既に切れた携帯電話を片手に長谷川和はしばらく黙ったままそのディスプレイを見つめ、やがて小さく首を振ってベッドの上に放り投げた。 窮屈なネクタイを外すとそれも同じように放り投げる。仕事で遅くなった日にはたいてい食事も済ませてくるから家に帰ってもシャワーを浴びて眠るだけだ。何もよけいなことは考えず、ただ同じことをくり返す機械のように横になって眠るだけ。 着替えようと、シャツのボタンを二つ外したところでふと手を止めた。 「わっかんねぇよな……」 女の気持ちはつくづく謎だと彼は思った。かつて則子が別れを切り出したときもそうだった。そのときも彼女が何を考えているのかわからなかった。だがその気持ちは今は少しはわかる。もしも自分が女だったら――実際女でない以上こんな仮定に意味はないのかもしれないが、もしも自分が女だったら、やはりこんな男とは付き合っていけないと思っただろう。就職もせず、だらしがなく、先のことなどまるで考えていないような、そんな男との将来は考えられない。 けれどその気持ちは理解できても、今しがたの電話をかけてきた則子の真意はわからなかった。 会ってほしい、と彼女は言った。二人きりではなく、別の男も交えて三人で会いたいと言う。別れる二ヶ月ほど前、彼女は会社の男と付き合おうと思っていると言い、その男を和に紹介しようとしたことがあるが、彼は行かなかった。そしてまるで何事もなかったかのようにその後二ヶ月彼女と付き合い、別れた。 理由を則子ははっきり言わなかったが、やはり会社の男のほうを最終的に選んだのだろうと思った。その同じ男を今また改めて和に紹介したいのだという。わけがわからなかった。 いったい何がしたいんだ? 昔の男と今の男を比べて満足したいのか。それとも男のほうが今更になって則子の前の男を気にし始めたのだろうか? いずれにせよ、和は会うことを承諾した。どうせこの週末には一度家に帰るつもりだった。兄の休日の土曜には家にいて、日曜に則子たちに会えばいい。別にたいしたことじゃない。何を望んでいるのか知らないが、顔が見たいと言うなら見せてやる。聞きたいことがあるなら答えてやる。ただそれだけだ。 急に眠気が襲ってきて、着替えないままでベッドの上に寝転がった。 今も昔も面倒なことは嫌いだった。眠っていてあらゆることが過ぎてゆくならそのほうがいい。自分を取り残して周りがいくら変わっていってもかまわない。 ただ誰かが起こしてくれるなら、それが自分の一番大切な人間であればいいと思う。誰の顔を思い浮かべるでもなく、ただぼんやりとそう思いながら目を閉じた。 |
| あとがき / 3ページって……短。何も考えずにシーンわけをしているので短いのはやたら短く、長いのはだらだら長いのです。でもたぶんこれが最短。 |