誰とも違う印象を受けた。それが始まり。 最初の印象どおり静かな男だった。必要のないことはあまり言わない。成績はいいらしいがいわゆるガリ勉タイプともどこか違って、授業中にぼんやり窓の外を眺めていたりする。クラスメイトはみんな奴とは距離を置いていて、それでも嫌われているわけでもなかった。淡白でクールで滅多に笑わない。陰で女にはモテていた。 こういう男もいるんだなと思った。楽しいことなんて何もなさそうな顔をして、かといってつまらなそうに見えるかと言えばそうでもない。印象はただひたすらに静か。周りの誰とも違う。 「藤沢ぁ」 目の前で眠る男の顔はやはり静かで、起きているときと眠っているときの印象がこれほど変わらない人間も珍しいと思う。 手に触れても、抱きしめても、あまり表情を変えない。なんでこんなに変わらないんだよと。 締めつけられるように思う。何をしてもどうでもいいなら、俺以外でも同じなら、俺はいったいどうしたらいいんだろう。他の誰にも会えないように閉じ込めたらいいのだろうか。他の誰も触れないように。 「重いよ、立川」 目を覚まして一番はじめに言う言葉がこれだ。愛がない。 「お前起きるの遅いよ」 藤沢が身体を起こした。時計で時間を確かめて、お前が早すぎるんだとぽつりと言った。 「まだ六時じゃないか」 「え、まだそんな時間?」 「ちゃんと見ろ」 藤沢は小さく笑った。俺は泣きたいような気持ちになってそれでも何とか笑い返す。 本当はもっと強く抱きしめて、いつも一緒にいて、もっと触っていたい。 だけどそうしない。べたべたぐちゃぐちゃしているのはきっと嫌いだろうと思うからだ。 本気で好きだと言われるのも、しじゅうそばにいられるのもきっと面倒くさくてうっとうしいだろうと思うから。 だから俺も同じように淡白なふりをして、あまり重要でないふりをして笑って流す。いろいろなことを笑ってなかったことにする。遊びのようなつきあいを。 「俺のこと好き?」 藤沢が立ちあがって窓を開ける。朝の爽やかな空気に紛れるように冗談めかして問いかける。 藤沢が振り返った。朝の似合う男だと思った。その男がまた静かに笑った。 「ああ」 思いがけない答えに目を見開いてしばらく固まった俺は、最高に爽やかな朝の似合わない男だった。 |
| あとがき / 3部作(?)のラストです。どうコメントしてよいのか微妙な話で……最短記録を更新か、というくらいですか。 |